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団地にあるお店を
ライターの廣田彩香さんが訪ねました。
今回は、若き2代目店主が奮闘する愉快な酒屋へー

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天神橋筋六丁目の駅から徒歩8分ほどの「さざなみプラザ」は第1~第8まであり、この[天六まんじ酒店]が入居する第7だけでも戸数515というマンモス団地。
「父親が創業したのは1988年。この団地(さざなみプラザ第7)ができた年からです。それで今から9年前だから…2008年に店を継ぎました」。

父上が店をされていたときの屋号は[長柄Rice&Liquor]。
ワシはこの街で米と酒を売りますねん、をこれ以上ないほど端的に言い表した屋号でいいなぁ、と頬ゆるむけれど、2代目店主の大川満治さんは“ひと”でいった。ご自身の名前の読みを変えて、[天六まんじ酒店]としてリニューアルしたのだ。さぁさぁ、そこから(いい意味で)フツーの街の酒屋が若きパワーで仰天チェンジ、です。

まず、“売り”を日本酒にした大川さん。時代は地酒ブーム到来のまだまだ前。だけど、知名度なくともうまい酒を醸す酒蔵の地酒を飲んでほしい。
「失礼な話なんですけど、ラベルがもちゃっとしてる(=地味)日本酒は、どうしてもスルーされがち(笑)。中身を飲んでもらうにはどうしたらいいかなと思って」。
首をかたむけた大川さんは、剣じゃなくてマーカーペンのフタを抜いた。手書きポップに小さな字でみっちりと、想いの丈を書き込んだのだ。

「こっちの水はう~まいゾ」と大合唱する日本酒冷蔵庫。

へたうまポップが乱れ立つ雑貨的書店チェーン[ヴィレッジヴァンガード]には「きれいに書かなくていいんだ」と励まされたそうだ。

イラストレーターが使えないためエクセルに画像を貼り付けて出力し、ハサミちょきちょき糊ペタり…って、まるで昔の活版印刷屋さん? そして文章も「美味しい、は禁句として書かない。もっとお客さんに刺さる表現を」と料理記者のようなマインドで挑む。愛する日本酒のフォロワーを増やすべくのドゥ・イット・ユア・セルフが、泣けるじゃないか。

「ワインも自然派ワインを入れて、クラフトビールも揃えた。ほとんどの品揃えを変えましたけど、デイリーなビール(大手メーカーもの)や料理酒にみりん、オヤジの時代から取り扱ってる無農薬・減農薬のお米は買ってくれるお客さんがいるからどうしてもカットはできないですね」

チャレンジして変えるものあれば、変えてはいけないこともある。暮らしに密着する団地内ショップであるからして、の心構えはしっかりと。だって、今注目のアメリカン・クラフトビールと、ジャパンが誇る銘酒「ワンカップ大関」が同居しちゃう自動販売機を見たことがある?

ほかオーストリアやスコットランド、もちろん日本のクラフトビールが対抗するが、「一番売れるのはやっぱりワンカップですね(笑)」。

街の酒屋の生き残り改革、攻める勇姿がいやぁまぶしいです。なんて店主の大川さんと話していると、スーッとひとりの男性がビールを買いにご来店。プシュッという音とともにボリボリと落花生を食べはじめる。「これ? 昨日から食べてるやつ。置いててん。美味しいからどう?」。実は[天六まんじ酒店]、新しく酒屋併設の立ち飲み、いわゆる“角打ち”もはじめたのだ。

落花生をつまみにするアパレル社長の古賀さんは、週5ここで飲んでいるそう。「家で作ったトリッパをアテにして飲もうと、ここに持って来たこともあるな。酒屋に集まる人間は、みーんなせつないよ(しみじみ)」。時計は18時、もうオトナの放課後タイムです。私たちも飲んじゃいましょう。大川さんの奥さんが「よかったら」とスーパーで購入されたホタルイカの酢味噌を特別に出してくれました。なんだここは楽天地か。

角打ちのヘヴィー常連・古賀さん、落花生が食べ終わったらおかきを買い、私たちにもおすそわけしてくれました。ささっ、私が買った120円の袋オリーブもシェアしましょ。

「地元の氷屋さんから塊の氷を買って、夏はここでかき氷も販売してるんです。甘酒やうめ酒をかけた“酒屋がつくるオトナのかき氷”で、ママさん世代から結構人気なんですよ。僕も子どもがいるので、子育てママさんがうちを使ってもらえないかなって。お店に来てくれるのがベストですけど、たとえば僕がお酒を配達して出張居酒屋みたいなことができないかなって、今考えてるんです」

そう言ってぐびっとビールを喉に流す大川さん。酒を売るだけが酒屋じゃない、お酒を媒介として「楽しい場所」をつくるのが酒屋の仕事なのだと、まだまだやりたいことはあふれているようで。

ちなみにこの角打ちスペース、店入口である自動ドアの真ん前に小さな机がどんっと置かれている。普通は角打ちって酒屋の空きスペースを利用すると思うのだけど、思いっきりお客さんの通路にあるわけです。コンビニの前でたむろする若者よりも無邪気(なんせ店内ですから)な飲み風景というか、お酒を買いに来たついでに「楽しそうやし、仲間入れてや」となってしまうであろうウッカリの誘い水がすごい。さらにテレビとプレステまで完備されていて、サッカーゲームの『ウイニング イレブン』をお客さんと白熱プレイする夜もあるらしい。

焼酎を買いに来たお客さんが来た。ビールを置いて、タタタッ…と接客に向かう大川夫妻です。

さてさて時間は19時半。赤ら顔で角打ちにピットインしたのは、「15時からミナミで日本酒飲んでた」中山さん。1杯300円均一の角打ち専用の日本酒冷蔵庫を物色して、今夜はまだまだ飲むでの選手宣誓。阪神戦のテレビまで点けちゃって、ここ何屋だったっけかと一瞬忘れそうになったけど、ここは街の寄り道スポット・酒屋である。そうだそうだ。街の酒屋とは、駄菓子屋を卒業したオトナたちの放課後スポットなのだった――と、ふれあいを求める若き主人が思い出させてくれたのだ。
……せやけど古賀さん、中山さん、今日の阪神はあきませんねぇ。ちょっともう一本、お酒取ってきますわァ。

天六まんじ酒店
●大阪市北区長柄東2-3-27 UR都市機構さざなみプラザ第7・27号棟 101号
11:00~21:00 無休/06-6354-0011
※角打ちで飲めるお酒は瓶モノの購入を(缶モノは×)。日本酒は1杯300円均一。

取材・文:廣田彩香 写真:竹田俊吾 編集:竹内厚

Journal D

UR職員が団地内のいろんなお店を訪ねた「グルメD」。団地愛好家集団“チーム4.5畳”による、団地のイロハをゆかいに伝える連載「週刊4.5畳」など、さまざまな角度からダンチに迫ります。

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