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    木村ふみのりさんの 自分の手でつくる家 #1

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映画美術の仕事で全国を飛び回っている、ギャル男研究所・木村ふみのりさん。ご自身の住まいは、解体予定の家を借りて改装して住むというスタイルを約20年前から続けていたそうです。見よう見まねからスタートしたという改装の仕事。そもそも家の改装をするようになったキッカケから、建築と撮影セットの違い、現在の住まいなどについてお話を聞きました。

#1
始まりは維新派から

まずは、「ギャル男研究所」という気になる名前の由来からお聞きしました。

木村:美術短大に通っていたときに「ギャル男」っていうあだ名をつけられたんです。今から25年くらい前で、まだそんな言葉がない時代だったんですけど。その後、維新派という劇団に入ってからもそのあだ名で呼ばれていたので、仕事の屋号も「ギャル男研究所」と名付けました。

維新派では美術を手がけるほか、役者としても出演されていたという木村さん。維新派に出入りするようになったのは学生時代だったそうです。

木村:「絵描きが足りなくて困っているらしい」と聞いて手伝いに行ったんですけど、やることが山のようにあって、とても抜けられるような状況じゃなかった。結局、半年くらいどっぷり浸かって、卒業後はそのまま維新派に入りました。それからいきなり貧乏になってしまって(笑)。公演の準備だけで半年以上かかるのですが、その間、収入はないけど仕事をする暇もない。そこで、少しでも家賃を安くするために劇団の仲間と3畳1間でルームシェアを始めました。当時は家に手を入れるような技術はなくて、借りたそのままで住んでいましたね。

入団当初は苦しい生活をしていた木村さんですが、劇団として内装の仕事を手がけるようになってから、新しい仕事が増えてきたといいます。

木村:維新派が最初に内装をやったのが、大阪にあるミニシアターの「シネ・ヌーヴォ」です。それから店舗のオブジェづくりの依頼などが来るようになって、僕としても店舗の内装が少しずつ仕事になり始めた。ひと店舗丸ごと任されることもあったので、大工仕事もするようになりました。やったことがないことでも、なんとか考えてやっていましたね。

そうした経験から、自分の住まいも自身で改装して住むという暮らしが始まったそうです。

今回のインタビューは木村さんのご自宅で。木村さんによるすてきな自宅改装エピソードは後ほど。

村を丸ごとつくる仕事があった

維新派の美術監督を務めていた林田裕至さんは、いまや東京を拠点に活躍する映画美術の第一人者。そうした縁などもあって、木村さんも現在、主に映画美術の仕事をしているそうです。映画美術の仕事を通して、内装だけでなく家づくりまで手がけるようになっていきました。

木村:本格的に家を建てたのは、『十三人の刺客』という映画の仕事をしたとき。山形県の庄内映画村というところで、3ヶ月くらいかけてひとつの村を丸ごとつくったんです。 僕らのようなセットビルダーと、日本家屋をずっと建ててきた大工さんとの合同チームだったんですが、仕事をしているうちにめちゃくちゃ仲良くなって、家の作り方も覚えてしまいました。

もともと大工仕事をされていたとはいえ、家づくりをそんなに短期間で覚えたというのは驚きです。映画のセットと実際の家を建てることの間には、どういった違いがあるのでしょうか。

木村:セットはベニヤ板で壁を立ててから、補強のために柱を合わせていくという順番でつくります。だから、どうしても四角い形の空間ができるんですね。建築はその順番が反対で、先に柱で骨組みをつくってから、壁を埋めていく。真逆の発想ですが、僕の考えでは大きな違いはそれだけですし、より自由に形をつくることができる建築への興味が湧いてきました。いま、僕が使っている作業場は、自分でイチから建てたんです。

空き家を自分の手で心地いい住まいに

現在、木村さんがご家族3人で住んでいる家は、大正時代に建てられた長屋のなかの1軒。7~8年空き家になっていたという物件です。

木村:2年くらい自宅兼作業場として使える建物を探していたんですが、なかなか見つからず、結局、作業場は別にすることにしました。改めて探してみたら、その頃、住んでいた場所の4軒となりにこの家があった。毎日前を通っていたのにノーマークでした。

路地に面した昔ながらの建物がご自宅。

コンクリート造りで、木を基調とした内装とはかなりイメージが違います。

外観からイメージするよりもずっと奥行きがあり、中庭までついているところが気に入ったとのこと。ただ、長屋ということもあって隣家のある側からの光が入らず、見つけた当時の室内は真っ暗だったといいます。

木村:僕は建築家ではないので、改装するとき最初に図面を描くということはしません。まずはバラシから始める。
天井や床、壁をどんどん取っ払ってみて、出てきたものを見てからどうするかを考えます。バラシた結果、また同じ場所に床や天井をつくることになったとしても、一度は見ておいたほうがいいと思うんですよね。
この家は暗かったので、最初は1階の壁に採光の丸窓を開けるのを試してみたりしてたんですが、2階の床を抜いてみたら一気に光が入ってきました。

2階の床を一部はずして吹き抜けに。外からの光を白い壁で反射させることで、1階にまで光が降り注ぐように。

1階にふたつ並ぶ明かりとりの丸窓。そのすぐ下はウォークインクローゼットに。衝立の木材には剥がした2階の床が使われています。

木村:1階は、3つの部屋と廊下に区切られていたのですが、壁を取っ払ってひとつの空間にしました。そのときに柱も6本外しましたが、大工さんの仕事を見て強度の保ち方もわかっていたので、そんなに怖くはなかったですね。
柱を外した分を補強するために、外した柱をそのまま梁として使っています。大阪北部地震のときも問題ありませんでした。

柱だった木材が、今は梁として家を支えています。

言われて見れば、家の細部には手づくりらしい跡がたくさん。

玄関入ってすぐの垂れ壁。カーブに苦心の跡が。

玄関をヒキで。垂れ壁を曲線にした気持ちがわかります。温かい雰囲気。

以前は小さな部屋に区切られていたという1階。いまはキッチンとリビングからつながる、広くて居心地のいいひと部屋に。

木村さんがこの家にかけた改装の期間は、他の仕事などもしながら約4カ月だそう。それが早いのかどうかわかりませんけど、住みながら、バラしてみながらというやり方でしかたどり着けないだろう住まいが確かに実現しています。

文:牟田悠 写真:西島渚 編集:竹内厚

https://uchi-machi-danchi.ur-net.go.jp/cms/ours/kimura-2/
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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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