京都宇治はやぶさ隊と行く
木幡池は愛鳥家の宝です!

[伏見東~桃山南シリーズ]

京都宇治はやぶさ隊と行く
木幡池は愛鳥家の宝です!

宇治で野鳥観察を続けて約20年。2020年春には地域の探鳥地を紹介した冊子『宇治でみられる野鳥』を発行するなど、おだやかな活動で愛鳥家を育んでいる「京都宇治はやぶさ隊」。

宇治川、大吉山、喜撰山など、観察拠点とする探鳥地は数々あるが、意外なのは京阪木幡駅から徒歩約5分の立地にある木幡池(こわたいけ)。桃山南団地 のご近所で、周囲はスーパーマーケットやドラッグストア、マンションなどがひしめく、にぎやかな住宅街。
これほどひとの生活にあふれた町に野鳥がやってくるの?
そもそも探鳥地の一つになるほど、たくさんの野鳥が集まる木幡池はどんな池なんだろう?
日々、その様子を見守る「京都宇治はやぶさ隊」代表の木村繁男さん(写真・右)と、隊員の小原一孜さん(写真・左)にお話を伺いました。


「活動を始めた時から毎年ね、1月4日は木幡池で鳥を見るというのを恒例にしているんです。というのも、新年はタカが見られたら縁起がいいということで」と、代表の木村繁男さん。
聞けば、冬の木幡池へタカが飛来することは実際に珍しくないそう。
さらに“魚鷹”の異名を持つミサゴが上空から急降下し、水中の獲物を捕らえる様子も冬の風物詩。その一瞬を写真に収めようと訪れるカメラマンも少なくないのだとか。

木幡池は、北池、中池、南池の3つの池からなる遊水池。
戦前の干拓事業まで京都最大の淡水湖として存在した巨椋池(おぐらいけ)の名残で、一帯が宅地化されるなか、とりわけ低地にあるこの場所だけがその姿を留めた。

「ここが一番低い場所ですから、周辺から水が集まってくるんです。北池の奥には排水機場があって、あふれた水はそこから山科川へ排水されるようになっている」。
そう話すのは、長年、木幡池の近くに暮らし、毎日その様子を観察している小原一孜さん。「2012~13年の台風の時に池を分断する道路が冠水したことがあって。排水機場のポンプの能力が足りなかったことが問題になって、5年ほど前から北池で浚渫(しゅんせつ)、つまり、貯水容量を増やすために池底の泥を取り出す作業がされるようになりました」。

ヨシ原や木立の間を水路が流れる北池。「探鳥のベストシーズンは冬。木々の葉が落ちて、茂みに隠れる鳥の姿が見つけやすいんです」と小原さん。

木幡池の特徴は、ひとつの池でありながらエリアによって環境が異なること。山手から堂の川が注ぎ込む北池は、ヨシ原と木立の間を水路が流れる。一方、中池と南池は浅い水面が広がる。
「中池や南池にやって来るのはカモ類など水鳥が中心。だけど北池には平野で見られるような小鳥たちも餌を求めて来るんです。木幡池全体では、年間70種類の野鳥が見られると思います。それだけの水鳥や小鳥を楽しめる場所は貴重。それも、この池は歩道沿いから見られるんです。住宅街の中にあって、わざわざ見に行かなくても、駅前へ買いものに行くついでとか、ちょっと散歩がてらとか、地元のひとにとっては気軽に立ち寄れる場所なんですよね」と小原さん。

北池と中池の間を走る道路は絶好の観察ポイント。
山手から北池に注ぐ堂の川。駅前の工場から浄化済みの排水が合流することで水温がやや高く、そのために野鳥の餌となる小魚がよく育つ好環境に。

“空飛ぶ宝石”として人気のカワセミが一年中見られるうえ、ときには他府県の野鳥ファンが訪れるほど珍しい鳥が飛来することもあるそう。「たとえば2009年にはノハラツグミ、2018年にはタカサゴクロサキという非常に珍しい鳥が北池に来ました。なかなか見られない鳥だから、関西一円、関東から訪れたひともいたくらいで」と小原さん。

木幡池で撮影されたカワセミ。写真提供:小原一孜

どの地域でも、棲息あるいは飛来する野鳥はおおよそ種類が決まっているもの。
「飽きてくるということはないけれど、地元で見られる鳥を見尽くしてしまうと、見たことがない鳥を見たい!という気持ちが高じて、遠方へ出かけていくひとがいるんですよね。僕もそうなんですけど(笑)」。

鳥の領域を侵さないよう、遠くからそっと観察するためには必須の双眼鏡。木村さんの愛用品はスワロフスキー社のもので、先輩隊員から譲り受けたものだそう。
双眼鏡をのぞく木村さん、後ろに広がるのは中池。

「京都宇治はやぶさ隊」は、地元宇治で月2~3回の観察会をおこなうだけでなく、珍しい鳥を見たいという隊員の声を受け、近年は神戸や三重、遠くは鳥取へ赴き、野鳥観察をおこなうこともあった。コロナ禍の現在はその遠征がかなわないけれど、初心者も数多く参加する隊ゆえ、野鳥観察入門のガイドブックになるような冊子を作ろうと『宇治でみられる野鳥』を制作。「これでちょっとでも野鳥に興味を持ってもらい、さらに環境にも興味を持ってもらえたらいちばんいいなぁという気持ちで」と木村さん。

活動スケジュールや隊員によるコラムや写真など、内容充実の『隼だより』は隔月発行の会報誌。約10年分の探鳥活動をまとめた『宇治でみられる野鳥』は一部100円で購入可。
隊員それぞれの観察報告は随時LINEで共有。冬は連日投稿が飛び交うほど、たくさんの野鳥が見られる。

実際に北池を歩いてみると、5月中旬のこの日はアオサギが川面から頭を突っ込んで魚を捕獲していたり、電線の上にはスズメではなくカワラヒワが高らかな音色でさえずっていたり。
木村さんと小原さんの案内で数分歩いただけで、野鳥園さながら多彩で美しい水鳥や小鳥を続々見掛けた。生活の合間ならきっと素通りしてしまうけれど、たとえば、聞き慣れないさえずりを耳にしたら、その鳴き声のありかを探ってみる。ただそれだけで、ありきたりの日常が少し違って見えるのだからおもしろい。

あそこ、あの電線の上、と小原さんが指差す先には…。
3本の電線のもうひとつ上、1本の細い電線の上の小さな点がカワラヒワ…って見えませんよね。
なので、こちらも小原一孜さんから写真をお借りしました。カワラヒワは黄色い帯の翼が特徴的。
こちらは、ゆったりとくつろぐコサギ。肉眼でもその様子がよくわかるほど、間近で野鳥を見られるのも木幡池界隈の魅力。

「野鳥観察は基本的に野鳥の生態を見る。観察するときは近寄らない、鳥の生活圏に入り込まないのがルールです」。そう話す木村さん率いる「京都宇治はやぶさ隊」は、地元の野鳥たちを愛でながら、彼らが暮らす豊かな自然を守ることも大切にしている。
「鳥を見てたらね、今からあの木の実を食べようとしているんだなとか、小鳥が桜の木にやってきたら花の蜜を吸うんだろうなとか、植物も大いに関係してくるんですよね」。

カルガモなどの水鳥が昼寝の場所にする南池。餌が少ないエリアゆえ、夜になると近くの宇治川へ移動し、活動する鳥が多いそう。

野鳥が心穏やかに休息できる場所であり、餌となる植物や水辺の生き物もたくさんいる木幡池は、駅近のにぎやかな住宅街とは思えないほど自然豊か。「京都宇治はやぶさ隊」の活動は、ふだん見過ごしがちな身近な場所にも思わぬ宝物があることを教えてくれる。

取材・文/村田恵里佳 撮影/沖本明 編集/竹内厚

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