大阪芸術大学×URアートプロジェクトの現在地
これまでの歩みと、これから。

大阪芸術大学×URアートプロジェクトの現在地
これまでの歩みと、これから。

2014年にスタートした「大阪芸術大学×URアートプロジェクト」。プロジェクトを牽引してきた谷悟先生が2021年度から総合監修となり、クリエイティブディレクターに中脇健児先生が新たに就任しました。そのスタートから7年半、数々の試みがどのように実を結んできたのか、そしてこれからのアートプロジェクトが目指す方向について、2人の先生に聞きました。

まず最初は谷悟先生にプロジェクトのこれまでを語っていただきました。

谷悟教授(大阪芸術大学芸術計画学科/アートプロデュース研究領域)

アートプロジェクトの研究と実践を通じ、社会を揺さぶる芸術の力を追究。歴史遺産、地域資源を活かした企画に力を注ぐ。主な総合ディレクション、キュレーションに瀬戸内国際芸術祭参加作品「ノリとたゆたう」(豊島)、「未来記憶圏からの目覚め」(万博記念公園)、「なんばパークスアートプログラム」vol.1~10(なんばパークス)、「埴輪の体温」、「翠光を纏う時空」(大阪府立近つ飛鳥博物館近つ飛鳥ギャラリー)ほか多数。2014年から大阪芸術大学×URアートプロジェクトの総合ディレクターとして数々のアートプロジェクトを実施。2021年から総合監修としてプロジェクトを見守る。

「よそもの」だからこそできること

谷:現代アートの展示を行う場合、その多くはギャラリーや美術館など、アートを受け入れる体制が整った場所で催すことが一般的です。コンセプトに沿っている限り、どんな作品でも展示することには、ためらいを感じることはありません。しかし、このプロジェクトは、UR団地という生活空間にアートを持ち込むことになります。ギャラリーに展示するように物事を進めてしまうと、時として他者の空間へ土足で踏み込んでいくような行為になってしまう。私はプロジェクトの開始から「アートの名のもとに侵略してはならない」を合言葉に自らを戒めてきました。

では、その土地に暮らしていない私たちができることは何か。それは「よそもの」として、外からの目線でその土地の魅力を発見すること、それらをアート作品に昇華していく過程で、良いフィードバックを住民の方々にお返しすることなんだと思います。アートの専門用語に「サイトスペシフィックアート」というのがあるのですが、その意味である「特定の場所でしか成立させることができない表現」だと言い換えることができます。

場が引き出す土地の記憶

谷:その場の特性を活かしたアートを制作する、いわば「地産地消」のアート制作をするわけですが、例えば2019年にサンヴァリエ金岡で行った「スターハウスメモリアルパークシアター」では、こんなことがありました。団地内にスターハウスの間取りを再現した広場でイマーシブシアター=観客参加型演劇を行った時のこと。参加した住人の方々から「当時はこんなことが流行ったよ」とか、当時を知る人たちが色んな記憶を語ってくださったんです。「わしはここに50年住んどってな」って昔の話をしてくれる。こういうことって、団地に行ってすぐにできることではなくて、イベントでカフェをしたり、地道な信頼関係を醸成した結果、生まれる出来事なのです。アートが生きてきたプライドや尊厳を引き出すことで、住民の皆さんは生き生きとし、豊かな表情になる。また、一緒にプロジェクトを進めていく、私たちも深く考える機会が得られる。私はこれを「相互触発」と名付けているんですが、こうした瞬間が立ち上がってくるときはゾクゾクしますね。日本で最も著名なアート祭のひとつである「瀬戸内国際芸術祭」に参加したときも、地元の漁師さんと一緒にご飯を食べたり、饅頭を頬張ったりしながら、そこで暮らす方々に場の魅力をお聞きして、共に創っていった作品もありました。アートプロジェクトの経験は、総合ディレクター、キュレーターの在り方のみならず、私自身の生き方をも形成していると思います。

※「スターハウスメモリアルパークシアター」は記事もご覧ください

https://karigurashi.net/vidanchi/starhouse01/

https://karigurashi.net/vidanchi/starhouse02/

撮影:山里翔太
これからのアートプロジェクトに向けて

谷:「地産地消」のアートって、最終形態はやはり住みながら創っていくことなんだと思います。2014年、このアートプロジェクトが始まった際に作成した事業計画書の最後に「住む」という言葉を入れたのですが、その直感は間違っていなかったと確信しています。そのようなあり方も将来的に挑んで欲しいと思っています。

今回、泉南尾崎団地のプロジェクトで、中脇先生から定期便で団地内新聞をやりたい、という提案がありました。毎号毎号を作ってポスティングするのは大変ですが、見事にやりきってくれましたし、嬉しい提案でしたね。今後、しばらくは、泉南尾崎団地でアートプロジェクトを進めていく場合、住民の皆さんに少しづつ近づくという意味でもそれは大切なことだし、期待できると感じています。中脇先生は教え子でもあるのですが、まちづくりの経験も豊富で、人の懐に入っていくのが上手い人です。彼以上の適任はいないのではないかな、と思います。団地という器を通して、どのような新しいアプローチを見せてくれるか、非常に楽しみです。


次にクリエイティブ・ディレクターとして、プロジェクトの中心を担う中脇健児先生に、コミュニティデザインと泉南尾崎でのプロジェクトのこれからを伺いました。

中脇健児准教授(大阪芸術大学芸術計画学科/アートプロデュース研究領域)

「場とコトLAB」代表。伊丹市文化振興財団(2016年まで在籍)で地域連携プロジェクト「伊丹オトラク」「鳴く虫と郷町」を手掛ける。「遊び心」をキーワードに、アート、コミュニティプログラム、地場産業支援、教育、福祉など活動は多岐に渡る。近年はファシリテーションやワークショップの専門家育成にも努める。共著に『タウンマネージャー』『地域×クリエイティブ×仕事 ~淡路島発ローカルをデザインする~』(ともに学芸出版)。

ナナメの存在として

中脇:場作りやコミュニティデザインにおいては、「第三者」が果たす役割って実はかなり大きいんですよね。例えばどんな地域でも市役所や町役場があって、そこに人が暮らしています。行政と住民という二者でコミニュケーションする場合、「できる/できない」「いいか/悪いか」というような応答的なものになりがちです。お互いにそこが分かっているので、必要な時以外は交流を避けようすることもあります。しかし、コミュニティの事情を分かっている第三者が入ると、二者間で滞っていたコミニュケーションがぐっと流れ始めることがある。

中脇:ただ、第三者であれば誰でもいいわけではなくて、私は「ナナメの存在」であることも重要だと考えています。遠すぎず、近すぎず。地域の方々にとって「甥っ子」「姪っ子」ぐらいの立ち位置がベストだと思っています。自分の子どもにはついつい口うるさくなっちゃうけど、甥っ子や姪っ子には寛容になれたり、意見も素直に聞けるところってあると思うんですよね。それぐらいの距離感。もちろん、そんな風に関係性を築いていくのは決して楽なことではなくて、地域の方々に「こんにちは~」と挨拶しつつ、一方で観察を重ねつつ地域に分け入っていく。大変だけど、そこがコミュニティデザインの面白さでもあるんですね。

「最近そういえば…」を生み出していく

中脇:谷先生からプロジェクトのバトンを受け取ったわけですが、地域の魅力を掘り起こしながら、アートの力で見える化していく、という大きな枠組みは変わりません。ただ、これまでよりも継続的に時間をかけて地域と関わることに重点を置くため、アート作品をひとつ作り上げる、という方向よりも、コミュニティの変化に注目したものになると思います。

やっぱり人間って暮らしていくと合理化やルール化ができていくので、余白や遊びの部分はどんどん減っていくんですよね。昔は盆踊りとか運動会とか餅つきとか、いろんな行事が刺激を生み出していたのですが、それらが失われていく中で、現代的なお祭りの在り方を考えていくことも役割の一つだと思っています。

アートを通して、地域の方と継続的に関わっていくうちに、じわじわと変化を起こしていく。「最近そういえば、お隣さんと話す機会が増えたな」とか「最近そういえば、集会所が活気があるな」とか、気がつけばコミュニティがすこし変化している、というところをまずは目指したいと思っています。

海を見ながら

中脇:まずはこの泉南尾崎団地のカルチャーをもっと掴むところからかな、と思っています。泉州地域で活発な「やぐら」の曳行などもありますし、お祭好きかな、と思いきや、住民さんの居住歴も様々だし、そんな単純な見立てでは通用しないことを感じています。何がハマるか、これから見ていこうと思っています。ただ、一つ実感としてあるのは、海の存在。住民さんと話していても「冬は潮風がすごくて大変だよ」なんておっしゃるんですが、皆さんどこか誇らしげで。やはり海が居住の動機になっている方が多い。「団地を盛り上げましょう」と言うとき、ともすれば団地の内向きへと目線が入り込んでいく懸念もあるのですが、みんなで同じ海を見ながら、「やっぱりいいですよね~」なんて言いながら進んでいけるのであれば、風通しの良いプロジェクトにできるのかも、と予感しています。そういう意味でも、第一弾として「海・風・団地」をテーマにしたVlogを作ったというのは、すごく良いスタートになったと確信しています。

※2022年1月に行われた写真やVlogの見学会の様子や、制作されたVlogの詳細はこちらの記事で紹介しています。

https://karigurashi.net/article/artproject2021_02/

制作されたVlog「うみかぜ団地」はこちらからご覧ください。

https://youtu.be/DN4KgkJqKHI

イベント当日の模様をまとめたムービーはこちら。

https://youtu.be/FgQ65Z6rNP0

取材・文/松川祥広 撮影/助口優衣

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