団地の空気も取りこんだ
喫茶なぎの物語

[淀川左岸の街シリーズ]

団地の空気も取りこんだ
喫茶なぎの物語

城北公園通から淀川に向かってひと筋入れば、リバーサイドしろきた の広場が見えてきます。その団地の1階に、19年8月にオープンしたのが「喫茶なぎ」。店主の畑中錬一さんが、Tシャツにショートパンツといういでたちで出迎えてくれました。


―シンプルでゆったりとした空間ですね。お店を始めたのはいつですか?

2019年8月に店を構えました。実は、6年前に妻が亡くなりまして…。それまでは滋賀県に住んでいて、勤務先のある梅田まで通勤していたのですが、子育てをしながらの通勤が難しくなってきて。それで、引っ越し先として選んだのがリバーサイドともぶちでした。

リバーサイドともぶちは、リバーサイドしろきたから徒歩6分。いずれもUR団地。

―ご自宅もお店も団地なのですね! 団地がお好き?

それは、まあ、たまたまなんですけど(笑)。シングルファザーになって、仕事、家事、育児に明け暮れるうちに「自分の仕事ぐらいはやりたいことをやりたい」という気持ちが高まって、自分ひとりでできる喫茶店をしようと思ったのがここをオープンしたきっかけです。

―以前もカフェをされていたとか。

はい。1999年から2003年の4年間、南堀江で「cafe calm」という店を妻と2人でしていました。店をはじめた当初は、堀江もまだ静かな街で、2人でマイペースにのんびりとしたカフェをやっていたんです。ところが、堀江に多くの新しいお店が集まりはじめて…。うちの店もめちゃくちゃ忙しくなりました。うれしいことなんですけど、何かに追われるように仕事に忙殺されてしまって、リセットしたくて店をクローズしたんです。

―たしかに当時、堀江はカフェブームの中心地でしたね。

でも、50歳を目前にシングルファザーとしての残りの人生、やっぱり好きなこともしたいと思って。子どもたちに何かあってもすぐに対応できる近場で物件を探していたら、この場所が空いてるのを知りました。

この看板、いつもは店先に。取材の日は大雨だったので、店内に避難。

―こちらを選んだ、決め手はなんですか?

団地の広場に面していて前に道路もなく、木々の緑が眺められる物件ってめったにないなあと思って。外の景色が見渡せるように、窓は大きく設計しました。本当は、窓が開けられたらよかったんですけど、予算の都合で、窓は開きません(笑)。

ー店内は、かなりゆったりですね。コロナの影響でテーブル数を減らしていますか。

いえ。当初から2席減らしているだけです。ゆったりですね。「クリーンで簡素」がコンセプトなんです。ここは、建ってから30年以上経つ団地なので、古くから住んでいる方も多いんですよね。ご年配のお客様がお友達どうしでおしゃべりしに来てくれたり、赤ちゃん連れのお母さんがひと休みの時間を過ごしてくれたり。幅広いお客様が来てくださっているのはイメージ通りでした。

―スタイリッシュなお店に対して、店名は少しノスタルジックな感じ。年配の方にも馴染みやすいようにですか?

いえ、そういうわけでもなく…。堀江時代のカフェの名前「cafe calm」を、単純に日本語にしただけ。calmには「凪(なぎ)」という意味があって、波が凪いだ海のような穏やかな時間を過ごしてほしいと思って付けた店名です。あと「cafe」より「喫茶」の方がサンダル履きのご近所さんも来てくれるかなって。街のコーヒー屋さんという感じですね。

雑誌や絵本が並ぶ棚。新聞は…なかった。

―オススメのメニューはプリン?

雑誌に掲載してもらったおかげでプリンを目指して来てくれるお客様も多いのですが、ごくごくオーソドックスなプリンなんです。実を言うと、バナナチーズケーキの方がおすすめ。

―バナナチーズケーキですか!

堀江時代から作っていたケーキなんです。スイーツを担当していた妻がレシピを考えたケーキなんですけど、チーズとバナナの組み合わせって、ありそうでないでしょう? これが合うんですよ!

クリームチーズ生地の中に粗く刻んだバナナを混ぜこんで作るバナナチーズケーキ450円、ブレンドコーヒー400円。

―サワークリームの酸味、クリームチーズのまろやかさの中に、こくのある甘みのバナナがアクセントですね。

店を再開するときに、このケーキは必ずメニューに入れようって思ってました。妻と作った思い入れのあるケーキだし、何よりおいしいから、たくさんの方に食べてほしいと思って。そう言えば、堀江のカフェに来てくれたことのあるお客様が、ここにも来てくれて、「なつかしい」と言ってくださってうれしかったです。この団地にお住まいの方にも堀江の店をご存知の方がいたんですよ。

―コーヒーはオリジナルブレンドで。

はい。大阪で100年近く続く焙煎所にお願いして店用のハウスブレンドを作ってもらっています。しっかりと吟味して自信の持てるブレンドができたと思ってます。ただ、コーヒーマニアの店にしたくなかったので、あまりコーヒーのスペックについては前面に出していません。おいしい、また飲みたいと思ってもらえればそれでいいなと。

波佐見焼きの器、形と色が気に入っている。
キッチンには、アラジンのオーブントースターやパナソニックのスチームオーブンレンジビストロなども並んでいた。一つひとつ選び抜かれたアイテムだが、主張は控えめ。

ー何にも考えず、「おいしい~」って思えます。

そんなふうに過ごしてほしいんですよね。どんな方にも。

―今はのんびりと?

ちょっとのんびりしすぎて、もうちょっと忙しくなってもいいかなと思ってますが(苦笑)。でも、まあマイペースで店と子育てを両立していきたいですね。団地って、住人の方は入れ替わっても、少しノスタルジックな空気感とか、きっとこれからも変わらないと思うんです。これからも、いろんな人がほっとできる場所にしていきたいですね。

「喫茶なぎ」の場所は前はそろばん塾だった。隣は整骨院。

―もうすぐ17時ですね。

はい。自宅に帰って、父親兼母親になります(笑)。

テーブルは特注、藤の椅子は長野県のメーカー「かねみつ漆器店」のもの。座面の違う2種類がある。
閉店後は喫茶店主から、小学校2年、6年生の女の子ふたりの父親に。ビースティ・ボーイズのTシャツが映える。
リバーサイドしろきたは、12棟の住棟からなる団地。

喫茶なぎ
住所/大阪市都島区毛馬町2-11-34 リバーサイドしろきた34号棟 1階
営業時間/8:30~17:00
定休日/月曜、第2・4日曜(月曜が祝日の場合は翌日休み)

取材・文/いなだみほ 撮影/沖本明 編集/竹内厚

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