[千里ニュータウンシリーズ]
パンも駄菓子も釣り部まで
まちの公民館的新刊書店
2020.10.2
千里中央駅から西へ7分ほど歩くと、新千里西町近隣センターと呼ばれる商店街があります。街開きと同じ頃、1968年の開設当時の雰囲気がまだ残るその一角で、センター開設当初から営業する「笹部書店」は、店内に駄菓子やパンが並び、イートインスペースも併設したちょっと異例の新刊書店。
朝一でお店を訪ねると、2代目の笹部勝彦さんは雑誌の仕分け、妻の由佳さんはパンの陳列作業のまっただ中。ひと段落したところで、由佳さんが淹れてくださったおいしいコーヒーをいただきながら、勝彦さんに気になるお店のあれこれを伺いました。

―パンはいつから販売されているんですか?
店の改装してからやから、2006年かな。豊中高校の前にあるパン屋さん「シープ・シープ」のもので、毎日僕らがお店へ取りに行く。以前はみんなここからバスに乗って買いに行ってはったくらい、すごい人気のパン屋さんで。それを直接お願いして、店に置かせてもらってます。


―パンは店内で食べることもできるんですよね。イートインができる本屋さん、だけど蔦屋書店とは全然違って。
このスタイルになった当時は、「パンと本屋!? アホか!」と言われたけど(笑)。以前は、いわゆる昔ながらの本屋でした。でも、ここは立地がむずかしい。道路に面したお店でもないから。
どうしたらお客さんが来てくれるやろう?と考えて。毎週水曜は店の前に野菜が並びますよ。

―このハラペーニョも売りものなんですね!
昨日の売れ残り(笑)。1個だけ残って。能勢、池田、箕面とか、基本的には近くの組合から仕入れて。ずいぶん前に農民組合に加盟していたから、朝市をやってる方に「ここでもやってくれへん?」と声をかけて。
―笹部さんは住まいもお近くですか?
いまは桃山台ですけど、生まれ育ったのはこの上(店の2階)。
小さい頃、熱が出て学校を休んだときは、父親が「ちょっと店手伝え」って。そんなんふつうでしたよ(笑)。

―もともと、店を継がれることは決められていたんですか?
僕らが小さい頃って、“何々屋の息子”がまわりにいっぱいいたんです。みんな、生活と隣り合わせで親の仕事を見ているから、継ぐのがあたりまえというか。だから違和感なく本屋になりました。


―本は、女性誌中心の雑誌、児童書がとりわけ多いのはどうしてですか?
ここはベッドタウンで、昼にこの町にいるのはお母さんと子どもと高齢者だから。うちの商圏は100mくらい。基本的にこの辺の人しか来ない。夕方は子どもたちのたまり場になるんです。駄菓子も置いてあるから。
―子どもがたくさん来る本屋さんなのに、マンガは入り口の一角だけで控えめですね。
新刊と話題のタイトルくらいやね。駅前には大きな本屋さんがあるから、同じことしてもなぁ…と。だからうちはマンガや文庫は特に絞り込んで。


―長らく、絵本の読み聞かせもされているとか。
そうですね。毎月定期的に、店内で。保育士をしている友人と一緒に始めて、そのうちにボランティアでやってくださる方が増えてきて。今は5~6人のメンバーでやっています。

本屋での読み聞かせはそこらじゅうでやってますけど、うちは絵本を読んだ後に、さらにいろんなイベントがあるんです。たとえば工作の時間があったり、地元の高校のブラスバンドによる演奏があったり、消火訓練をしたり。残念ながら、しばらくはコロナの影響でできへんけどねぇ…。
―消火訓練まで! まるで公民館のようですね。

あと、うちの店には部活があってね。釣りクラブ。地区で「火の用心」にまわる集合場所が店の前で、一緒に来た子どもたちにお菓子をプレゼントしていたんですよ。勝手に。そうしたらその防犯の忘年会に参加してええよ、ということになって、(担当の係でもないのに)毎年参加して。ある時、釣りの話が盛り上がって、「ほな行こか~」と。町内で参加者がだんだん増えて、今では部員が20~30人くらい。下は小学生から上は75歳くらいまで。釣り船をチャーターして行くんです。
―すごい(笑)。会話をする本屋さんだからこそ。
地区の仕事なんかすぐに引き受けるしね。店の前に自治会館があるけど、その運営委員長をしていたり、子どもが通う小学校ではPTAの会長やし。すると知り合いがどんどん増えていくんですね。「チラシ貼らせてください」って来はったお客さんには、どんなことをしている人なのかな?って、すぐに声をかけます。


―いわば、楽しい本屋さんにするためのナンパ!? ですね。
基本的に僕は何もせぇへんから、みなさんのおかげなんですよ。
ちなみにね、妻はもともと並びの動物病院で働いていて。ひと昔前はセンター内に若い人がたくさんいて、みんなで飲みに行く機会があってね。そこでナンパして、本屋さんになりはってん(笑)。




笹部書店
住所/大阪府豊中市新千里西町3-2-3
営業時間/10:00~19:00 日曜・祝日休
電話/06-6872-9385
取材・文/村田恵里佳 撮影/西島渚 編集/竹内厚