団地のひとインタビュー 035
本物の愛好家にして団地ソムリエ。
けんちんがUR団地に出会ってからの話。 前編
2022.11.25
職員でもないのに(ないからこそ)、200人以上もの人たちをUR団地に住まわせた団地愛好家・けんちんさん。さらに氏は自主企画のイベントを行い、団地界隈以外のさまざまなマニア…つまり非団地フォロワーとも盛んに接触。「団地はカルチャーだ!」と訴え続けます。
誰に頼まれたわけでもないのにUR愛を背負ってUnlimited Road(おっと、略してUR)を突き進む男の「ナゼどうして」を聞いてみました。取材場所は、けんちんさんイチ推しのUR団地「片山公園団地」です。
けんちん
1980年生まれ。会社勤めをしつつ、団地をカルチャーと捉えて団地界隈以外にもその魅力を発信する。団地のなかでも特に好きな市街地住宅タイプを解説するブックレット『ゲタバキ団地観覧会』(八画出版部)も出版。「団地をARTに」を合言葉に、団地啓蒙活動にいそしむ団地愛好家集団「チーム4.5畳」メンバーでもある。
twitter:@kenchin
そうだ、友人を団地住人にしよう。
―自身もバンド活動をするけんちんさんは、お仲間の関西バンドマンのためにひたすら団地の家探しを代行されたんですよね。しかもUR団地に特化して。
2003年からの2年間で150人ぐらいの団地入居を……がっつり団地紹介をしていたのは2007年まで。最終的に200人ぐらいは団地に引っ越しましたね。
―なぜそんなことを……なんですが、まずはけんちんさんが団地愛好家になるいきさつを教えてください。
社会人一発目は会社の寮に入ったんです。その寮から出て、はじめてひとり暮らしをしようとなったとき、民間の不動産屋に行くのが怖かった。素人の自分は絶対に言い負かされるやろうな、と。フェアに住むならどこがあるかな、と思って辿り着いたのが公団住宅(=UR団地)で。
―フェアに住みたいから団地という選択は、なるほどです。
半年ぐらい毎日、公団のサイトをチェックし続けて、まず空くことがない・募集があっても瞬殺で埋まるSランク級の北堀江団地(※現在は解体)を掘り当てて。内覧に行くと、そこは1階から3階までは24時間スーパーで、4階からが団地という、市街地住宅と呼ばれるタイプの団地です。スーパーの上に団地があるなんて最高やん! しかも家賃も安い! と即決したんですけど、住んでから屋上に行ってみたら、屋上にブランコとジャングルジムがあることを知って。住宅に屋上遊具があるなんて日常考えられないから、これはなんや、と。
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―住人にならないと知れないオプションですね。
昭和30年に日本住宅公団を設立した初代総裁・加納久朗さんが、団地には必ず公園を設けることを定義付けているんです。場所は中庭か屋上ですね。屋上遊具は2006年頃に一斉に撤去されていくんですけど。で、自分が住む北堀江団地以外の屋上遊具も見てみたい……というマニア心が芽生えたわけです。でも団地はゲーテッドな場所だから勝手に入ったらアカン。どうしよっかな、と思ったとき「友達を住まわせたらいいんや」となって。

―ひらめいたんですね。
ちょうどそのタイミングで、僕の団地での暮らしぶりを見て「自分も団地に住みたい」って子がふたりぐらいいたんです。あっ、この方法使ったらイケそうやなって。そこから公団のサイトをチェックする日々。空き物件が出たら、団地に住みたいと言ってる子を次々に入れる、という活動がはじまって。
―空き情報を随時チェックするという一番大変なところを請け負いつつ、けんちんさんが求める見返りは「内覧の同行」だけなんですよね?
僕としては内覧を同行させてもらえるだけでも御の字です。あわよくば入居後に団地に遊びに行けたらとも。かつ僕もバンドをしていたので、家紹介することでまわりのバンドマンとより仲良くなれるなと。
人を入れはじめて2年で大阪環状線の内側にある団地はほぼコンプリート。屋上遊具の写真を撮るという目的も遊具撤去によりミッション完了するんですけど、友人に団地を紹介しまくってたから、それからも入居希望の連絡がいっぱいきて。最終200人までいった、という感じです。

送り込んだのは都心型の“ゲタバキ団地”。
―団地と関わるけんちんさんの肩書きは?
その人のナカのところまで考えて団地を選ぶので、まぁソムリエなんかなって。「団地ソムリエ」と言ってます。
―団地のマッチングはどんな流れで?
カルテを取りますね。まずはその人の働いてる場所とか生活圏を聞く。住みたいエリアから半径2キロメートル以内にUR団地があるか調べ、難しいなと思った場合は鉄道の路線上で考えます。あと家賃も大事ですよね。
―その人のキャラクターまで考慮しますか。
もちろんです。男性か女性かによってすすめる団地も違うし、キタかミナミか、下町が好きな子か。あと、生まれてきた環境も関係してきますよね。それは気にします。だって今まで南海沿線で育ってきた人に京阪沿線での暮らしをすすめても……だから、なじみの深いエリアのほうがいいな、とか。
基本的には若いうちは都心部に住みたい人のほうが多いし、僕は市街地住宅という都市型団地が好きだったので、双方のニーズが合致して200人まで人を入れられたのかなと思います。
―市街地住宅というのが、けんちんさん言うところの「ゲタバキ団地」ですよね。
もともとの呼び方は「下駄履き住宅」や「下駄履き団地」です。下層階にお店だったり会社の事務所とか、とにかく団地以外のものがあって、その上に乗っかるように上層階が住宅になっている。団地が下駄を履いているみたいだ、という。
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京都は下駄部分が市役所とか区役所の場合が多いです。都市型団地として昭和35年頃までめっちゃ作られたタイプなんですが、昭和40年代に工場跡地に大規模団地を建てるように変わっていきます。
―ゲタバキ団地に惹かれる理由とは。
自分がはじめて住んだ北堀江団地がゲタバキ団地だったから、というのと、街の見え方が変わるんですよ。別に団地じゃなくても、「この建物、上下で違うんや!」っていう視点が生まれるだけでも街が楽しくなる。

団地という選択肢。
―ところでなぜ、けんちんさんはUR団地暮らしを人におすすめするんでしょう。
まず僕は、まぁ団地に住んで欲しいんですけど、「絶対、住むなら団地!」っていうわけじゃないんです。民間のマンションにはその良さがあるし、一戸建てのほうがいい人もいる。その人に合った住まいはあるので。ただ、団地という選択肢を持たずにそのまま過ごしてしまうのは、もったいない。僕はURのシステムや考え方が好きなので、もしその人が住みたいエリアと合致するなら、URも検討したほうがいいよ? というスタンス。
―ずばりUR団地の利点って?
URは世界最大の大家さんと呼ばれるだけあって、システマチックにものごとが動いていていて、それが居住者の利益に繋がってること。たとえば植栽の管理。春夏秋冬どこに何を咲かせればいいかというのをコントロールできる、専門の担当者(グリーンマネージャー)がいるんですよ。四季のことまで考えて配置してくれる。それってすごいことなんですけど、当たり前のようにサラッとやってるっていうのが、ねぇ。
あと、クリーンメイトさんっていう清掃員が来てくれる頻度も、民間マンションの倍だと思う。僕が今住んでる鷺洲第二団地でいうと週6です。常に清潔に保たれた住環境が簡単に手に入る、っていうのがすごいところで、一括管理するからこその良さだと思う。

―ゴミ問題って住まないことには分からないですけど、すでにシステムが構築されていることが分かってるから安心感ありますね。
鳩被害に対しても真摯な対応で、このあいだね、URのホンキを見せてくれたんですよ。うちの団地から鳩が消えたんです。
―場所への執着が強いあの鳩が。
鷺洲第二団地はなんと鷹を導入したんです。鷹匠を呼んだんですよ? 民間じゃありえない……。




本物の愛好家にして団地ソムリエ。
けんちんがUR団地に出会ってからの話。
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