打出ハイボールと打出商店街のこと

[芦屋シリーズ]

打出ハイボールと打出商店街のこと

阪神打出駅直結!の好アクセス。それも全長100mに満たないアーケード商店街なのに、喫茶店、八百屋、精肉店、居酒屋、カフェなど、バラエティに富んだ商店が軒を連ねる打出商店街。
新旧の店々がそろう下町の商店街で、ゆるやかな活気が漂う雰囲気もグッとくる。

そんな魅惑の駅前商店街のほぼ真ん中に、打出ハイボール「ヽ」がある。学生の頃からハイボールが好きで、いろんな酒場でその味に親しんできた奈良芳幸さんが2015年に開いたハイボール専門のバーだ。

「レトロな雰囲気の店をやりたかったので、打出商店街は合ってると思って長らく物件を狙っていたんです。芦屋の専門学校に通っていたから、18くらいからこの辺はずっとうろうろしていて。
結婚してこの近所に暮らし始めたこともあって、徒歩か自転車で通えるところを探していたけど見つからず…。あきらめかけた頃にここが空き物件として出ていて、すぐ飛びついて。トイレさえない、まったくのスケルトンやったんで、内装はいちから作りました」。

前職はグラフィックデザイナーだったという奈良さん。「レトロ銭湯の本から写真を切り抜いては貼って、イメージボードみたいなものを作って」、大工でもある友人と2か月半かけて内装を仕上げた。アール天井が連続する鉄道の高架下、はたまたビル地下の酒場にいるような心地で、妙に落ち着く。

メニューには、うなぎ屋のように並と上のハイボールがある。
「並は、サントリーホワイトのソーダ割りを氷なしで入れる。氷がない代わりに、グラスを冷凍庫でキンキンに冷やしておいて。仕上げにレモンピールで香り付けする。これは「コウベハイボール」スタイルと言われるもので」。

「コウベハイボール」は、旧居留地にある神戸朝日ビルで1954年から90年まで営業されていたバー。奈良さんが言う、まさにそのハイボールスタイルを確立した名店で、現在もそのスタイルを脈々と受け継ぐバーが各地にある。ハイボール好きの奈良さんにとっても、学生時代に通った忘れられない1軒だそう。

こちらは上ハイボール。上はホワイトホース12年を氷ありで入れる。
店をオープンする前は大阪の名店[バー立山]で手伝いをしながら、酒場の内側を覚えたという奈良さん。蝶ネクタイを締めたその姿は、まさに立山スタイル。※写真撮影のためにマスクをはずしています

ほとんどの常連さんが注文するという、その“並”をいただきながら、商店街の話も聞いた。
阪神打出駅前から国道43号線まで南北にのびる打出商店街ができたのは約70年前。きっかけは、今はなき海水浴場の存在が大きかったそう。

「もともと打出浜という海水浴場があって、そこへ向かう通り道に店ができていったみたいです。今では海水浴場はありませんけど、それでも打出駅はまだ、阪神沿線の普通しか停まらない駅のなかでも乗降者数がトップクラスらしくて。確かに電車が停まったらひとの流れがすごい。
ふつうは駅を出たらすぐに西へ東へバラけるんだけど、打出駅の場合は商店街のアーケードを通っていく人がすごく多い。だから、徒歩圏内に住む常連さんにとって、ここは関所みたいなもの。店の前を通らんと帰られへんから、入らずに通り過ぎるのはつらいって(笑)」。

6年を経て、お店はすっかり地域に密着した様子。しかも奈良さんは、今年度から打出商店街の商店街会長を任されるまでに。「ここへ来た時は何もわからなくて、ニコニコしてただけなんですけど」。
そう話しつつ、店のオープン以来、向こう三軒両隣の掃除は欠かさず、商店街の前会長である老舗精肉店「なかすじ」店主からの信頼も厚い。

打出商店街で長く続く精肉店「なかすじ」2代目の金田一さん(右)が打出商店街の前会長。いわく、「これからの商店街は彼に任せたから。僕は援護射撃役でね」。
印象的な店構えの「なかすじ」。キューピーのディスプレイは季節ごとに変わる。

地元で代々商いをする昔からの店ではなく、新しく店を構えた若手が会長を担う、その期待感は大きい。…と思いきや、奈良さんに今後の展望を聞くと「あんまり大きなことは言わんようにしていて。言ったらやらなあかんくなるから(笑)。個々の店舗ががんばれば、絶対に商店街としても良くなっていくやろうし」と、接客同様、力の抜け方が絶妙。そして、慎重派ゆえの安心感がある。

以前は、子どもたちの願いごとをしたためた笹を商店街に飾って七夕を楽しんだり、通りにイスを並べ、飲食店はワンコインのお惣菜やお酒を店頭販売する“昼飲み”イベントを開催したことも。コロナ禍では悩ましいことがいろいろあるけれど、奈良さんが新会長となった打出商店街は、急ぐことなくぼちぼちと、下町らしいほがらかな催しを企ててくれそうだ。

夕方は点けているというテレビ。この日は相撲中継が。「相撲やっているときは、ずっと相撲で。特別好きなわけじゃないんですけど、ぼーっと見られるからBGM代わりに。7時になったらテレビを消して音楽に替えます」と奈良さん。
全長100m足らずのアーケード内に29の商店が軒を連ねる打出商店街。阪神打出駅前の北端から国道43号線沿いの南端まで、すっきり見渡せるほどの短さに愛着が湧く。
駅前にある寿司の「はもりや」、「ファミリー喫茶レマン」も長く続く店。

打出ハイボール「ヽ」
住所/兵庫県芦屋市打出町1-16
営業時間/16:00~23:00LO
※取材時はまん延防止等重点措置のため19:00LOでした。以降もコロナ禍の状況次第で変更あり 日曜・祝日休

文:村田恵里佳 写真:西島渚 編集:竹内厚

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