[信楽の一軒家|デザイナー夫婦]
前編 「ものづくりのそばにある暮らし」
東京から、滋賀・信楽にある創業130年の窯元に戻って、まったく新しい信楽焼のブランド「CACHI COCHI」を立ち上げた加藤駿介さんと佳世子さんご夫婦。信楽焼は、駿介さんの家業なんです。
住まいは、職場となる製陶所すぐそばの一軒家。
リノベーションというほどの大げさなことではなく、
住みやすい、働きやすいようにすこしずつカスタマイズを進めながら、暮らしのリズムが築かれてきました。
この暮らしにして、このプロダクトあり。
ものづくりの源泉として、きちんと考えられた暮らしの一端が垣間見えてきます。
[加藤駿介さんへのインタビュー 1]
―映像で見ても、ずいぶん居心地のよさそうな住まいでした。どれくらい家は手を入れられましたか。
「もともと長く住む予定じゃなくて、とりあえずでいいかという感じだったんですけど、家を借りた当初、室内のいたるところにガムテープが貼ってあったんですよ。天井にも壁にも。たぶん、ムカデなどの虫対策だと思うんですけど、さすがに見た目によくないので、ウレタンで穴を埋めたり、その上からペンキを塗ったりしました」
―大家さんもそれくらいはOKなんですね。
「そうですね。あとは、障子やフスマを一度取っ払って、位置を入れ替えたりもしました。昔の建物って、規格が同じだから、違う建具にしてもぴったり合うんです」
―では、食卓の背景で映っていた障子なんかも…。
「違う場所にあったものを移しました」。
―畳はもとのままですよね。
「はずして板の間にすることも考えましたけど、そこまでするとやっぱり復帰が大変なので。それに、畳って意外と掃除がラクで、ホコリも目立たない。ダイニングでは、ジュートと麻のラグを畳の上に敷いています」
―障子の位置、畳の上のラグ…ちょっと手を加えただけなのに、雰囲気のある住まいになるんですね。
「そこは意識的でした。東京では、広告の制作会社に勤めていたのですが、制作の現場からユーザーまでがすごく遠いものに感じてしまって。たとえば、“豊かな暮らし”のようなキャッチコピーでつくられているものがたくさんありますけど、実際に、それをつくっている人たちの暮らしはどうなのか。信楽で暮らすにあたって、そこは嘘がないように自分たちの暮らしをつくっていきたいなと考えました」
―住まいがアトリエであり、実践の場。ショウルーム的な機能も果たしているんですね。
出演:
加藤駿介
加藤佳世子
音楽:松野泉
撮影・編集・監督:加藤文崇
スチール写真:平野愛
協力:CACHI COCHI