車をDIYした「モバイルハウス」

[OURS.アーカイブから]

シリーズ:家ってなんだろう
車をDIYした「モバイルハウス」で移動しながら仕事&暮らしを。

2018.12.03 掲載

#1 モバイルハウスができるまで

家が移動する。仕事場が移動する。作業場が移動する。
リモートワークの可能性が広がりつつある中、場所にとらわれない働き方や暮らし方を求める声も増えています。
多拠点で仕事ができて寝泊まりをする
車で移動しながら仕事ができて、寝泊まりもできる、そんな次世代の「モバイルハウス」を作っている人が神戸にいるということで、会いに行ってきました。


「モバイルハウス」に出合うべくやってきたのは、兵庫県神戸市垂水区、塩屋駅周辺。車が通れないくらいの細い路地が続く緩やかな坂道をずんずん登っていくと、坂のほぼ頂上に見えてきました。

この青い車がモバイルハウス。車内がオフィスのようになっています。
大阪湾まで一望できる景色が素晴らしい! どれだけ坂の上にある場所なのかお分かりいただけるでしょうか。

外観は車。車の内装は、ライトやテーブル、イス、後部座席部分には棚まで設置されています。制作されたのは、不動産仲介と不動産オーナー業を行う西村周治さん。作業時間はなんと約2日間!もちろん、全て西村さんご自身でのDIYだというからまた驚きです。一体どうやって作られたのか、お聞きしました。

西村周治さん。間取り図Tシャツは「UT」というサービスでつくった、西村さんオリジナル。帽子は“三菱農業機械”のもの。

西村トイレと水場以外は、生活がここで完結できるシステムです。ソーラーパネルを設置してバッテリーを繫げて、車とは別回線で電力を確保しています。スマホ充電やPC作業もできますし、夜間照明や冷蔵庫にも使えます。

きっかけは、友達が乗っていた車を譲ってもらった時に広い車内を見てイメージが湧きはじめたこと。床を貼って、ベッドをつくればいっそのこと、住めるスペースになるのではと考えたそう。ルーフ部分にソーラーパネルを貼って、まず電気を確保。水回りや電気周りの基本工事は、知り合いの工務店や大工さんに整えてもらい、残りの仕上げ部分は全て西村さんがDIYを施した。大きな床板の見える後部座席部分も、倒した椅子の上に、板をビス止めをせずにそのままはめているだけなのでいつでも取り外しが可能。板を取り外して椅子を戻すと、10~15分くらいで通常の乗用車に戻せるため、違法改造車にもあたらないとのこと。

西村車内にあるものは全て置型にすれば、内装DIYをしても法的には問題ありません。もし椅子を取り外してさらに大きく作り替えたいというのであれば、“キャンピングカー”として申請をし直すことで、キャンピング仕様として使いつづけられます。

なるほど。今回の制作費用は、ソーラーパネルとバッテリーも含め電気周りは5~6万円と木材費の数万円で、お財布にも優しく、特別に難しい技術などは使っていないそうです。

車内の内装は、家のリビングをイメージして、イスを机と照明をつけた。「キャンピングカーっぽくはしたくなくて、普通の部屋をつくるようにDIYしました」。
ボタニカルな装飾と照明インテリアで、リビング風。
足元の床は通常の家に使うフローリング材を貼っている。
水タンクも積んでいるので、蛇口から水も出る。
運転席の横に、ピッタリはまるサイズで小型冷蔵庫も用意。他に炊飯器やガスコンロ、鍋、バーベキューセットも。

西村さんは、実際にどのようにこのモバイルハウスを使っているんでしょうか?

西村基本的に仕事用ですね。僕は購入した物件をDIYで修繕して、他人に賃貸するという仕事をしています。所有している物件は、辺鄙な立地に建っている物件が多いので、物件のDIYをするために、作業工具を積んで移動ができて、夜通し仕事した後にそのまま寝られたりする。これで休憩しながら、現場で作業するためのハウスです。僕は自宅があり、ここに住んでいるわけではないので、用意している生活用品は最低限のものです。将来的には、ここに住みながら廃屋の改装へ行くことがひとつの理想。場所を転々としながら家を直していく。そのモデルケースができればと思っています。

持ち運んでいるDIY用工具は、意外とシンプル。インパクト、ドライバー、インパクトの充電器、丸ノコ、塗装用具など。左上は、モンゴル帰りの知人に空港から送ってもらった羊の毛の断熱材。

なるほど。工具を積んで移動するための車であり、PC作業ができるオフィス空間になる時もあれば、食事をしたり、休眠することもできたり。作業後には仕材ゴミなどをつめる機材車にもなる。一つの空間がいくつにも使える、要するに「移動する多機能なハウス」といった感じなのですね。いいですね~。

自宅からなにか持ってきました。布団のようです。
後部座席の板が置かれた荷台の上にマットとシーツを敷きます。
荷台がベッドに早変わり。「最大3人寝たことあります。寝てわかったんですが、朝起きた時に、外の通行人と窓越しに視線が合うのでその辺りを調整しようと思っています。あと、冬を乗り越えるために断熱と布を貼って仕上げたいです」と西村さん。

西村僕はこのモバイルハウスって、大量消費社会に対するカウンターカルチャーだと思っているんです。


#2 モバイルハウスにひそむ哲学

古びて人が住めなくなったような物件を購入してDIYで修繕して賃貸可能にするため、物件から物件へ、作業場から作業場へと移動しながら働く西村さん。その生活の中から生まれた「モバイルハウス」は、まさしく多拠点生活・仕事のツール。あえて、辺鄙な場所にある物件ばかりを購入している、西村さんの仕事マインドはどんなところにあるのでしょうか?

モバイルハウスをバックに。机とイスを外に出して、屋外でのモバイルワーク。「気持ちいいですよ。ネット環境が整えばどこでも仕事できます」と西村さん。

―影響を受けている考え方ってありますか?

西村『モバイルハウス三万円で家をつくる』の著者坂口恭平さんの考え方や動く家に、もともと興味があったんです。モバイルハウスを自分で作ってみたのも、その辺りの文脈があるかもしれません。あと、自分が所有している古い家も「不動産」ではなくて、「動産」と考えています。ひとつの家にそこまで投資しないのがいいのではないかと。

モバイルハウス制作者の西村周治さん。

―「動産」って面白い考え方ですね。家を動かしていく、ということでしょうか?詳しく教えてください。

西村今の幸せの理想像って、大きな家を無理して買って、大金をかけてそれに投資して、そこ一つで幸せを見つけましょうみたいなところがあると思うんですが、それはとてもリスクがあることだと思ってます。現にリーマンショックで不動産はある日突然、資産価値が半減したし、震災などによって家が失われてしまうかもしれません。今、僕が家族と住んでいる場所は坂の上の一軒家ですが、交通が不便なうえに廃屋のようになっていたので価格も激安、そこをDIYで修繕して住んでいます。
僕自身は、家に多くの機能を求めていません。家ってすごいもんで、一つの機能追加するだけでコストにはねかえってきます。たくさんの機能がもともとなくても、身体が多少家に合わせていけばいいと思うんです。不便な箇所はDIYで作り直したりして、自分で解消していけば、自分達らしい暮らしの形が作れると。みんな求めすぎちゃうんですよ、家に対して。ひとつだけに想いを投入しない方がいいのではないかというのはありますね。
家でやっていることって、寝て、ご飯を食べて、ちょっと休憩するだけです。過度に家に機能を求めずに、シンプルな生活で少ない消費でも幸せな生き方はあると思います。この思考の延長で、僕は廃屋とモバイルハウスを取り扱っています。僕は高額な家のために働かされるのも嫌だし、ゆっくり働くために、安い家を買ってDIYで修繕して終わったら人に貸すということを生業としています。ひとつひとつの家にコストがかからないとなれば、みんな何度でも引っ越しができるし。僕も実際に、家族で引っ越しを繰り返しています。

生活空間でもあり、仕事空間でもあり、休憩空間でもある、移動する「多機能なハウス」。

―なるほど。確かに、贅沢は贅沢を呼ぶ、というか、身体を家に合わせていけば心地よく暮らせるというのは、わかるような気がします。

西村アメリカの西海岸などではこういう暮らしをしている人がけっこういるみたいです。向こうでは、土地の値段が高く、大きな家を建てることが難しいため、家がなくてもよしとするカウンターカルチャーが育っています。それが、小屋のような家や生活に必要な最低限の家具や設えだけをもった「タイニーハウス」という文化です。そう考えると、日本でも、業者が値付けした町中の家を高く買うよりも、誰も見向きしないような廃屋を安く買って、自分で改修していく。しかも家と家の間を移動できる、モバイルハウスがあるというのは、もしかしたら、とても豊かな生活なのではないかと思ったりします。

―ちなみに、身軽な状態でいつでも引っ越しするためには、賃貸でも可能だと思うのですが。西村さんが物件を購入するのはどうしてですか?

西村賃貸って、自分で建物に手を入れることができないので、そこに自分が介在できないと思うんです。買うと何でもできるようになる。でも、“カリグラシ”なんですよ、根本に流れている考え方は。所有しているのではなく、借りて生活しているという感覚です。いずれまた誰かが借りて住むかもしれないし。ずっと仮住まいだと思っています。僕の妻も、かつての阪神大震災で家が崩壊しています。家っていずれは土になるものなんですよね。
かつて長屋の賃貸に住んでいた時に、再開発で出て行けと言われた経験があって。自分で作り上げた空間が簡単に人の手にゆだねられてしまう悲しさがありました。所有しなければ一時のものになってしまうというその経験から、手放すタイミングは自分で決めたいという想いもありますね。

取材もアウトドアで。

―西村さんの考え方を聞いていると、なんだか何でもできるような気持ちになってきました。これから考えていることがあれば教えてください。

西村建物の値段がつかないような家が神戸市内でもまだたくさんあります。そういう物件を低価格で買って、自己修理して、自分が住んだり、人に貸したり。兵庫県民がみんな、これをやっていけたら空家問題は解決するのでは、と思ったりします(笑)。これからは新築を高く買う時代は終わって、古くて安い家を修理してより良くして、価値付けしていくのは、家にも自分たちにとってもいいことなのではないでしょうか? こんな考え方がもっと広がっていけば面白いなと思います。


西村周治

兵庫県塩屋在住。建築設計事務所に務めた後、一時ラーメン屋に勤めていたことも。現在は、神戸R不動産での不動産仲介業と不動産オーナー業を並行して進めている。


取材・文:小倉千明  写真:平野愛

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