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  • 週替わり みんなの日記 木塚 國力さん(パノラマ珈琲)~後編~
 

本業のかたわら生活の延長線で店舗を持たないスタイルの自家焙煎珈琲屋を営む。[メロウ][スロウ]という対照的なブレンドを創作している。

11月22日

朝、5人で朝食をすませる。章悟さんとリサと林子は佐賀へ向かうため、ここでサヨナラ。数日後にスウェーデンへ帰国するリサとはアツいハグをした。木葉さんと博多へ向かい「また大阪で!」と別れた。
ひとり向かった先はこの旅のもう一つのメイン。中央区赤坂けやき通りに面する「珈琲美美」だ。日本の純喫茶界の2大職人、東京の大坊勝次さんと福岡の森光宗男さん。「東の大坊、西の森光」と同業者から敬われる2人の共通項は“自家焙煎”と“ハンドネルドリップ”というスタイル。そのマインドを受け継いだ先輩方は多く、著書にも沢山触れてきたこともあり一度は行きたいと思っていた。その“西の”方にはじめて訪れた。
2年前に他界された森光宗男さんが1977年に開業し、2009年にこの場所に移転。現在は妻の充子さんが営まれている。2階の窓際のカウンター席のちょうど充子さんと向かい合わせになる席に座り[吟味]というブレンドを注文。「大阪から来ました。珈琲とても美味しいです」と、ゆっくり時間を掛けて充子さんとの会話のラリーが始まる。大通りの車や人々のせわしない環境音が、窓を隔てて午後の昼下がりの日光と共に優しく聞こえてくる。2杯目は[濃味]というブレンド。その頃にはラリーも軽快に弾んでいて、焙煎やネルドリップのこと、八女市・久留米市を訪ねたことを話した。「またいつか」と充子さんと軽く挨拶をしてその後は彼女を師事するスタッフの方としばしお話しをし、店を後にした。
環境から人、一杯の珈琲まで凄く美味しかったのだ。連日の職人達との触れ合いとも重なり、帰りの新幹線ではだいぶ落ち込んだ程だ。何かをやり続けている人の生み出すものは計り知れない覚悟と重みが混ざり合っていて、改めて自分を見つめなおした時にちょっとビビる。帰ったらすぐに自分の珈琲を飲み、この落差を知ろうと決めた。「これでいいのか」。
悩める2時間弱があり夕方過ぎに新大阪に到着した。大阪メトロで中津駅まで行き、次なる目的地へ。ギャラリー ヨルチャでこの夜行われる音楽家トウヤマタケオさんのソロライブ。狭いギャラリーの中で行われる12名限定のライブで、皆ひしめき合って流れる音に耳を傾け集中していた。演奏の途中、壁に立て掛けられたとあるレコードジャケットに目がいく。僕も大好きなセロニアス・モンクのピアノソロアルバム『Alone in San Francisco』だ。しばらく考えたあとに「あーなるほど!」と、あることに気が付く。真意を確かめるべくライブ後に主催のイルボンさんに、あのアルバムはあえて置いてますよね? と質問する。「あーそういう気分だったから置いたけど、確かにそうだね」とイルボンさん。そう、僕とイルボンさんが共通して感じ取ったのは、“セロニアス・モンクとトウヤマタケオの音楽はどこか共通している”ということだ。その言葉に出来ない“どこか”を共感できた。その後のトウヤマさん本人との会話の中でも「ジャズで聴くのはモンクとカーラ・ブレイくらいかな」と言うからまさに的中。誰かと何かを言葉を使わず共感できた時、僕は嬉しい。
プリペアードされたピアノから生み出されるトウヤマさんらしい音楽も心地よい夜だった。良き気分のまま帰宅。久々の自宅。軽く荷解きをした後に湯を沸かし珈琲を淹れる。自身の珈琲[スロウ]というブレンド。……あれ、美味しい。新幹線の中で落差を知ろうと決めた自家焙煎の珈琲、僕の珈琲も美味しかったのだ。
ふと、忘れかけそうになっていた事に気が付いた。珈琲は比べるものじゃないということ、その時の感じ方で味わいが変わること、珈琲は印象の飲み物だ。福岡で大きすぎる存在に出会って一種の焦りが生じたが、モンクやトウヤマさんの音楽と自分の珈琲を飲んで正気を取り戻したように感じた。学ぶことはまだまだ多いけれど、それ以外に重要なことが珈琲には多い。
「とりあえずこのままいこう」。最終的に布団に潜りそう思えた良き1日だった。濃厚過ぎた3連休のおしまい。

11月23日

9時頃に目がさめる。身体がパキパキ。走る。お決まりのジョギングコースを。寝癖のまま。シャワーを浴びた後に旅行で溜まった洗濯をすませ、湯を沸かし珈琲を淹れる。ブレンド[メロウ]を飲んだ。昼過ぎに職場に行き、夜23時頃に帰宅。
帰宅すると「おならすればよかった~」というリビングから姉の声が聞こえる。すれば良いじゃないかとリビングへ向かうと、姉夫妻と弟が桃太郎電鉄というゲームをしていた。桃鉄をしたことがない僕にはよく分からないあれやこれやが画面で繰り広げられていた。それを横目にお決まりの長風呂。上がった頃にはリビングはしんとしていて皆眠りに就いていた。久しぶりにとってもニュートラルな1日だった。

11月24日

朝7時頃に目が醒める。湯を沸かし珈琲を淹れる。[スロウ]を飲む。この日は蝋燭作家の河合悠さんとの蝋燭作りワークショップが行われる。職場に行き会場の準備をすませた頃に、岐阜県から車を飛ばして大阪にやってきた悠さんと合流。「はじめまして、じゃないんですよね?」と悠さん。過去に全く別の形でフランス人ピアニストのクエンティン・サージャックやharukanakamuraのライブで自分がライブサポートをしていた時に一度会っていて、当時の悠さんは蝋燭で舞台の演出をされていた。約2年ぶりだ。共通の知り合いや実は近い存在だったことなどをひと通り話す。全く違った形でまた出会えたことに、縁とは巡り会わせで不思議なものだなぁと改めて思った。
ワークショップはとても穏やかな時間が流れるより良いものとなった。蝋燭を作る過程はとても興味深く、色んな物や風景から色合いを見つけてそれをクレヨンで色彩に起こし蝋燭のデザインにする。みんな独創的な蝋燭を作っていた。阿部海太さんの絵本の色合いを参考にするあたりが面白かった。
“職業は体を表す”と言う。まさに悠さんは蝋燭のような人だと思った。詩を朗読するかのような話し口調に皆聞き入り、その場を鎮めるようなそんな雰囲気がある。過去に悠さんのワークショップでの言葉を詩にまとめたお客さんがいたらしく、その行為が妙にしっくり思えた。日々の生活の中で“生の火”と触れ合うことを提案する悠さんのアートワーク。そんな穏やかでどこか厳かな空気が流れたワークショップは終了。
会場の後片付けをすませて帰り際に悠さんから蝋燭をひとつ貰った。「またどこかで」と握手をして悠さんは岐阜へ帰っていった。
22時頃に帰宅。湯を沸かし珈琲を淹れる。[スロウ]を飲む。今夜もいい夜だ。

2018年4月1日にスタートしたリレー日記です。1週間単位でさまざまな方に暮らしの日記を執筆いただいています。

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