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  • シリーズ:家ってなんだろう 木村ふみのりさんの 自分の手でつくる家 #2

木村さんのバックグラウンドを伺った前回に引き続き、お家の中を拝見。
家から出て、この地域との関わりについても伺いました。

#1 はこちら

#2
概念を壊したい、だけど家は生活の場

震度6の地震が来てもびくともしないほど強度が確保された、木村さんの住まい。しかし、2018年の西日本集中豪雨と台風のときには大変だったそうです。

木村:豪雨のときは、縁側の外の建具に横殴りの雨が10分間くらいバチバチ当たり続けたんですね。そうしたら、隙間からどんどん水が入ってきて。あっという間に縁側が水浸しになりました。
台風のときは2階からの雨漏り。古い建物で柱が歪んでいたりするので、窓枠との間に隙間ができてしまっていたんです。それでも屋根の懐に入った部分なので大丈夫だと思い、僕に時間ができたら埋めるつもりでいたのですが、予想外の暴風雨で雨が入り込んできてしまいました。

思いがけない弱点となった2階の窓。南からの暴風をまともに受ける位置にあったのも災いに。

縁側も入居後につけ足した部分。それにしても、2018年の大阪は想定を超えた悪天候が続きました。

舞台や映画の美術制作者として、オリジナリティある空間を数多く手がけてきた木村さん。セットと家とでは、つくるときの手順だけでなく発想の方法が違うようです。

木村:もともと美術の側でオブジェなどをつくっていた人間なので、概念を壊すことを考えていました。強度を考えずに無茶をしたこともあります。
たとえば、機関車の車軸のようなものを舞台の天井に吊って、ぐるんぐるん回したことがあったのですが、それがお客さんの前で落ちてきたんです。一歩間違えたら大事故につながるところで、ものすごく反省しました。それから強度についてはしっかり考えるようになりましたね。

もともとは中庭=外だったところを縁側として建て増し。波板の屋根に手づくり感。

3匹のネコも一緒に暮らしているため、縁側はネコの脱走防止策になっています。人見知りでこの日はクローゼットから出てきませんでした。

木村:維新派として内装を手がけていたときには、店舗からの依頼で変わった建具をつくったりもしていました。木材を何枚も重ねて100kgくらいある木の塊にして、それを波打つような形に彫り出してドアをつくったり。 でも、実際に住むとなると何でも自由にするというわけにはいかないし、そこまで奇抜なことをしようとは思いません。天窓ひとつ取り付けるにしても、雨漏りの可能性がすごく高くなるし、施工も難しくなる。わざわざそんなことはせずに、なるべくほかの方法を考えるようにしています。

数種類のレトロガラスを組み合わせた玄関。

生活の場といっても、扉に窓をつける細工などはお手のもの。

端材は捨てずに再利用

木工でのものづくりのプロである木村さんが改装したお家は、ぬくもりがあって落ち着く雰囲気。とくに、年季の入った木材でつくられた建具に味わいがあります。取材に伺った日は、お子さんが元気に走り回っていました。肌触りのいい木の床は、子どもの柔らかい足の裏にも気持ちよさそう。

木村:映画美術の現場でもそうなんですが、解体するとどんどんゴミが溜まっていって、捨てるのが大変なんです。産業廃棄物として処分すると、すごくお金がかかりますし。だから、できるだけ何かに使いまわすようにしています。

洗面所の扉は、もともと2階の床だった木材でつくられています。なお、息子さんは家ではパンツを履かない派。

テレビ台はさまざまな端材をコラージュしたもの。

白壁に設けられたちょっとした余白のスペースがミニカー置き場に。

家具の多くも木村さんの手づくり。空きスペースにぴったりの棚などは既成品ではなかなか実現できません。

再利用の木材だからこその味わい。新しい家具だけど年季が入ってます。

天井付近には手製のキャットウォークも。しがみついて寝るネコもいるそうです。

2階にはベランダがあり、近所の家々の屋根を見晴らすことができます。この風景も、木村さんがこの家を気に入った理由のひとつなのだそう。

木村:1階の上の屋根は、ネコたちの憩いの場になっています。この屋根の上でいつか屋上緑化をやってみたいですね。ベランダからそのまま出ていけるようになれば、庭が2倍の広さになるようなものですから。

子どもが育っていく地域と関わりを持つ

取材に伺った日は、近所にある「ギャラリーKONOMURA」で開かれるイベントに木村さんも出店するとのことだったので、見学させてもらいました。木村さんが所属していた維新派の有志による「移動雑貨店 まちむし」です。

木村:ギャラリーKONOMURAもうちと同じ大家さんで、空き家だったのを僕が改装しました。ただ、それから7年くらい放置されてしまって、玄関なんかが傷みはじめていたんです。大家さんに修繕を依頼されたので、「せっかくなら活用しましょう」と提案して、3年くらい前から維新派の仲間と「まちむし」を始めました。

長年放置されていたギャラリーですが、最近では週末ごとに利用されるようになっているとのこと。この日もたくさんの人で賑わっていました。

手づくりのアクセサリーやお菓子、有機栽培の野菜などが並んでいました。

小さなこけしは奥さんのきむらようこさん作。

この日、木村さんは手づくりの参鶏湯を販売。

木村:前の家と合わせると、この地域には14年くらい住んでいます。でも、地域と積極的に関わるようになったのはここ数年。やっぱり子どもが生まれたことが大きいですね。ここで育っていくことを考えると、お世話になるご近所さんとはできるだけ仲良くなりたい。僕は、映画の撮影が入ると長く家を留守にしていることが多いので、いる間にできるだけ顔を覚えてもらおう思っています。

文:牟田悠 写真:西島渚 編集:竹内厚
(2019年1月28日掲載)


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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