町の間取りと部屋からの眺め

大竹 こんなふうに話していると、あっという時間がたっちゃいますね。用意してくださった質問ってぜんぶ聞けてますか?

津村 あと聞いておきたいのは…具体的な物の中でなんだったら住んでみたいですか。私は、いっぱい住みたいものがあって、これはエッセイにも書いたことがありますけど、まず、タケノコに住んでみたい。

大竹 なるほどね。階層が多くて、だんだん部屋が狭くなっていく。確かに、中が空洞で限られた空間というのは、ちょっと住めそうって想像しますね。

  

津村 たくさんの部屋に分かれてるのもいいですね。モグラの家とか。

大竹 私もそれ大好き。

津村 巣のつくり方って図鑑に載ってるでしょ。それを各動物で比較して、どの巣に住みたいかとか、どんな巣に住んでる動物がイケてるかとか、図鑑ではそればかり見てました。そういう興味が、いまの間取りや家を見る興味につながってるんだと思います。

大竹 かもしれないですね。私も子供の頃、アリの巣がすごく好きで、何時間も座りこんで、巣穴に棒を入れてほじくり返してました。アリがうわって出てきて、あの興奮ったらなかったです。ひどい話ですけど。

津村 アリやモグラの巣がいいなと思ってたんだけど、だんだん単純な家にも興味が出てくるんですね。ウッドチャックなんて、ワンルームとトイレだけの巣で独居が基本らしいですよ。

大竹 そうなんだ。

津村 いろんな家族と巣の形態があって、そこに貴賎はない。その多様性がいいんですよね。間取りもそうで、どれが正しいとかはなくて、ただ住んでる人の好みだったり、使い勝手みたいなことだったり、あるいは、あかんところがあっても、その間取りに合わせて自分が変形して住むような感じがすごくいいなと思うんです。

大竹 同感します。間取りによって、自分の意識しないものが開花することってあると思うんですよ。住みながらいろんなことに気づいていく。部屋は、人の心の容れ物でもあるわけだから。豪華である必要は全然なくて、自分にフィットする空間、自分の意識を自由にできる場所があれば、人間は結構、しんどい状況でもやっていけるんじゃないかな。

津村 そうですよね。自分が好きな風景があるとかも大事で。眺めっていうのも、家そのものなんですよ。

  

大竹 ほんとにそう。津村さんの書かれた「給水塔と亀」がそうですよね。部屋の中で、窓の向こうに給水塔が見えるはずだってちょっと頭を動かす、あの感覚が、私はたまらなかったですね。視界が変わるというのは、視点が変化するっていうことで、その人の内部も動くんです。

津村 伝わってよかったです。自分の家の中も大事ですけど、窓から見えるものってほんとに大事なんですよ。

大竹 そうそう、窓から見える風景に、自分の意識がものすごく左右されますよね。だから、ある日、窓の向こうに何かの建物が建ってしまって気持ちが変わってしまう。そういうこと、私は何度も体験しています。

津村 窓は難しいですね。ドアはどうでもいいけど、窓ですよ。

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THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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