[芦屋シリーズ]
繊細かつ丁寧、安心できる食事の時間を
カレーとベジの店nanai
2022.09.29
西宮エリアの中でも国道43号線の南側。浜風そよぐ穏やかな住宅街である鳴尾町に、門脇直子さんが「カレーとベジの店nanai」を開いたのは2011年。
当初は月に1度だけオープンするお店だったけれど、現在は週5日営業となり、地元の常連さんの憩いの場にも。
大阪を中心にブームを巻き起こすスパイスカレーともまるで違う門脇さんの南インドカレーは、大切な人を思って作られた優しさに満ちていて、ほっと安らぎながらも元気をもらえる不思議な美味でした。




「18歳までカレーが嫌いだったんです。家で食べる固形ルーのカレーが。でも大学に入って、友達にインド料理のカレーをすすめられて、試してみたらすごくおいしくて。たちまちインドカレーにハマりました。やがてインドでも南と北では使う素材や作り方が違って、私は南インドのカレーが好みだと気付いたんです」。
もともと胃腸が弱かったことから食事や健康に関心を持ち、ヴィーガンやマクロビオティックについて学び始めた門脇さん。自然食やオーガニックに寄り添うカフェやグロサリーなどで調理経験を磨き、同時に野菜をたっぷり使う南インドカレーのおいしさに開眼。
スパイス料理の教室にも通い、試行錯誤を重ねながら「nanai」名義でイベントに出店したり、お菓子の委託販売を始めるようになった。2018年まではそうした活動が中心で、工房として使っていたこの場所が実店舗として開かれるのは月に1度だけだった。

「月1回の営業だった頃は、地元の人からしたら何をやってる場所なんやろう? 会員制? という感じで、食べもの屋ということすら認知されていなくて。2018年の5月から週5日営業のフルオープンになり、さらに昨今のコロナの影響もあって、最近は地元のお客さんも来てくれるようになりました」。
看板メニューは、門脇さんが長年作り続けている鮭のココナッツカレー。南インドのレシピを下敷きにしたオリジナルで、スパイスのインパクトよりも鮭の旨みとココナッツミルクのまろやかな味わいに癒される。
「フルオープンを考えたとき、ヴィーガン専門のお店にする案もありました。だけど以前から鮭のココナッツカレーを好んで食べてくださるお客さんがいて、ハウスカレーのようなメニューになっていましたし、まわりの人に相談しても、絶対に残した方がいいと。今ではヴィーガンの人もそうじゃない人も、一緒にテーブルを囲んで食事できるお店であれたらいいなと思っています」。

メニュー表には、「※ヴィーガンの方はご相談ください」という添え書きがある。カレーやおかずに使う野菜は近郊で有機栽培されたものが中心で、お米は農薬や化学肥料を使わず育てられた京都・辻農園の石清水米。
マフィンやスコーン、クッキーなどの焼き菓子は、卵やバター不使用。素材選びが繊細かつ丁寧で、「カレーとベジの店」と謳われているとおりだけれど、決してストイックすぎないのがnanai流。
たとえば、アルコールメニュー。
ハートランドに続いて、奈良の蔵元、美吉野醸造による日本酒花巴の無濾過生原酒や火入熟成酒など、酒好きがうなる銘柄が並ぶ。しかも、猪口の飲み比べも可。酒場さながらの品揃え、その理由を訊けば、「私がお酒好きなんです(笑)」と陽気な答えが飛び出した。



フルオープンした2018年5月のインスタグラムの投稿で、門脇さんはこう綴っていた。
「レストランの語源は回復する食事なんだそうです。来てくださるお客さまのために、そして、自分の大切な人達のため、自分のためにも。身体に優しい食事をずっと作っていきたいです」。
とても不思議だけれど、nanaiの料理は食べれば心も身体もホッとする。味わいに安心感があり、元気がないときに食べるとパワーをもらえるような手料理。
近所にこんなカフェがあったら、きっと天国にちがいない。




カレーとベジの店 nanai
住所/西宮市鳴尾町4-5-8
営業時間/11:00~16:00、夜は予約制
日・月曜休
電話/090-4280-0771
https://www.instagram.com/nanai_cafe/
取材・文/村田恵里佳 写真/沖本明 編集/竹内厚