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阪本順治(映画監督)

#2「天井裏でコウモリと一緒に妄想してた」

#1 はこちら

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事前の記者会見では「本作はSFか」との問いかけに「(阪本、藤山)互いの頭文字です」と答えたり。まじめな顔して最後にドッと笑いを誘う、ユニークな語り口が印象的でした。監督は小さい頃から冷静な目で、周囲を観察してこられたのかなと想像しました。

阪本:小さい頃は、空想と妄想の中で遊ぶじゃないですか。まだ現実に向き合うこともなく、森の中に基地を作ったり。俺は天井裏に部屋を作ったんだけど。そこにろうそくを立てて、一人でものを考えたりして。天井裏にはコウモリがいっぱいいたんで、一緒にバタバタ……って、ホラーやな(笑)。

ワクワクします(笑)。

阪本:でもそうやって、一人で空想する中で、たまたま自分の家が人の死と向き合う商売だったから、家に来るお客さんを見ながら「身内と会えないことはツラいよな」「弔うことで悲しみはどれほど和らぐんだろう」とか考えるわけです。同時に、肉体を失うとその人が抱いた思考、感覚、思想、表情とかも一切無くなるのだろうか、とか。そういうことをコウモリのいる天井裏で考えていると、誰もいないすりガラスの向こうに、人影がすーっと見えたりしてね。

怖い話ですか?

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阪本:怖くないよ。ああ、向こうの世界に行けない人がざわついているのかなと。いきなり夜中に部屋の吊り照明がドン!と音がしてガーッと回り始めたことが、3晩続いたこともあったけど。​なんか騒いではるんやなと思ってました(笑)。

それは! 幼少期にはなおさら、興味深い体験ですね。

阪本:うん。なんかホラーめいたことを言いましたけど、今回そういうのを思い起こしたというか、今一度見つけたんですよね。それって自分のなかで納得して回答を出していないことだったよなと。これを題材として取り上げられたのも、自由に思った通りのシナリオで撮っていいですよと言ってもらえたので。やっぱり人間の根っこには必ず、親の庇護のもとで自由にものを考えられた、幼少時代や思春期にヒントがあるんですよね。

幼少期からの宿題を大人になって形にできたことは、ロマンチックでもありますよね。

阪本:まあ幼児性を発揮したというかね、幼児性の塊ですから(笑)。

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団地の集会所でのひとコマ。団地に住まう多様な面々が顔を合わせる。

ただ、その振り幅がすごかったようで。阪本組常連の岸辺一徳、大楠道代、石橋蓮司を持ってしても、脚本を読んだ直後に「本当にやるの?」と戸惑いの声があったとか(笑)。

阪本:心配されましたね、なんだろな。オリジナルを書くときって、逆にその自由度が難しくもあるから、一字一句書くには時間が必要だし、物語を絞り出す努力もしてきた。ただ今回は、そんな苦労が一切なかったからね。今まで溜め込んできたものすべてを”排泄”できた、すっきりした気分でいる(笑)。

なかでも、斎藤工さん演じるキーパーソンの青年の台詞がユニークで。これを監督が書かれたのかと思うと、面白い人柄が存分に”排泄”されています(笑)。

阪本:斎藤くんの台詞は、書いてから一回も手直ししてないかもしれない。いつもは直して直してが普通なのに。

彼は監督自身だったりするんでしょうね、代弁者というか。

阪本:そうですね。僕が今言ってきた死生観のようなことを語ってくれているのは、彼の役ですよね。

キャスティングに際しては、斎藤さんのブログを読んで人柄に触れたことが大きかったとか。毎回俳優のブログまでチェックされるのですか?

阪本:演技を見て上手いとか下手とかは、作品によって得て不得手もあるだろうし、よくわからないです。偉そうなことを言いますと、表現って「表に現れる」って書くでしょ。要するに演技には、彼らが普段持っているものが表れる。そう考えると、その人が普段どう過ごしているのかは、僕の中ではすごい大事。それを知るためには一応ブログを見たり、いろんな媒体に載っているコメントを読んでみたり。

斎藤さんに限らず、いつもそうされるんですね。

阪本:僕が好きな俳優さんはみんな俳優というより、一人の人間としての生き方が魅力的なんですよ。

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魅力的というのは、もう少し別の言葉で言い換えると。

阪本:俳優ってね、「人に非ず、人を憂う」と書くでしょ。人に非ずとは、いわゆる世間の一般の常識人からは外れてもいいと。人を憂うとは、人を気遣うことができる人。 俳優さんて素敵な商売だなといつも思うのは、他人を演じるわけでしょ。それがたとえ残虐な人殺しの役であっても、なぜ人を殺す心境に至ったのかと、台本に書かれていないところまで思いを巡らせる。もっと言えば、他人が住んでいる世間や社会、国をも気にかけられるということ。
だから、演技のための勉強ではなく、今社会で起こってることに対して、自分の言葉で話せる人じゃないとなかなか台詞が人の言葉にならないですよ。だから俳優さんたちと話すときに、演技論とかはほぼないですよね。「あれどない思う?」って話です。

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団地の自治会選挙も映画のいちエピソードとして描かれる。

取材・文:石橋法子 写真:佐伯慎亮 編集:竹内厚
*映画『団地』劇中カットはキノフィルムズ提供、©2016「団地」製作委員会

#3 「カメラを向けたくなるような場所」


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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