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家をせおって歩く
村上慧さんは何を考えているのか。

#2 家とは屋根と壁である!?

#1 はこちら

村上さんは建築学科のご出身だそうですね。

村上:大学2年のときに住宅設計コンペで入選したことがあります。壁に囲まれてその中で住むのが家なんですけど、それを裏返してみたらどうなるのかということを考えて、仲間とつくったプランで。

家を裏返すとは。

村上:赤瀬川原平さんの「宇宙の缶詰」という作品をご存知ですか。そこからアイデアをもらったわけではないけど、まさにその建築バージョンみたいな感じで。

「宇宙の缶詰」は、中身を食べた缶詰のラベルを内側に貼りつけて、缶のふたを再び密封することで、缶の内外を反転した作品ですね。

村上:そう。僕らがつくったプランは、ごく小さな中庭とその周りを囲うように四角い収納ボックスを配した住宅で、テレビやキッチンの棚をどんどん家の周りに広げていって、外側に生活を展開させるような考え方でした。

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ご自宅は、2016年に奥さんと開いた「awai art center」。ギャラリーにカフェを併設。

学生時代から家の概念を考え直すような活動をされてたんですね。

村上:考えていることや出てくる形はその頃から変わってないかもしれません。

いろいろ伺ってきましたが、ただやっぱり気になるのは、どうして家を背負って歩くのかということ。

村上:決して理詰めじゃなくて、いろんなことが積み重なってのことなんです。大学4年の頃から美術の作品もつくりはじめて、公募展に出したり、芸術祭に出たりとかしてきましたけど、だんだん精神的にキツくなってきたんです。その理由をざっくりと話すと、社会的なことを考えながらやってきたのに、いくらやっても枠組みの中から出られない、やっていることがまったくクリティカルじゃないなと。それで、制作もすべてやめて、専業フリーターとして働いてみたら、今度は、お金や社会の巨大なシステムから逃れられない感じがした。いろんな違和感に包囲されているような中で、とにかく自分の手で住み方をつくるところから試してみようと思って、発泡スチロールで家をつくってみました。

それでも背負って歩く必要はなかったのでは。

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家を移動しているときの視野は意外に狭い。

村上:津波で流される家の映像を見たりとかもひとつのキッカケになってますけど、ただ、家を持って歩くというモチーフは必ずしも新しいものじゃなくて。世界には、頭の上に屋根を乗せて引っ越しをする民族もいるんです。傘みたいな感覚でしょうか。

家は動かないものというのが、勝手な思いこみなのかもしれません。

村上:宮城県の石巻まで歩いていったときに、トレーラーハウスに住んでる方に出会いました。津波で家が流されてしまったので、もう家は建てるのはイヤだというので、土地を買って、そこにトレーラーハウスを置いてるんだけど、それでは住民票が取得できないって役所の人に言われたそうなんです。だから、トレーラーハウスにロープを張って、地面に動かないように打ちつけて、動かないことを懸命にアピールして住民票を取得したって。

制度のはざまではトンチのような状況が生まれてるんですね。

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自宅のすぐそばにある、気になる住宅建築の前で。松本は街中、セルフリノベ建築の宝庫という印象。

村上:この場合は、タイヤがあるとやっぱり家じゃないというのが役所の見解だと思います。家を背負って歩くうちに確信したことですけど、家の機能って、上の箱の部分にあって、それが地面についてるかどうかはほとんど関係ない。というか、もっと原始的なことをいえば、雨と風を防ぐことができて、寝るための安全な場所を提供するというのが基本的な機能。そのためには屋根と壁があればいいんです。

床は必ずしもいらないと。

村上:土地との関係が大事になってくるのは、今が定住文明だからであって、敷地を固定することで税金が発生したりして、経済をドライブさせることができる。家の機能というよりは、共同体として社会を大きくするために必要なことなんだと思います。かといって、僕自身、「イントゥ・ザ・ワイルド」のように大自然の森へ入っていって狩猟採集の生活をしたいわけではなくて、やっぱり僕は建築を勉強してきたし、とても都市が好きなんですね。

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サバイバルな冒険家でもなく、放浪したいわけでもなく、ノマドでもなく。村上さんの興味の対象はあくまでも家。

村上:そうですね。だから、“移動する生き方”とか言われると、ちょっと違うなと思います。自分から“移動する生き方”と言ってしまうと、自分の中の移動しない部分に目をつぶっていくことになるじゃないですか。移動する/移動しないの2択じゃないんだから、移動するスパンや、ひとつの場所にどれだけ留まるかはどうでもいいんですよ。

狭間でいるのはなかなか難しくて、わかりやすい名付けや定義で語られやすいですから。

村上:そういう意味では、今は、ひとつの家を背負って各地に移動させていますが、ある土地に家を固定して、窓やドアの位置、庇の深さとかを毎日少しずつ変えていくようなプロジェクトもできるなと思っています。

ゴルフ場がグリーンのカップを日々切り直すようなことですね。

村上:そうです。ピンの位置ひとつでコースがまったく変わるように、家もどこの要素を変えるとどう変化するのか、その検証ができるんじゃないかな。

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#3 家を自分の手に取り戻すこと


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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