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美術館の貸し借り事情
鈴木慈子、相澤邦彦(兵庫県立美術館)

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美術館の展覧会のカタログの、だいたい一番最後の方にある作品リスト。
そこには作品名や作家名、制作年とならんで、所蔵という項目がある。
「あ、これって作品借りてきてるんだ。まあ、そりゃそうだ」。でも、実際作品を借りるってどうするんだろう?

意外と知らない美術館の貸し借りの裏側について、兵庫県立美術館の学芸員、企画担当の鈴木慈子さんと保存修復担当の相澤邦彦さんにお話をお伺いしました。

#1 展覧会は貸し借りでできている

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まず一般論になりますが、美術館で展示されてる作品は、その美術館に収蔵されているものばかりではないですよね。あれはどこからか借りてきてるんですか。

鈴木:そうですね。もちろん収蔵品の中から選んで展示する「常設展」や「コレクション展」も行っていますが、特定の作家やあるテーマに焦点をあてた「特別展」や「企画展」の場合は、よそから借りてきた作品を中心に構成することが一般的です。

相澤:特にテレビでもプロモーションしているような大型展など、展示される作品のほとんど全てが借りてきたものという場合も多いです。例えば、先日まで兵庫県美でやっていた「生誕130年記念 藤田嗣治展」では、フジタの学生時代から晩年までの約120点を展示しましたが、うちの収蔵品から出たものはひとつもなくて、全部借りてきたものでした。

作品はどこからどういう手順で借りてくるんですか。

鈴木:いろいろですが、一番多いのは他の美術館です。国内はもちろん、国外の美術館からもお借りすることがあります。それ以外にも企業や財団、個人で作品を所蔵されている方や作家のご遺族から直接お借りすることもあります。
貸し借りの手順としては、所有している美術館や個人に直接連絡をとって、いつからいつまでこういう趣旨の展示を企画しているので貸してもらえませんか、ということをやります。ただ、作品を誰が持っているかという情報はどこかが一括で管理しているものでもないので、まずは各美術館が公開している所蔵作品図録を調べて、載ってない場合は知っていそうな人に問い合わせます。例えば作家と付き合いのあった画商さんに聞いてみて、心当たりがあれば取り次いでもらうとか。

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鈴木慈子
1984年生まれ。大阪大学大学院修了。2011年より兵庫県立美術館に勤務。現在は作品貸出を中心に、所蔵作品の管理に携わる。担当した展覧会に「東京・ソウル・台北・長春―官展にみる近代美術」(2014年)など。

なかなか地道な作業。

鈴木:ただ、そういう地道な作業をしているうちに、ひょっこり新しいものが発見されたりすることも結構あります。ある作家の作品を探して、情報を集めたり人をたどったりしているうちに、同じ作家の誰も見たこともない作品が突然発見されたり。だから単に持ち主を探し出して借りてくるというのではなくて、それ自体が調査・研究という側面もあります。

逆に、他の美術館に対して作品を貸し出すこともありますよね。

相澤:もちろんあります。兵庫県美には約9000点の作品が収蔵されていますが、いつも数十点くらいは貸し出されています。ただ、うちは年に4~5本の大きな展覧会をやるので、単純に数だけで言うと、貸している数より借りている数のほうが圧倒的に多いですね。ちゃんと数えたことはないですが、1年間で1000点くらい借りることもあります。

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相澤邦彦
1975年生まれ。成蹊大学文学部卒業。美術修復研究所研究員、森美術館コンサヴァターを経て、2012年より兵庫県立美術館に勤務。油彩画を中心に、近現代美術作品の保存修復と美術館における予防保存活動全般に携わる。

借りるにしても貸すにしても、ものがものだけに気を使いそうです。美術作品の貸し借りで特に気をつけていることは?

相澤:大前提として、安全に貸すこと、返すことです。作品を移動させて展示するということは、作品を保存し未来に伝えていくという観点からするとものすごくリスクがあることです。例えば油絵の場合、ちょっと暑い日にその辺に放置なんかしようものなら、とたんに傷んでしまいます。輸送の際の物理的な衝撃もある程度は避けられないし、もっと言えば多くの人が出入りする場所に展示されることそのものが作品にとって負担です。だからとにかく借りる側も貸す側も、細心の注意を払いますし、そのための環境や設備が整っていない場合は貸し出しをお断りすることもあります。
それから作品の持っている文脈や背景を十分に汲み取って扱うということも必要になります。分かりやすいところでは、日本刀は扱う際にまず一礼からはじめる、ということがあるようです。うちは近代美術がメインなのでそれほど多くはないですが、宗教性を帯びているものなどをお借りするときは、マナーや所作といったレベルで気を使うことはありますね。

鈴木:美術作品に限った話ではないのかもしれませんが、やっぱりみなさんそれぞれの想いで大事にされてきたものをお借りしてくるので、そのあたりの気持ちをしっかり受け取ることが大事なことかなと考えています。特に個人所有の作品の場合、私たちがお宅にお邪魔して直接お借りしてくるということもありますから、「この度はどうも……」といったご挨拶からはじまって、作品の想い出や思い入れなどを聞いたりとか、それがどなたかの遺品だった場合はその方についてもお伺いしたりとか。そういうこともすべて含めてお借りしてくる。そして、わざわざお借りしてくる以上、やっぱりいい展覧会にしたいなと思いますね。

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兵庫県立美術館
神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1/2002年、前身の兵庫県立近代美術館が移転するかたちで開館。愛称は「芸術の館」。設計は安藤忠雄。
http://www.artm.pref.hyogo.jp/

文:岩淵拓郎(メディアピクニック) 写真:平野愛

#2 作品の貸し借り、そのバックヤード


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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