04. 想田和弘監督作品『港町』
「話しやすい人ですね」と言われたい。
だってイイ人と思われたいし、頼りになる人みたく思われたい。
でも、実際の僕は「話しかけられやすい人」で、暮らしに支障が出るレベル。電車に乗った時など、一瞬で「あ、話しかけられる!」とわかる。
電波みたいに他の乗客の緊張が伝わってきて、その緊張を作ってる主(たいてい酔っ払いの爺さん)が僕に近づいてくる。で、目があう。
「ワシ戦争で人を殺したことがあってなぁ」
初対面のセリフから重いな、と思いつつ、うっかり「え? それは大変ですね」と相槌を打ったが最後、電車を降りるまで話は延々と続く。
友人に言わせるとそれは「語り部アンテナ」があるらしい。
想田監督とそのパートナーの規与子さんは「話しかけられやすい人」に違いない、アンテナバリバリの。想田監督と言えば自身のドキュメンタリー映画を「観察映画」と名付け、世界の映画祭で引っ張りだこだが、「観察映画」と聞いて思い浮かべる静かなイメージはこの『港町』には似合わない。
(C)Laboratory X, Inc
とにかく、一人の婆さんが話しかけてくる。そしてまぁよく喋る。
例えば二流のドラマの脚本は「崖の上で殺人犯が長々と自供する」など、登場人物がベラベラと状況や心理をくどいほど説明するが、瀬戸内海の港町の暮らしを誇張も仕掛けもなく「観察」したこの丁寧なドキュメンタリーの登場人物が、他の住人の心の中までこれでもかってくらいベラベラ説明してくれる。もう延々。
それが爆笑級に面白い。
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関西の有名人に「映画のラストシーンまで映画以上に面白く喋る」ともいわれる天才映画解説者の浜村淳さんがいるが、この婆さんが「寒い日じゃった」と語る様は浜村さんばりの名調子で、聞かせる。
想田監督と規与子さんはその婆さんに話しかけられ、巻き込まれていく。船着場や坂道など魅力的な風景の中、婆さんに語られながらどんどん歩いていく。そして臨界点を越えるごとく、婆さんの語る内容がこの世の真理のような、まるで千夜一夜物語か遠野物語を聞かされてる気分にまで到達する時、「語り部アンテナ」こそが想田式観察映画の武器なのだと気付かされる。
(C)Laboratory X, Inc
僕も祖母の話を聞きたくなった。戦時中は満州でカフェを経営してたそうだ。だが、もう他界して20年経つ。
INFO
『港町』
監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作:柏木規与子
第七藝術劇場にて公開中。元町映画館、京都シネマで6月23日(土)より公開
http://minatomachi-film.com
西尾孔志
1974年大阪生まれ。2013年に『ソウル・フラワー・トレイン』で劇場映画デビュー。2014年『キッチンドライブ』、2016年『函館珈琲』の他、脚本作品に『#セルおつ』なども。OURS.では、カリグラシTVを担当。
*カリグラシTV
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*インタビュー記事
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