貸し農園、そして、
なにか新しいことの始まる場。
神戸でもスタートする
「みんなのうえん」の試み

貸し農園、そして、なにか新しいことの始まる場。
神戸でもスタートする「みんなのうえん」の試み。

街の空き地を貸し農園へと変え、さらに、農と食を中心としたコミュニティを育てるところまで。大阪で立ち上がった「みんなのうえん」の試みが、今度は神戸・湊川の住宅地でスタートしました。
そもそも、「街の空き地」を活用するというところが面白くもあり、大変でもあり。
このユニークな試み。運営を担う金田康孝さんへのインタビューとあわせてお伝えします。

住宅地が立ち並ぶ湊川のようす。

みんなの知恵と人脈を結集すれば!

「みんなのうえん」は2011年、大阪・北加賀屋でスタート。北加賀屋エリアの活性化に取り組む千島土地からの依頼を受けて、studio-LとNPO法人Co.to.hana(ことはな)が事業を立ち上げ、ノウハウのないところから参加者たちと空き地の農園化に取り組みました。北加賀屋がアートによるまちづくりを進めていたこともあって、若いクリエイターやアーティストも巻き込みながら、農や食をテーマに地域住民をつなぐコミュニティ農園に。農地を開墾するだけでなく、キッチンサロンも併設した形になっています。


金田:最初の頃は、たくさんの出来事を起こしてイベントも数多くやってました。ただ、そうすると事務局のコミットが増えて、お金もかかるので、継続が大変なんですね。参加者にもコミュニケーション能力が求められたり、かなり時間もとられるのでうまくハマる人が限定されてしまう。
そこで貸し農園をベースにした上で、コミュニティづくりにも深く関わる人向けのコース、ただ農園を借りるだけのコース、サポートを受けながらちょっとサボりながらでも農園が続けられるコース、と関わる濃度をいくつか選べるようにして。すると、多様な関わり方ができるようになって、うまく回りはじめたなという感じになりました。

―1区画単位で畑を貸し出す「貸し農園」を基本にしつつ、参加する時点で畑への関わりしろを選択できるようにしたということですね。

金田:そうです。そうすると、ただ貸し農園として利用するつもりの人の中にも行われているイベントのお知らせなどを見ているうちに、もっと関わりたいという人が出てくるので。

―ちょっとしたイベントや集まることのできる場=キッチンサロンを畑に併設しているのも特徴的です。

金田:ここで野菜をつくれますということ以上に、食や農に興味のある仲間に出会ったり、自分のやりたかったことにチャレンジができる場所ですよという打ち出し方をしています。畑のそばに人が集まれる場所があるとイベントなども開きやすいんですね。北加賀屋の場合だと、メンバーの友達の方でよくイベントなどにも参加されてた人が薬膳にとても詳しくて、けど、そのスキルを活かせていないので、まずはメンバー向けに薬膳料理のイベントを開き、そこで教えるスキルを高めていって、今では薬膳の先生になってられます。

―そもそもメンバー以外でも参加がOKなんですね。

金田:イベントはいつもオープンにしていますし、畑は借りないけどイベントに割り引きで参加できる「みんなのうえんクラブ」という仕組みもつくっています。その「みんなのうえんクラブ」にさえ入ってないけど、イベントをやれば毎回、フォローしてくれるという方もいますよ。

―そして、その薬膳の先生へと成長していった方のエピソード、単なる貸し農園では起こり得ないことですね。

金田:主婦の方に多いのですが、昔はパン屋やカフェを開きたいという夢があって、なにか勉強したりもしていたけど、出産、子育てが忙しくて、そうした思いが後回しになっていた…という、そうした人のスモールステップの機会として、まずはやってみましょうという場にもなっています。みんなのうえんでは自分でイベントを主催することもできますので。
無農薬農園なので食や農に関心の高いメンバーが自然と集まっていて、その面でのやりやすさもあると思います。

―運営側ではなく、メンバーがイベントを主催するという形が増えてくれば、コミュニティとしては理想的ですね。

金田:はい。みんながやってみたいということにチャレンジしていけば、コミュニティがどんどん育ちますし、大きな学びや経験につながります。農園がセットになった、食と農のテーマの集会所みたいな場ともいえるかも。

―それにしても、メンバーが主体的に声をあげるようなコミュニティの形になるのは、簡単ではない気がします。

金田:そこは運営者のがんばり次第ですけど、みんなで顔を合わせる機会が増えてくると、「池つくってみたいな~」とか、「ビオトープに興味があるんだけど」といった話が普段の雑談に出てくるんですね。それを「面白いですね!」と拾い上げて、といって、こっちにも知識や技術があるわけじゃないので、そのための専門家を探してみたり、メンバーの人脈を結集したりして少しずつ動きだすことが多いですね。

―何から何まで運営者である金田さんが準備するわけでも、できるわけでもない。

金田:そうです。今、「みんなのうえん北加賀屋」ではビオトープづくりを始めていますが、それもビオトープの話題が出てから何年も経ってます。ちょうど畑の隣りにある建物の改修工事が始まって、その雨水をうまく取得できそうだというところから本格的に動きだしました。他にも、北加賀屋では2016年から醤油づくりを始めましたが、これも醤油づくりをやっている専門家とつながりのあるメンバーがいたので実現したことで。みんなの知恵と人脈といろんなことが集まって、少しずつ実現していく様子はロールプレイングゲームのようです(笑)。

―当然、金田さんの経験値もどんどん増すばかり。

金田:僕にとってはそれが楽しくてやり甲斐になってます。参加しているメンバーの中にも、普段の家庭や職場では出会わなかった人と新しい経験ができることがモチベーションになっている人もいます。そのためにも、少々無茶を言っても受け入れられそうな空気感をいかに作っていけるか。そこはとても大事にしていますね。

その地域でしかできないこともある

「みんなのうえん」は、2019年、Co.to.hanaから独立した金田さんの社団法人グッドラックへと事業移譲。同年、大阪・寝屋川での新農園づくりが始まり(みんなのうえん寝屋川)、そして2022年、神戸の「みんなのうえん湊川」が3か所目のみんなのうえんとしてスタートしました。
場所は、湊川の新旧の住宅が密集したエリアにあって、「防災空地」として整備されてきた空き地です。防災空地とは、災害時の延焼防止や一時避難場所として密集市街地に設定された場のこと。

みんなのうえん湊川の敷地面積は約1540m²。周囲をぐるりと住宅が取り囲む。

―湊川の現場に入ってどれくらい経つのでしょう。

金田:約2か月です。僕と何人かの学生の手作業で始めたのですが、あまりに大変なので途中からユンボも導入しました。

―空き地を農園化するといっても、そのベースをつくるのがまず大変。

金田:そうなんです。今回の農園では土づくりにも力を入れていて、できるだけ神戸産にこだわって自分でつくった土を持ち込みました。六甲山の真砂土、神戸牛牧場の牛ふん堆肥、しあわせの村にある神戸乗馬倶楽部の馬ふん堆肥、三木でつくられている植物性堆肥…を混ぜています。

―土づくりも金田さんがされるんですね。

金田:完全に自分でやったのは今回が初めて。農園にとって土はめちゃくちゃ大事ですから、その点、神戸は山が近くてやりやすいと感じました。まあ、畑はやってみないとわからないことが多いので、まだ不安なところもあるけど、きっと大丈夫!

―募集するとあっという間に貸し農園の募集枠は埋まったそうですね。

金田:神戸市が進めているアーバンファーミング事業の一環として、市街地で農園をつくったり、毎週末のファーマーズマーケットを開いたり、という取り組みが続いてきたこともあって、神戸では農への機運が高まっていることを強く感じました。大阪の北加賀屋では、農園の枠がすべて埋まるまで約8年かかりましたから。

こちらが神戸産でつくった土。
金田さん自ら農園&倉庫の準備を進める。大学では建築を学び、まちづくりへと関心を移していった。

―周囲の方の反応はどうでしょう。

金田:何度も挨拶にまわって丁寧にやっています。土を入れたときにかなり匂いが発生してしまい、そこのことも事前にお伝えはしていたのですが、想定を超えていたところもあったので苦情がありました。またここから信頼を回復していくしかないですね。

―いろんな出来事があるなかで、周りとの関係性も少しずつ高めていくしかない。密集市街地の空き地だから、何をやっているかが常に見られているような環境でもありますし。

金田:農園に対しては好意的に見ていただいたとしても、たとえば、イベントを開いてバーベキューで火や煙は出してほしくないだとか、いろんな意見を汲み取りながら「みんなのうえん」でやることや、イベント内容は変化させていきます。みんなのうえんを始めた3つの場所、北加賀屋、寝屋川、湊川それぞれに地域性も違っていて、それは地域に入るまでわかりませんから。

―湊川ならではのことも生まれそうですか。

金田:このあたりは、神戸市のアーバンファーミング事業ともまた違った形で、町会のおじさんたちがスイカやイチジクを育てているような小規模な畑がいくつもあって、ユメノフラワーと名付けた花の苗をたくさんご近所に配って、それを植木鉢で育てているという人も結構いるんです。

―土にまつわるめっちゃローカルな動きが見られるんですね。

金田:若い世代のアーバンファーミングともまた違っているようなので、そういったおじさんたちともうまく連携してやれたらなと考えています。
あと、湊川では地元のいろんな方々に一緒にやりましょうって声をかけて、10人ほどの運営メンバーを集めました。商店街の店主、無農薬栽培に興味がある方など職業は様々ですが、いろんな特殊能力を持った人が集まったので、ミーティングを重ねながら、イベントなどを企画していく予定です。なるべく地元の人が中心になるほうが個性が出て面白いので、僕が出しゃばりすぎずにやりたいですね。

防災空地の頃に整備された井戸やベンチなどもあった。ただ、井戸は使えなくなってしまった状態。
北加賀屋で縁のできた美術作家の作品を湊川に持ち込む計画も。
北加賀屋、寝屋川、湊川を行き来する日々。
取材後、ちゃくちゃくと農園化は進んでいます。こちらは8月10日の様子(金田康孝さん提供写真)。

みんなのうえんPARK in 神戸湊川について
UR都市機構西日本支社は、神戸市と連携した密集市街地のバリューアップの取り組みの一環として、兵庫区湊川エリアにおいてURが所有する土地を活用して、「みんなのうえんPARK in 神戸湊川」を2022年夏に開始。地域の魅力、価値増進につながることを目的としています。

みんなのうえん
https://minnanouen.jp/

取材・文/竹内厚 撮影/坂下丈太郎

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