2022年のアートプロジェクトから見えてきたもの
2023.02.13
2022年度の「大阪芸大×UR団地アートプロジェクト」について、前編としてイベント当日のレポートをお届けしました。後編はプロジェクトを進めてきた学生や先生の声をお送りします。
VOICE: 01
尾崎を巡ルンです担当/富澤さん(芸術計画学科2年)

ーーー住民の方に日常の写真を撮ってもらう、というアイデアはどこから?
最初に泉南尾崎を見学したとき、海はもちろんですが、自然が豊かで、のんびりとしたレトロな街並みに惹かれるものがありました。私たちの世代ではフィルム写真の質感が流行っているので、住民さんの手でフィルム写真を撮ってもらえたら面白いだろうな、と思ったんです。観光パンフレットに載せるようなものではなく、ごくごく普通の日常を見てみたかった。誰しもカメラを持つとちゃんと撮らなきゃ、と思ってしまうので「まばたきするぐらいの感覚で、どんどんシャッターを押してください!」と、全力で伝えました。


ーーー出来上がった写真はどうでしたか?
フィルムならではの「粗さ」がすごく引き立っていて、とても素晴らしい写真が集まりました。明るさが足りずに失敗している写真もありましたが、そこに息遣いが感じられて、いいなと思いました。あとは、同じ「写ルンです」を配っているのに、人によってこうもちがうのか、と驚きました。海を撮る人、自然を撮る人、団地やお店を撮る人、早朝や夕方など撮った時間もバラバラ。並べると色が全然ちがうんです。住んでいる方だからこその写真だな、と感じました。


ーーー団地の一室を使って写真の展示を行いました。実現した気持ちは?
展示空間として団地の部屋を使うというのは、構想当初からハードルの高さは感じていました。ただ、泉南尾崎の日常を撮った写真は、同じ生活空間で展示してこそ伝わる、と確信していたので、最後の最後まで粘りたいと思っていました。本当に運良く利用できる部屋も見つかり室内展示が実現しました。前日にみんなで写真を飾り終えたとき「この展示はすごくいいものになる」と実感しました。当日は思った以上にたくさんの人も展示を見に来てくださって、本当に良かったと思います。



VOICE: 02
“ウチらのファッションショー”担当/向井さん(芸術計画学科3年)

ーーー団地でファッションショーというアイデアはどこから?
泉南尾崎団地は海に面していて、何より強い印象を残します。海辺で話しているときに誰かが「ここでファッションショーやりたいよね」と言ったのが始まりです。最初は住民の方からも服を提供していただいて、学生の服と住民さんの服をミックスするイメージだったのですが、敷居を下げるために学生の服を着ていただく形に早々に切り替えました。
いつもとはちがう衣服を身にまとうことで、色々な会話が生まれますし、高齢者の方にとっては「もう一度ファッションを楽しんでみよう」と思うきっかけになれば、と企画しました。



ーーー工夫した点はありますか?
服を着替えて写真を撮る、というのはいきなり声をかけてできるものではないので、本番までに2回テスト撮影会を実施したり、広報紙「うみかぜ通信」をこまめに作成して配布したり、住民の方との関係作りや認知度アップを心がけました。
私のメイン担当は撮影。ポートレートは自信があったのですが、4人~5人の集合写真となると配置や構図を考え直さないといけないので、とても勉強になりましたね。テスト撮影会含め、回を追うごとに住民さんもノリノリで参加してくれるようになり、すごく嬉しかったです。



ーーー今回は全体リーダーも務めたそうですね。得たものはありますか?
チーム内で前年度のアートプロジェクトを体験しているのが私だけだったので、自然とリーダーを務めることになりました。比較的視野は広いタイプだと思うのですが、気づいていても「そこお願い」とすぐに指示を出せなかったり、自分のいいところや反省点を見つめる機会になったと感じます。また、どの企画もゼロから自分たちで考えて組み立ててきたものなので、プロデュースする力がついたな、と感じています。前年度から引き続き「うみかぜ通信」のデザインや制作も行いました。作業量が多くてとても大変でしたが、団地で通りすがりに「見てるよ~」と声をかけてもらったりして、「伝わっているんだな」と実感できましたね。


VOICE: 03
“焚き火音楽祭”担当/金藤さん(芸術計画学科2年)

ーーー焚き火イベントを企画したきっかけを教えてください
最初にリサーチで団地を訪れた際、自治会長さんから色々な話を聞くことができました。住民の入れ替わりなどもあるが、なかなか交流する場がない、とおっしゃっていたことが印象に残っていて。「自然と人が集まれる場を作る」というイメージが生まれてきたところで、焚き火好きの住民さんに出会ったんです。尾崎の海岸に打ち上げられる流木を集めて焚き火を楽しんでいる、そんな話を聞いているうちに「団地で焚き火をする」、とつながりました。


ーーーどんなふうにプロジェクトを進めて来られたのですか?
まずはポスティングによる周知を繰り返し行いました。最初はチラシを手渡ししても反応はあまりなかったのですが、何度も団地を訪れるうちに「焚き火やるんだってね」と声掛けしてくれる方も増えてきて。8月にテストで実際に焚き火会を行って、住民の方の反応を探りました。夕暮れ時に団地ではどんな人の流れがあるのか、そこを観察して参加しやすいレイアウトや案内板の配置を検討しました。


ーーーテスト焚火会では外国人の方も参加してくれました。
リサーチの時に近年は外国人の住民さんも増えていると聞いていたので、チラシは中国語や英語でも読めるように工夫しました。ただ、ポスティングしていても外国の人に出会うこともなく、「来てくれるかな」と不安なところもありました。しかし、8月のテスト焚き火会にベトナムから来た若者たちが参加してくれて、翻訳アプリを使いながらコミュニケーションしました。嬉しかったですね。


ーーー焚き火音楽祭はどんなプログラムですか?
こちらで用意した焚火を自由に囲んでもらうのですが、ミュージシャンをお招きして、歌声に耳を傾ける時間にしています。途中にリクエストを受け付けたり、外国の人でも知っている歌を含めたり、敷居を下げてたくさんの人が参加できるものを目指しています。たくさんの人に集まってもらえたら、と思っています。
(インタビューは焚き火音楽祭の事前に行いました。)



VOICE: 04
改めて団地の魅力を発見する機会に 坂本さん(UR都市機構)

ーーー今回のプロジェクトで得たものは、どのようなものですか?
プロジェクト全体の振り返りは、終了後に改めて進めていくので、あくまで個人的な感想になりますが、ファッションショーで写真を撮っている姿が興味深かったですね。海を前に撮るのはわかりますが、階段やゴミ箱など素通りしてしまうような場所にロケ地としての格好良さを見出していて、見方を変えればまだまだ団地には面白い部分が隠れているのかも、と考えさせられました。
ファッションショーや写真の展示企画では自治会さんを中心に輪が広がり、これまで団地で築かれてきた人の繋がりを感じることができた一方で、テスト焚火会では、ご近所づきあいがあまりないという方が参加してくださり、人が繋がるきっかけをつくることの大切さを感じました。
あとは、何よりも室内での展示を実現できたのが良かったですね。地域住民さんが撮ることで、生活が見える写真が並びました。展示を見ながら改めて「団地っていいな」と魅力を再発見しました。


VOICE: 05
社会実装プロジェクトの面白さが詰まったプロジェクトに 中脇健児准教授(芸術計画学科)

ーーー今年度のプロジェクトはどんなふうに組み立てていきましたか?
前年度に「うみかぜ団地」というテーマでVlogを作りました。新型コロナウイルスのこともあり、住民さんと密にかかわることはできなかったので、今年度は状況が許せば対面で関われるものをやる、ということだけは決めていました。
4月にプロジェクトを開始。まずは自治会の打ち合わせや、棟長さんの会議に顔を出して、「こんなことやりたいんです」と地道にプレゼンするところから始めました。
実際に顔を合わせて話していると、やっぱり色んな話や反応をいただけて、「外国の人も少しづつ増えてきたけど、接点がなかなかないんだよね」とか「部屋で展示するとして、人、集まるの?」など、リアルな反応や思いがプロジェクトを作る上で、学生にとって大きな刺激になりました。

ーーー今年度は3つの企画が並行して実施されましたが、その理由やねらいは?
今年度プロジェクトをやるにあたって、2つ条件を設定しました。1つ目は本番だけではなく、準備の段階から住民さんを巻き込んで接点を作っていけるものにすること。2つ目は、リアルに人を集めるのはこの泉南尾崎では初めてなので、参加者がそれほど多くなくても成立できるものにすること、でした。学生たちからアイデアを募っていくと、今回の3企画が見えてきて。ひとつに絞るという選択肢もあったのですが「どれもできそうなら、やってしまうか!」と思い切って全部やることにしました。

複数の企画をやってみると、分かることもあります。例えば”ウチらのファッションショー”は、テスト段階で男性の自治会長さんや棟長さんが協力してくださったことから、その後も紹介で参加してくださる方も男性が多い傾向がありました。一方で焚き火や展示は外国人や女性が立ち寄ってくれたり、複数の企画があることで多面的な住民さんへのアプローチになったと感じます。言い換えれば、どういうスイッチを押せば、どういう人につながっていくのか、それを探る上で大きな学びがありました。


ーーープロジェクトの成果としては、どのように感じていらっしゃいますか?
最初に学生にとっての学び、という点からお話します。芸大の場合、何万人という規模の大イベントに参加する授業もあります。やっぱり大きいし派手なので、やってみたいという学生も多い。もちろん大きな規模感でこそ学べることも多々あるので、それはそれでしっかりやるべきなんですが、今回のプロジェクトのような小さい規模でしか学べないことも実はたくさんあるんです。
泉南尾崎団地の例で考えれば、私たち仕掛ける側=スタッフと、参加者=住民さんの垣根は限りなく低い状態。学生たちはイベントを運営する立場でありながら、団地においては外から来た「お客さん」でもあり、人生経験としても親子以上に年が離れた関係だったりもする。結果として、場に住民さん側からの「分からないことは教えるで」とか「何か助けよか?」といった主体的に参加する隙間が生まれます。ビシッと統制がとれている催しではないからこそ、新たな人間関係が生まれるんですよね。「ちゃんとしていること」だけが価値ではない、そういう部分に気づいてほしいですね。



ーーー団地にとってはどんな意義がありますか?
単純にこうして団地の暮らしを目の当たりにする、という経験がすごく重要だと思います。「高齢者が多い」とか「空き家がある」と書くと、字面だけで見れば「課題」として「対策」すべきと誰もが思いがちです。
泉南尾崎を訪れて思ったのは、出会う住民さんがみんな明るいし、おおらか。団地から見える堤防で釣った魚が晩ごはんになる、そんな話を聞いていると、「なんて精神的に豊かな暮らしなんだ」と驚きます。そうなると「課題」や「対策」というような言葉だけで関わるべきではない、と痛感します。アートプロジェクトを通して、関係する人全員が団地ひいては社会全体を捉え直すきっかけになれば、と思います。


プロジェクトとしては、団地に新たな価値を創り出して、それが自走した形で続いていく、というのが理想的なゴールです。「夏祭りを復活させる!」というと、なかなかハードルが高いですよね。しかし、今回のプロジェクトで行ったような「焚き火会」ぐらいの規模感であれば、団地の催しとして定着していく可能性があるのでは、と思います。団地を管理するURとしてもニーズがちゃんとあるところで、規模的にも大きくなければ支援もしやすいと思いますし、アートプロジェクトを通じて、新たな価値を見出すきっかけになれば嬉しいですね。


取材・文:うちまちだんち編集部 プレイベント写真:川嶋克 本イベント写真:渡邉敬介