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柴山留佑(レンタサイクルえむじか/ナミイタアレ)

#2 仕事は、場所に線を引くだけ。

出町柳駅前のレンタサイクル店を見事に軌道に乗せた柴山さんが、2012年、出町柳駅から徒歩1分のバラック小屋で始めたのが、「ナミイタアレ」。レンタサイクルに負けず劣らず、とても魅力的な場所貸しのあり方が実践されています。

#1 はこちら

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この取材は「ナミイタアレ」でお話を伺っています。見えているものすべてを説明するだけで日が暮れてしまいそうなほど、多種多様なものや人が集まっていますね。

柴山:いろんなお友達に場所を借りてもらってるんです。本棚は「100000t」という古本屋の友だちに。日当たりのいい窓際はサボテン屋さんに。壁の向こうにはギャラリーがあって、奥にはガラス細工やブラジルの太鼓工房などがあります。あとで案内しますよ。

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貸してるということは賃料をとっているんですね。

賃料とも言えるし、みんなで折半してるという言い方もあるし。僕はそれをとりまとめてるだけ。

何の場所とも説明しづらい。入ってみるととても居心地がいい。レンタサイクル店をやっていた柴山さんから、そんなナミイタアレがどうやって生まれたんでしょう。

もともとここは自動車の修理工場で、裏が駐車場になってるので、僕は車を停めてただけ。ところがある日、大家さんと会って、「昨日、修理工場のおっちゃん死んでな。ここ借りてくれへんか?」って。まず亡くなったことにびっくりしてるのに、その次の話が早っ! て(笑)。ところが、僕はちょうど場所を必要としていて、レンタサイクルって繁忙期と閑散期の差がものすごく激しいんですよ。閑散期になると自転車をストックする場所が足りなくなる。その保管場所を探していたので、ここを使わせてもらうことにしました。

もとは、自転車のストックヤードだったんですね。それがどうしてこんなことに?

「100000t」の店が、営業していたビルから立退きにあった*ので、臨時的にここで売ったらええやんって話になって。その頃、インドから帰ってきた昆布くんが、この場所でチャイと珈琲を売りたいというので、カウンターを作って、「喫茶つきなみ」というのも始まりました。この場所に保健所の申請がおりたのには、自分らでも腰抜けるほどびっくりしたけど(笑)。 brr02_2201-1-2-18

周りの声からだんだん「ナミイタアレ」が形作られてきたんですね。

閑散期は自転車置き場が必要でも、繁忙期になったら置き場はいらないので、僕も場所を借りたのはいいけど、それまでにどうするか考えなと思ってたので。それで始めてみたら、ちょっとしたスペースで何かをやりたいと思ってる人って世の中に結構いるんやね。

自分で店を開くまでじゃない、というような人たち。

商売に限らず、やね。たとえば、僕の“社長室”ということで、ベッドとスクリーンを置いて、日がな映画を見たりできる場所もここに作ってたけど、ある日、卒業制作の作品を作る場所を探してるという女子大生が訪ねてきたんです。それで、社長室を半分貸してあげて。そしたら、女子大生とずっと一緒におれるなーと思って(笑)。

スケベ心から社長室を分割(笑)。だけど、卒業制作だったら1年もいるわけじゃないですね。

そうなんですよ。結局、その子は、その時に隣で太鼓を作っていたグループと仲よくなって、そちらに入っていきました。そうやって、ちょっとした場所を必要としてる人に貸していく「ナミイタアレ」の形ができてきました。貸すという点では、もとの商売のラインからはずれてないなと思って。

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ナミイタアレのオープン当初は、こちらで味のある自転車の販売もされていました。

あれはもうやめました。僕は、自転車を売りたいわけじゃ全然なかったんやね。やっぱり貸すほうが面白い。今、座ってるところがその店の場所やったけど、ただの「席」にしました。誰が座ってもいい、ただの「席」。ここだけが今、僕直営の場所(笑)。

ナミイタアレはいわゆるシェアスペースと言えるとも思いますけど、その分け方がものすごくざっくりしてるというか、人間的というか、場所を使いたいという人の気持ちに寄り添っていますよね。

貸してと言われると場所を作りたくなるんです(笑)。だから、僕はね、場所に線を引いてるだけ。ここからここまで、はいどうぞって。何かする時だけ言うてね、大きい大家さんに聞いてみるのでって。

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床に貼られたテープが場所を分けている

大家さんの理解もあってこそ。

そうですよ。すぐ隣に住んではるんですけど、ほんとに理解があって、よくこちらにも来て、いっしょにお酒を飲まれてたりしてます。

ここが古びたバラック小屋だったことも、捨てられてるもの好きな柴山さんとしては、きっとよかったんですね。

だから、レンタサイクルと同じ気持ちでスムーズにやれたんやと思いますよ。自分で言うのもなんやけど、以前は、この前が暗くて狭い路地だったんで、不法投棄もすごく多くて、町の人も通らないようなところだったんですよ。それが今では、幼稚園の子たちも通るような路地になったしね。自分で言うのもなんやけど(笑)。

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2回言いましたね(笑)。レンタサイクルの自転車に対して言われた「元気なお爺ちゃん」という表現、この場所にもぴったり当てはまります。

そうそう、この場所で使ってるものも、だいたい拾ったものかもらったもの。カウンターは、四条高瀬川にあった飲み屋さんが店じまいしたのを頂いて。ソファもほとんど、もらいもん。床に敷いてるカーペットは、風俗店で使われてたやつ。

風俗店!?

昨年、四条河原町に出したえむじかの2号店は、もと風俗店だった建物なんです。そこで使われてた大きな鏡も持ってきて、奥の「DBC」で使ってますよ。

DBCこと出町柳文化センターと呼ばれる建物が、ナミイタアレの奥にあるんですよね。「DBC」は何の場所でしょう。

これはね、また女子大生なんですけど(笑)、ダンスの練習をしたいという女の子が来たことがあって、あの子のために場所を作ったんです。ひとつの壁面を鏡張りにしてね。でも、その女子大生とはその後会えてません…。

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すごい動機からはじまった場所ですけど、今はどんな使われ方を?

タップダンス教室や英会話教室、三線サークル…1時間500円で誰でも借りられるフリースペースですね。プロジェクタも卓球台もピアノもあります。全部もらいもんですけど。
子どもの頃からやっぱり何にも変わってないなーって、最近よく思います。捨てるのは負け、みたいな気持ちはそのまま。

買ったほうが早いって時代です。直すのも、新たな使い方を考えるのも大変だから。

でもね、そんなことしてたら人間生きていけなくなりますよ。僕は、さいとうたかをのマンガ『サバイバル』が好きなんで(笑)。お金も何もなくなった時に、人間どうするかっていうことでしょ。

柴山さんは間違いなく生きていけそうです。

まあ、何もできないのにえらそうにするのも、昔から変わってない。子どもの頃、野球なんか全然できんくせに、チームの一番前を歩いてたらしいから(笑)。仕切りたがりやね。

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柴山さんのように誰かが「小さな大家さん」なってまとめないと、絶対にこんな場所は生まれません。必要ですよ、その役割。

それやったらよかったわ(笑)。

*「100000t」の実店舗は、現在、「100000tアローントコ」として寺町御池上がるで営業中。
http://100000t.com/


[ナミイタアレ~DBC 誌上写真ツアー]

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いろんな看板にあふれた外観

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喫茶つきなみ。曜日や時間帯によっては別の店に変わる

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100000tは無人店で、セルフでお金を置いていく仕組み

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棘屋がナミイタに緑をもたらしてもいる

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ガラス工房は本格的な機材をそなえる

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太鼓工房sootto、ファンキーな格好の店長さん

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改装工事中だったギャラリーmomurag。路地に貼られた絵は、これまで展示した作家が残していったもの

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ナミイタアレと同じ敷地にある一軒家が「DBC」

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DBCを見守る守り神「デベッサン」

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DBCはもと印刷工場、その名残が天井に。レコジャケは柴山さんの趣味

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ピアノも完備

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屋根裏にも場所ができていた。こうして場所が増えていく

「レンタサイクルエムジカ」は昨年、京都の中心、四条河原町にも進出。また、この3月には新しくゲストハウス「ナミイタアレノイエ」もオープン。とどまることを知らない、柴山さんの貸し借りマイスターぶりに、さらに迫ります。
#3 マネされない、できない!? ゲストハウス、シェアサイクルのつくり方


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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