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各短編の冒頭でまず間取りが提示されて、それから物語が始まる“世界初の間取り小説集”『間取りと妄想』を発表した大竹昭子さん。
昨年、「給水塔と亀」で川端康成文学賞を受賞した大阪在住の小説家、津村記久子さん。
間取りのこと、家のこと、住まいの空間のこと、町のこと。
話がいつまでも尽きない2人の対談が
大阪の書店「心斎橋アセンス」で行われました。
「カリグラシ」を標榜するOURS.としても、これは見逃せない!
ということで、この対談イベント「間取りが物語を動かす」の内容を再編集してお届けします。


大竹昭子
小説、エッセイ、ノンフィクション、写真評論、書評、映画評など、ジャンルを横断して執筆。トークと朗読の会<カタリココ>主催。散歩マニアにして無類の間取り好き。著作に『随時見学可』『図鑑少年』『彼らが写真を手にした切実さを―《日本写真》の50年』など多数。2017年夏、間取り小説集『間取りと妄想』を刊行。

津村記久子
2009年に「ポトスライムの舟」で芥川賞受賞。11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞、16年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。大阪生まれ、大阪在住。「給水塔と亀」は『浮遊霊ブラジル』所収。

 

三角形の家と斜面に建つ家

大竹 こんにちは。この中で「マドリスト」だという方は手を挙げていただいていいですか。ひとり? もっといるんじゃないですか。

津村 チラシで入ってる家の間取りを見るのとか、大好きですよね。

大竹 津村さんも、やっぱりそうですか。みなさん、そういうのをマドリストっていうんです。いま住んでいる家に満足していても、つい見てしまうんですね。寝る前に間取りを眺めながら、住みもしない家のことを想像したりして。

津村 この駅だったら住めるかな、とか。電車に乗ってるときも、窓からの景色を見て、ここやったら住めるなということをずっと考えてますよ。

大竹 ありますね。この町はイヤだとかね。『間取りと妄想』は、私が間取りを考えて、それらの話を考えて書いた短編集なんですが、間取りと物語、どっちが先ですかってよく聞かれるんです。

津村 それ、ほんとに聞きたい。間取りが先なんですか。

大竹 ケースバイケースですね。たとえば、最初に出てくる三角形の家(「船の舳先にいるような」)は、細い道を通じて奥に家がある「旗竿地」って呼ばれる家なんだけど、私、なんか旗竿地が好きなのね。

「船の舳先にいるような」の間取り図 図:たけなみゆうこ

津村 わかります。なんなんでしょうね、あれ。

大竹 ねえ。表から奥が見えないことが想像力を刺激するんじゃないかな。ただ、引っ越しが大変。この道幅だったら、ピアノを持ってたら大変だろうな、大きいソファは大変だろうなとか、なんてことまで考えたら、旗竿地はいいことばかりじゃないですけど、物事って制限がある方がイマジネーションが高まるじゃない?

津村 そうですよね。

大竹 広くて使いやすい土地があるから、なんでも好きなように家をつくってくださいって言われても、意外につまらないものしかできないものです。

津村 私は、この三角形の家というのがすごく好きで。

大竹 やっぱりそうですか。

次のページへつづく

*後編はこちら


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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