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笑福亭生喬(落語家)
と長屋住まいの話

#3 修業時代の木賃アパート、いずれは…

#1 はこちら
#2 はこちら

生喬さんが落語家になったキッカケはなんでしょう。大阪芸大に通われていたんですよね。

ほんとは東京の芸大に行って、絵とお芝居の勉強をしたかったんですけど、滑り止めで受かった大阪に来ることになりました。せっかくの大阪なんで、なにかおもしろいことを一つでも言える人間になれたらいいかなくらいの感覚で落研(おちけん=落語研究会)に入って。そこからです、いろんな落語会に行きはじめて。その頃は、大学の近くの何もないところで、ちっちゃい下宿に住んでました。

弟子入りはいつですか?

大学2回生の頃にはもう噺家になりたいと思ってました。じゃあ誰を師匠にというのも、うちの師匠、松喬の独演会を見て、わりに早い段階で「この人!」って決めてましたね。それで4回生の8月に師匠のところへ弟子入りに行ったんですけど、学校を卒業すること、卒業までにアルバイトをしてアパートの資金を貯めること、親を説得して了解を得てから、年明けに挨拶に来るようにと。条件はこの3つでした。

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岡本太郎好きは大阪芸大に入る前からとのこと

落語家は住み込みの弟子というのもありますけど、松喬さんはそうではなかったんですね。

そうです。師匠の家に近い、桃谷の「桃泉荘」というアパートに住んでました。共通の玄関を入ったら大きい階段があって、部屋がいくつも並んでる。管理人のおばあちゃんも1階に住んではって、家賃はそこに直接払いに行くんです。家賃があの当時で1万8千円でしたね、四畳半で。もちろん、お風呂はないですけど、近所に銭湯があったので困ることもなく。大学の同級生だった桂南天君も同じアパートに住んでましたけど、南天君とこは6畳やったから2万円やったかな。

1畳半の違いでもきっちり家賃に差がついている(笑)。

南天君は2年間、住み込みで修行してから「桃泉荘」に移ってきました。一時は弟弟子の(笑福亭)喬楽や(笑福亭)風喬も住んでましたし、わりかた「桃泉荘」はみんなが寄る場所になってました。南天君もいてる頃は、朝10時前にどっちかが部屋まで起こしにいって、12時から近所の食堂でお昼食べてから、その日にやってる落語会に2人で行って、手伝うて、打ち上げして、風呂行って、また夜中の3時くらいまでどっちかの家でしゃべってるという。そんな繰り返しでした(笑)。

まさに若手落語家のトキワ荘ですね。

まだ「桃泉荘」はあります。南天君と、いつかはあのアパートを2人で買い取って、1階は寄席小屋にして、2階は自分らで何部屋か使って、あとは若手を住まわせて…って、そんなんしよかって話してたこともあります(笑)。

夢のある話です! そんな生喬さんも今年が入門25周年。

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入門する前に知人からゆずり受けた演芸場のポスター

あっという間ですよね。私は師匠が39の時の弟子なんで。その時々に、師匠は何をやってたかなとか思ってきました。なかなか近づけないなっていう思いもありますし、師匠はもっともっと前へ走ってたような気もします。負けないようにやりますけどね。

落語だけでなく、ミュージカルなどにもご出演されています。

オリジナルのミュージカルをやってるSHOW-COMPANYという劇団があって、6年前から客演という形で出させてもらってます。歌も歌いますし、東京公演もやりました。

大学で芝居をやりたかったという思いがいつの間にか叶ってますね。

そうなんです。師匠について、満員の新宿コマ劇場でお芝居をさせていただいたこともあって。あれもすごく嬉しかった。噺家という職業はいろんなことをさしてもらえるんやなぁって。それがありがたいですね。

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若手だった頃にいただいた大入り袋を額装したもの

踊りやお茶のお稽古もされているそうですけど、すべてやっぱり落語に返ってくるものでしょうか。

そう、すべてが落語につながってます。落語は、どういうギャグを言うかや面白いことを言うかじゃなしに、やっぱりストーリーや情景や人物を掘り下げていくのが大事やと思います。あくまでも創造の芸ですから。うちの師匠がよう言うてましたけど、別に笑わそうとする必要はない。おもしろいところがあったらお客さんは勝手に笑うんやと。そこを笑わそうという気持ちがあるから逆におもんないと。それはそうやなと思います。

25周年から先、これからはどんな落語家を目指しますか。

私は、ネタを自分の稚拙なとこに下げてやらんようにしてます。それをすると落語がダメになる。ネタの高みに自分が上がっていくようにしていかんと。自分の年齢と芸の年輪がいい状態で合致できればいいんで、そういう点ではこれからも今まで通りやっていきたいですね。

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文:日高美恵 写真:平野愛 編集:竹内厚
(2016年3月8日掲載)


INFORMATION

噺家生活二十五周年記念『生喬魂Ⅲ』
日時:2016年3月17日(木) 18:30開演
会場:天満天神繁昌亭
料金:前売2500円 当日3000円
出演:生喬「堀川」「お目見得」/桂南天/笑福亭生寿/<漫才>ねこまんま(南天&雀喜)
問い合わせ:まるかじり事務局 06-6713-3082

*5年に1度の開催で3回目となる『生喬魂』。15周年では「らくだ」、20周年では「重ね扇」と大ネタを披露して、25周年となる今回は、「お目見得」。
「花登筺先生の作ったネタで、昔、松鶴師匠がやって、うちの師匠、松喬が27年ほど前にやっていました。それを復活上演します。3月17日がネタ下ろしです。この日が入門した日なので、四半世紀。でも、感覚はずっと学生のままなんですけどね(笑)」


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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