こつこつ45年、
ベーカリー「パンダ」の物語。

[伏見東~桃山南シリーズ]

こつこつ45年、
ベーカリー「パンダ」の物語。

JR六地蔵駅から歩いて5分ほど。醍醐石田団地 の目と鼻の先にある焼きたてパンのお店、「パンダ」は創業1976年。ちょうど醍醐石田団地が誕生した直後で、まさに団地と共に歩んできたベーカリー。店主の上田利男さんいわく、「常連さんは200~300m圏内に暮らす方がほとんど。それも20~30年付き合っている人ばかり」。

利男さんは、京都の老舗ベーカリー「進々堂」で洋菓子とパン作りの腕を磨いた後に独立。おなじ職場で知り合い結婚した由美子さんと一緒に、「小さくてもいいから自分の店を」と、縁あってこの地に店を開いた。

高度経済成長期やバブル期は深夜2時まで働き、夜明け前の4時には再び始業するという忙しさだったそう。家でゆっくり過ごす暇はなく、2人いる娘さんたちは作業場のパン箱をベッド代わりにすくすく育ったというから、なんともたくましく微笑ましい。

最盛期は約60種のパンを作っていたが、現在は定番を中心に約30種までしぼり込んだ。それでも、あんパンやクリームパンなどの菓子パン、たまごサンドやエビロールなどの惣菜パン、食パンやテーブルロールなどの食事パンまで幅広く揃う。

お店きってのロングセラー、プライド食パン240円。「一番いい粉を使って作る」高級仕様ながら、価格はあくまで庶民の味方。

「昔は甘いパンがよぅ売れたけど、今は甘さ控えめでね。あまりゴテゴテしたもんは作らんようになったね。最近はこの辺もお年寄りが多くなって、フランスパン的なもんもあかんね。硬いパンは食べにくいから、柔らかいのを中心にして」と利男さん。

店内の壁には、野鳥や色鮮やかな花の写真がたくさん。聞けば、どちらも常連さんの作品だそう。なかでも野鳥の写真は、醍醐石田団地に暮らしていたお客さんが10年間撮りためたもの。

「うちによぅ来てくれはったお客さんで。定年後に何か趣味を、ということで軽自動車が買えるくらいのええカメラを買わはって。鳥に夢中になって、天ヶ瀬とか山科川へ通って、なかでもカワセミやキジをよぅ撮ってはった」と利男さん。 常連さん亡き今も、思い出の写真は店内にそのまま。「その方の写真仲間がいて、今も時々、写真を見がてらパンを買いに来てくれはるんです」。

“形見”として託された数々の野鳥の写真。壁面だけでなく、店内に保管する4冊のファイルにも作品がたくさん詰まっている。

売り場に置いてある椅子は、そうしたお客さんや団地の常連さんの止まり木。「みんな、そこへ座ってしゃべって行かはんねん。人生を。ほんで聞いてあげるんよ、その人生を(笑)」と、妻の由美子さん。

創業以来使い続けるオリジナルの紙袋。色使いもデザインも今なおかわいい!

創業から45年。今も焼きたてのパンを並べるベーカリーには違いないけれど、同時にここは地域の人々が気負いなく訪ねることができる、心温まる寄合所。

ミニメロン90円。ミニの理由は、子ども用のおやつにぴったりだから。イチゴジャムのあしらいは、「おっぱいをイメージして。メロンパンってどこにでもあるから」とユーモアも忘れない利男さん。
2人の娘と、さらに4人の孫もここで育てたという作業場の一角。「狭いから居心地が良くてよう寝るねん。で、ガラス越しにお客さんが見てくれはんねん(笑)」と由美子さん。だからトビラにはシールがたくさん。

パンダ
住所/京都市伏見区石田桜木21-36
営業時間/7:00~18:30 日曜休
電話/075-572-6859

取材・文/村田恵里佳 撮影/沖本明 編集/竹内厚

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