団地のひとインタビュー 003

正置友子(青山台文庫)

#2 図書館は未来への希望

#1 はこちら

町に図書館があることがすっかり当たり前になって、家庭文庫を立ち上げたり、図書館を要望する活動だったり、そんな時代があったことが忘れられてきているのかもしれません。正置さんは、図書館の役割をどのように考えていますか。

図書館というのは蔵書構成がものすごく大事なんです。わが市の図書館にどういう本を置くか。究極のところ、それによって市民の賢さも違ってきますね。つまらない絵本ばかり置いてあったとしたら、子どもたちもお母さん方も物を考えない、流される人になりますよ。その町の頭脳をつくる、あるいは精神をつくるのも図書館だと思ってくださって間違いありません。

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どういう蔵書を揃えるか、図書館のキモですね。

そして、図書館というのは行政がすべきことだと思います。赤ちゃんからご老人まで、体の弱い方も、それぞれに配慮をして運営をして、文化行事を行なっていく。これがもし企業による運営だと弱いところから切り捨てられますよ。図書館に入館するのにお金がいるわけじゃない、1冊借りるごとにいくらか支払うわけじゃないですから、人のところでコストを下げるしかないんです。

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そうかもしれません。

心ある企業もたくさんあると思いますよ。ただどうしても、利潤をあげなきゃいけないとなると難しい。税金の使い道としても図書館ほどいいものはないと思うんです。1冊の本を買えば、多くの市民が何度でもその本を借りて利用できますから。

図書館は行政にとってもお得だと。

ただ、図書館ももっとPRに努めないといけないですね。行政のトップにも市民にも顔が見えるような行事だとかを開いていかないと。だいたい本が好きなひとたちって、あまり大げさに言うのが苦手だから。
人と本が出会うだけじゃなくて、人と人が出会えるのが図書館。つまり、図書館というのは情報センターなんです。また情報って言葉を使うとすぐにね、パソコンを置けばいいっていうけど、違うんです。情報イコール電子機器ではなくて、たとえば、双子をどうやって育てようかと悩んでいるお母さんが、図書館に来て図書館員の方に相談をして、参考になる本を紹介してもらう。こうしたことは、その図書館にある年月勤めて、本棚や書庫にどんな本が揃っているのか把握している図書館員でなければできません。

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青山台文庫のようす

蔵書構成、それを把握して使いこなせる司書の存在。どんな本を図書館に揃えていくかはやっぱり大変な作業ですね。

そうですよ。限られた予算ですから、すべての本を買うことはできません。どんな本がその図書館に必要かを判断するには、ある程度の経験と勘みたいなものを働かせないといけない。だから、カウンターでやっていることだけを見て、民間に委託すればいいと思われるかもしれませんが、図書館は、その背後にある仕事がものすごく多いんです。そして、それは時間がかかること。すぐに結果が目に見えるものじゃないので、トップに立った人はなかなかそこまで見てくれません。

一朝一夕に図書館が充実するわけじゃないというのは、青山台文庫を拝見していても強く感じることです。

図書館というのは水道管と同じ、命を守るところ。ほんとにそうですよ。地域でも学校でも家庭でも、いまはいろんな問題がありますけど、本というのはそこでいい役割を果たしてくれるし、よい図書館が日本中にあれば、いまの妙な流れを止めることができます。自分で考えて、自分の言動に責任を持つ市民をつくるには、絶対に図書館が大切なんです。

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DATA
青山台文庫●青山台団地C42棟集会所2F/毎週水曜日15:00~17:00/年会費500円/本の貸出は5冊まで/団地住まいの方でなくても利用できます

40年以上続く青山台文庫、次回はいまの様子をレポートします。取材時には、ちょうど「だっこで絵本の会」が開かれていました。絵本の魅力についても正置さんに教わります。
#3 0歳児と絵本から教わったこと


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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