うめきた2期地区開発プロジェクトにかかわるシゴト 竹中工務店

[PEOPLES]

うめきた2期地区開発プロジェクトにかかわるシゴト
竹中工務店

大阪駅の北側に広がる約24ヘクタールの土地の開発を進める大阪駅北地区(うめきた)プロジェクト。竹中工務店は、 2013年に開業したグランフロント大阪を中心とする第1期工事に引き続いて、第2期工事でも開発事業者の一員として参画し、またJV(共同企業体)の一員として設計、施工にも携わりました。
第1期とはまた違ったメンバーで進めているという竹中工務店で、うめきた2期地区に関わる2人に話を聞きました。

竹中工務店が入る御堂ビル。

“中核”となるイノベーション推進のために考えたこと。

― 2人はそれぞれどのような立場でうめきた2期に関わっているのでしょうか。

堀沙樹: 私は現在、開発事業者の立場で「うめきた2期地区開発プロジェクト」に参加しています。開発事業者は、三菱地所を代表とする9社のJVで当社もその中に入っています。この度プロジェクト名称を「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」に決定しました。
私がこのプロジェクトに関わり始めたのは2014年から。1期が完成したのが2013年で、すでに1期の建物は使われ始めていて、うめきた2期区域開発に関する民間提案募集(1次募集)が終わったばかりという段階でした。1期の頃はプロジェクトがどんどん進んでいくのをうらやましく見ている立場だったので、2期に参加できることになってうれしかったですね。

浮田長志: 私は、設計者の立場として2017年のコンペのタイミングから参加しています。最初の1年間は、街区から各建物の構成まで、敷地全体の使い方を考えるコンペ案を設計JVチームで作成することになりました。

― うめきた2期地区は“「みどり」と「イノベーション」の融合拠点”だとうたわれていますが、これはコンペにあたって考えられたものでしょうか。

: いえ、そのテーマ自体は、大阪府を含む協議会(うめきた2期みどりとイノベーションの融合拠点形成推進協議会)から示されたものですが、テーマを整理しながら、具体的にどうしたらこの場所で「みどり」と「イノベーション」の融合が実現できるのかということを考えるのが、私たち開発事業者の役割でした。1期とつながりを持たせつつ、さらに2期で新しくどんなことができるのか。そうやって考えたことを設計チームに伝えると、彼らが、公園、建物やそれぞれの空間を検討してコンペ案を描いてくれました。

浮田: コンペでは、竹中工務店の他に日建設計、三菱地所設計、大林組の4社が設計JVを組んでいました。それぞれの自社オフィスとは別の設計室に集まって、多いときは数十人のメンバーが協働して提案書をつくり込んでいくんです。大規模なプロジェクトがおもしろいのは、そうやって異なる組織の人たちが一丸となって、みんなのアイデアを結集できることですね。

浮田長志さんは竹中工務店 大阪本店 設計部に所属。

― 堀さんたち企画チームの言葉を、浮田さんたち設計チームが形にしていくというやり方なんですね。たとえばどんな形ができていったのでしょうか。

: うめきた2期はオフィスや商業、宿泊、住宅など、いろいろな用途をまとめて開発し整備していくプロジェクトですが、私自身は、その中でも“中核”機能といわれる部分を担当しています。 うめきた2期における中核というのは、「イノベーションを推進する施設をつくること」「その施設を管理運営していくこと」、そして「イノベーションにつながる取り組みを支援していくこと」の3つの機能をいうのですが、私は、建築も中身も含めてこの場所をみんなが交流する場にしたくて。訪れる目的も職種も年齢も立場も違う人たちをあえて混ぜ合わせることで、そこに新しいつながりを生み出したいということを考えて、設計側に投げかけました。

― イノベーション施設というのは、うめきた第1期で誕生したグランフロントもそうですね。

: そうです。イノベーションという言葉には、新結合という意味があります。グランフロントでも同じフロアにショールームと商業施設、カフェなどが混在していますが、2期はさらにオフィスや住宅まで含めて、そこにいる、そこを訪れる人たちを混ぜ合わせることができないかといったことを考えました。

堀沙樹さんは、竹中工務店 大阪駅北地区事業本部でシニアチーフエキスパートを務める。

浮田: 2期の中核となるイノベーション施設が入るのは、北街区の賃貸棟。コンペ段階から、ここがプロジェクトの大切な肝だということは私たち設計側にも伝わっていました。ただ、北街区の賃貸棟の敷地はそれほど大きくはないので、縦積みのボリュームの中に縦貫通した吹き抜けと大階段を設置しました。吹き抜けを介して他のフロアの活動が感じられ、異なるフロア同士の人たちが大階段に座って会話が生まれるような、日常の中に自然発生的にイノベーションが生まれることを想像しながら設計を進め、それが形になっていると感じています。

― 具体的にはどういった新しさがあるのでしょう。

: いろいろな用途が入る建物というのは、本来は用途ごとにフロアを分ける方が管理がしやすく効率もいいのですが、今回、あえて建築的な仕組みで用途を混ぜ合わせました。「活動混在型空間」と私たちは呼んでいましたが、空間に開放性を持たせることで、お互いに普段は関係しない人たちの交流を生むことができるのではないか、空間が縦方向にもつながることで、人同士のつながりや視線のつながりが生まれてくるのではないか、と考えました。それを設計チームが、吹き抜けと大階段のある空間として具体化してくれたということです。

浮田: また、1期と2期の中核を物理的にどう結びつけるのかも検討課題でした。グランフロントのナレッジキャピタルから2期の北街区の中核となる建物に直結させるには、当初の敷地形状では繋げられなかったため、敷地の形を変えて連絡ブリッジで直接アクセスできるように設計しています。


うめきた2期の中心となる公園と緑

― うめきた1期から2期へ。大きく違っているところは何でしょうか。

浮田: 1期は建物が中心で、基壇の上に屋上広場が存在することに対して、2期は「みどり」自体が中心なんです。公園の周りに建物を配置する、というレベルを超えて、公園と施設が一体化するというビジョンで計画しています。南北に広がる敷地全体を大きな「みどり」と考え、その中にキューブと呼ぶ建物を点在させています。その中で、賃貸棟においても様々なサイズのキューブで建物を構成し、建物の中においてもいたるところで「みどり」が感じられるような構成を目指しました。

: この大阪駅前というのはすごくいい場所で、まずグランフロントができて、市民はもちろん市外の方にも親しまれて人が集まっています。2期はさらに気軽に訪れることのできる場所になるはずです。

― 駅前にこれだけの規模の公園が生まれるということだけとっても、大きなニュースです。

浮田: 公園の緑が主役の場所をつくることも、最初から開発の方針として示されていました。緑と建築をどう融合させるかという課題を解決するために、シアトル拠点のランドスケープデザイン事務所「GGN(グスタフソン・ガスリー・ニコル)」が参画しています。梅田というのはもともと湿地だった土地を埋め立てているのですが、その土地の歴史性や地勢を踏まえた「水」や「高低差」を活かしたランドスケープをデザインしています。その中で建物がランドスケープを構成する1つの要素になることを目指しました。

― 「高低差」を活かしたランドスケープ、どんなものでしょう。

浮田: 敷地中央の公園内に南北を貫くように高低差3mの起伏が計画されています。起伏があると、低いところでは「みどり」に包まれた居心地の良さを感じ、歩いているうちに少し高いところに出て目の前が開け開放感を感じたりすることで、場所によって様々な体験を生み出すことができます。
敷地の南北に背の高い建物群があって、その間は分厚い「みどり」におおわれた公園があります。公園の中には、小さな建物群がランダムな方向を向いて点在し、「みどり」の中に建物が溶け込んでいます。公園から連続する賃貸棟の中にも隙間や通り抜けの空間があり、吹き抜けで内部空間と「みどり」がつながっています。
コンペを担当した初期から、ランドスケープが計画の軸として存在し、建物もランドスケープと一体になることを目指して、関係者と共にプロジェクトを進めてきたことで、そのコンセプトが形になっていると感じています。


長期にわたる巨大プロジェクトならではのこと

― 長い期間をかけてのプロジェクトならではの苦労や楽しさもありますか。

浮田: うめきた2期では、各社ともに1期に携わっていない若手の設計メンバーが多く集まりました。といっても、1期に関わった人たちもすぐ近くにいて、実際に話を聞きながら、じゃあ私たちの世代はなにを提案できるのかを考えられたことは貴重な財産になっています。

: もちろん、1期から引き続き関わっている方もいて、過去の経緯も含めてよくご存知なので、その知識にはすごく助けられています。と同時に、各社から新しい若い方が参加してきたことで、そのフレッシュさが推進力になりました。
加えて、関係者が多いとそれぞれの経験や想いも異なるので、なかなか共通言語化というのは難しいものなのですが、今回のプロジェクトでは、事業主と設計者が一緒に国内はもちろん、海外へも視察や見学に行きました。一緒に同じものを体験、共有することでかなり共通言語が増えて、想いをひとつにすることができたと感じています。

― 海外の先進事例も採り入れられているのですね。

浮田: 設計チームでも、GGNの作品があるシアトルやシカゴへ、公園が都市にどう活かされているのかを実際に見に行きました。公園を市民がいかに活用しているか、公園が建築とどのように共存しているのか、それらをこの目で見られたことはとても参考になりました。

: 私が印象に残っているのは、ヨーロッパの事例です。イギリスでは公の美術館や博物館を無料公開していますし、フランスでは企業の財団が運営しているミュージアムもありました。文化の開放を市民に向けてどのように行っているか、誰もが訪れやすい状況を建築的、ランドスケープ的にどうつくっているのかということを現地で見て、コンセプトに活かすことができたと思います。

― うめきた2期、完成後に楽しみにしていることを教えてください。

浮田: 1期、2期を合わせると南北にとても長い広大な敷地なので、建物の使われ方はもちろん、「みどり」もどんどん成長していくと思います。完成後どのように街や公園が運営され、みんなに使われていくかを見続けられるのも本当に楽しみですね。そこがみんなの日常になってどんどん変わっていくのを、何度も訪れて一緒に見ていきたいです。

: この計画が始まった頃、10年後の自分たちの暮らしはどうなるのかをよく考えていて、働く・遊ぶ・住むといったことが少しずつ融合してくる時代がくるのではないかと思っていたんです。それがコロナで少し加速して、働くことと暮らすことの距離がとても近くなった。これからは、さらに建物の中と外も近くなって、一気に混ざり合っていくのではないでしょうか。うめきたエリアは、それが目に見える形で実現するエリアになるはずです。

― 2024年の先行街びらき、そして、2027年の完成がますます楽しみです。

: いままで、開発というものは、その場所をつくる人と、できてからそこを使う人とで、立場が少し分かれているような感じがありました。でも、梅田というのは、つくった人たちも日常的に働きに行ったり遊びに行ったり、もしかしたら住んだりするかもしれない場所ですよね。私たちつくる側も使う立場になれるということが、とてもうれしいですし、楽しみです。

取材・文/古屋歴 写真/坂下丈太郎 編集/竹内厚

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