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美術館の貸し借り事情
鈴木慈子、相澤邦彦(兵庫県立美術館)

#3 地域ゆかりの作品、たとえば「具体」

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話は変わりますが、鈴木さんは昭和30~40年代にかけて関西を拠点に活動した前衛美術集団「具体美術協会」(以下、具体)のご専門ですよね。実は、大阪市西区にあるURの西長堀アパートには、具体のリーダー吉原治良さんが制作された壁画があります。

鈴木:はいはい、あのちぎり絵みたいな壁画ですよね。実は私、学生時代にあの作品を調べたことがあって、新聞で取り上げてもらったこともあるんです。

そうなんですね! ちなみに今はこんな感じになってます。

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※西長堀アパートのエントランスに設置されている吉原治良の壁画(1958年制作)。長らく壁に覆われ鑑賞できなかったが、2016年のリノベーション工事で再び日の目を見ることに。

鈴木:わー、懐かしい。改装されてすごく綺麗になりましたね。私が訪ねた2008年には、薄暗いわ、前に卓球台が置かれてるわで、なかなか寂しい扱いでした(笑)。そうですか、こんなにキレイになったんですねぇ。今度また観に行こうかなぁ。

兵庫県美にも具体の作品は数多く収蔵されていますよね。

鈴木:そうですね。具体は活動年数が長いし関わっていた作家も多いので「ここからここまでが具体」とはっきり言いづらいんですが、いろいろ含めるとかなりの点数になると思います。

それらは購入したもの? それとも寄贈?

鈴木:両方ですね。最近は作品予算がそれほどつかないんですが、80年代には郷土が産んだ重要な前衛美術として積極的に購入していたようです。当時の少し興味深いエピソードを紹介をすると、西宮にコレクターの山村徳太郎さんという方がおられて、具体の作品をたくさん収集されていました。兵庫県美としても山村さんがいいものを買っておられるということは知っていたので、うちも負けてられないと競うように集めていたそうです。ですが、山村さんが亡くなった後、「山村コレクション」というかたちで一括して兵庫県美に収蔵されることになりました。

山村さん、めちゃくちゃ男前ですね(笑)。

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鈴木:もちろんそんな規模での寄贈はめったにないですが、コレクターや作家が亡くなったタイミングでご家族から寄贈していただくということはたまにあります。具体に関しても、ここ10年で初期メンバーの何人かお亡くなりになり、学芸員がアトリエやご自宅に調査にお伺いして、何点かいただくことが決まったケースがありました。

そういった寄贈は、作家もしくはコレクターの地域との関わりから託されることが多いと思うんですが、兵庫県美としてはそのあたり積極的にプロモーションしていこうという意識はありますか。

鈴木:これはあくまでもいち学芸員としての意見ですが、プロモーションよりは、むしろ地域ゆかりの美術としてわれわれなりにしっかりと研究して位置づけていきたいという思いが強いですね。 特に具体に関しては、2013年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で大規模な回顧展があって、そのときはうちからも何点かお貸ししたんですが、それ以降、世界的な具体の評価は一気に高くなっています。実際、一部の作家の作品はオークションでものすごい値段がついてますし、値段だけの話ではなく、戦後の美術をワールドワイドに捉える際に具体の作品を加えるということがもはやスタンダードになっています。そういう状況の中で地元の公立美術館としては、逆にきちんと地域の文脈と結びつけながら位置づけていくことが必要なのかなと考えています。

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ミュンヘンの美術館に貸し出された、具体を代表する作家・白髪一雄の作品。海外への貸出の際は必ず学芸員が同行するとのこと。(撮影:相澤さん)

世界的な評価やマーケットでの価値とは別のところに、地元の美術館だからこそ果たすべき役割があると。

鈴木:もちろん評価が高くなること自体はいいことなんですけどね。ただその一方で作品がどんどん海外に出ていってしまう。作品だけじゃなく、資料も出ていってしまうというような状況もあります。それは研究をする身としては本当に辛い。なんとか阻止したいという気持ちもありますけど、いち美術館としてできることは限界がありますから、そのあたりは近隣の美術館と一緒になって考えていかなければいけないなとは思いますね。

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文:岩淵拓郎(メディアピクニック) 写真:平野愛
(2016年11月21日掲載)


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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