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団地のひとインタビュー 001

with
原田祐馬(UMA/design farm デザイナー)
around
南千里駅~佐竹台~五月が丘 〈大阪・吹田市

#03
街路樹のやさしい剪定/団地の真ん中にある公園/島の空き地

原田昔、住んでた団地に少しずつ近づいてきましたよ。

―このあたりの街路樹は、電線の横まで枝がのこされてますね。

原田ほんとだ。木のことを考えてますね。僕が生まれ育った町のやさしさがにじみ出てるんじゃないですか(笑)。

―強剪定される街路樹も少なくないのに、電線にカバーまでかけて樹の成長を見守っているって、確かに相当やさしい(笑)。

原田うわっ、この道なつかしい!

―ニュータウンの端っこ、エッジまで来ましたね。ちょうど送電線が通っています。

原田送電線まで届くか、無駄にボールを蹴ったりしてたな。僕が住んでたのはニュータウンの外なんです。

―どこか町のトーンが変わってきた気がします。

原田小学校も全然変わってないやん! うわ、あそこの焼肉屋なくなってる! こっちの……

―完全に故郷へ帰ってきたモードですね(笑)。そして、原田さんがかつて住んでいたという団地へ到着!

原田そうそう、真ん中に公園があったのはすごく記憶してます。けど、こんなに小さかったかな、どうやって遊んでたんやろ…。遊具って、どんどん安全性から設計されているようで、小さくまとまってきてますよね。

―確かに。それにしても、どの棟からも丸見えの公園です。

原田ここで遊んでると、みんな廊下から手を振って、公園に集まってきました。いま思えば、団地で暮らす大人たちが直接見てはいなくても、この公園で遊んでる子どもがいるという意識はどこかにあるはずで、そういう意識のあることが、団地に囲まれた公園を成り立たせているのでは。

―大人たちの意識にあることで、子どもたちは見守られていると。

原田…そういえば、瀬戸内海の小豆島の空き地でやったプロジェクトで、路地から人が集まってきて、そういうことって僕はほとんどないんですけど、泣いてしまったことがありました。

―泣いてしまった!?

原田小豆島では、いろんなデザイナーが島に滞在して、町のひとといろんなことに取り組むプロジェクトを企画していて、そのうちのひとつとして、建築家の大西麻貴さんたちが、島の空き地で地元の中学生といっしょに考えた企画が、高校のブラスバンドの子らが地元の人のために演奏するというものだったんです。

―2013年の『瀬戸内芸術祭』の一環で手がけられた「小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト」*ですね。

原田そうです。昔は、島がすごく静かで、誰かがラジオを聴いてると、それを聞きつけてひとが集まるようなことがあったそうなんですね。そういう記憶の話を島の方から聞いて、空き地で音楽をというプログラムになったんですけど、実際に音楽を演奏しはじめると、ほんとに遠くから島のひとたちが集まってきたんですよ。その光景を見てると、もうゾワゾワッ! として。

―記憶の景色とつながったと。

原田大西さんと中学生たちがつくった幻影みたいなものが見えたんですね。ハードとしての建物がなくても、人が集まるだけで場が形成できるってことを、今さらながらに納得しました。そういった、記憶にどう定着させるかみたいなことも、デザインの仕事のひとつとしていつも考えてますね。


映画館のようなもの/おさんぽ演劇

原田そういう意味では、映画館のようなものをつくってみたいですね。

―映画館のようなものってなんでしょう?

原田映画館は映画を見せる場所ですけど、「のようなもの」と考えれば、いろんなものを受け入れる装置になるんですね。だから演劇でもいいんだけど、映画や演劇を見るということと、その前後に飲んだり食べたりしながらコミュニケーションをとるということ、その境をより曖昧にしてみたいんです。たとえば、舞台を見てる途中にふらっと席を立って、屋台で食べたり飲んだりして、だけど、実はそれも舞台の延長線上にあるような演出ができたら、とか。

―カフェ併設というレベルではなくて、もっと一体になってるイメージですね。

原田そうです。維新派(大阪を拠点に活躍する劇団)**の公演は、野外劇場の前に屋台村があることで、まさに「のようなもの」の状況が作られていますよね。

―確かに、維新派の屋台村は、演劇と飲み食いその他いろんなものが融合していました。

原田これも小豆島のプロジェクトで実現した、劇団「ままごと」***の“おさんぽ演劇”というのがよくできていて、島を歩きながら役者のひとが島の思い出を語っていくんですよ。その話というのは、実は、島の方から聞き取った話をもとにしているんですけど、語られていることがいろんな人の経験がもとになってるって、途中まで気づかないくらい。

―それはよくできていますね。

原田しかも、本当にその場所で起きた災害の話とかも入ってくるので、何が本当かわからなくなってくる。そうやって記憶と物語と交錯するところに可能性があるんじゃないかな。

―ひとつの核がありながら、虚実も日常非日常も目的もごちゃまぜになった場所やプログラム、いいですねー! もうすぐ制限時間と決めた2時間ですけど、どうしましょうか。原田さんが溺れかけたという釈迦ヶ池に行きますか。

原田それもいいけど、家族とよく行ってた居酒屋の方へ向かいますか。その建物がコの字型になっていて、面白いんです。

―ではそうしましょう。取材としては一応ここまでということで。ありがとうございました!

**維新派の公式サイト
http://www.ishinha.com/

***劇団ままごとの公式サイト
http://www.mamagoto.org/

文/竹内厚 写真/平野愛