大竹 私が好きなのは、電車に乗っているときに、車窓から見える家の、あの部屋の中にもし自分が入ったら、どうだろうって想像することです。夕方16時とか17時くらいに、部屋の電気はついているけど、外はまだ明るくて、カーテンは引いてないから、高架線からその部屋の中が覗き見えるって、あれがたまらないです。

津村 ごめん、って思いながら、めっちゃ見ますよね。私も通学してたとき、毎日のように見てる家がありました。テレビ見るみたいな気持ちで毎日見てました。部屋に貼ってるポスターが見えたりするのがたまらない。だけど、知らない間に部屋を見られてるのもたまらないから、私は、高架沿いの家には住まない(笑)。

大竹 絶対に住まないね。自分みたいな性格の悪い人間がいつどこで見てるか知れやしないから…自分が覗き魔だから覗かれることにはとても敏感なんです(笑)。

津村 覗き趣味ですけど、悪意はないでしょ。その部屋に何があるんやろうってね。

大竹 好奇心ですよ。

津村 なのかな。大竹さん、ゲームやります?

大竹 やんない。

津村 なんで私、ドラゴンクエストが好きなのかを考えたんですけど、ああいうゲームって、町へ行くとだいたいどの家でも勝手に入れるんです。それで、武器商人の家とか、教会とか、家ごとに室内の間取りが違って、中にいる人に話を聞いていく。ドラゴンクエストをやってるとき、それが私の喜びだったんです。現実の世界でも、全部のドアを開けてみたいんですね。

大竹 それはそうです!

  

津村 たとえば、すべての雑居ビルの部屋に入ってもいいという権利と、500万円もらえるの2択だったらどうします? 私は、雑居ビルを選びますね。

大竹 正しいです。だって、500万あったってすべてのビルには入れないから。それは最高の権限です。ところで、雑居ビルって日本ならではの建物なんです。欧米にはまずない。

津村 えっ、そうなんですか。

大竹 欧米では建物ひとつひとつの性格が決まっていて、雑居させるという発想は希薄。内部を外にアピールするのは必須だから、室内と室外の落差は少ないわけなんです。日本の雑居ビルでは、地下にあやしげな占いの店やおしゃれなバーがあって、その上には歯医者さんや経理事務所があって、その隣の部屋には人が暮らしている、なんてことがよくあるでしょう。

津村 給湯室が共同だったり。あれがたまらないんですけど。

大竹 ですよね。だから、外国人にとって雑居ビルの何が面白いかって、ドアを開けるまで、その中がどうなってるかまったく想像もつかないこと。まるで秘密の小箱を開けるみたいな気分。開けたとたんにウワォー!

津村 雑居ビル、私は大好きです。雑居ビルのすべてのドアを開けてみたい。

大竹 東京でいえば、新宿ゴールデン街って3畳くらいの小さなお店がずらっと並んでいる場所があって、一時は閉鎖されそうになったけど、いまはすごく活況を呈してますね。だから、雑居ビルとか裏町とか路地とか、大きなものの裏側にある、ちっぽけな人間サイズの空間というのはみんな大好きだし、結局は捨てきれないと思うんです。

津村 やっぱり狭さっていいんですね。狭さというか、制限。間取りの話って、まさに制限そのものじゃないですか。

大竹 ほんとにそうですね。

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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