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父、おとうさん、パパ、親父……
その後ろ姿から
家族と住まいのことを見つめます。
ベベチオのはやせさんによる父さん話。

父さんの二度目の結婚相手が僕の母さんです。いわゆる再婚相手ですが、その経緯はちょっとしたドラマのようです。
母さんの実家は九州大分の天ぷら屋。とび職をしていた父さんはその店によく食べに来ていたそうです。そのときの父さんは、母さんの妹狙い。母さんは姉妹で店を手伝っていたそうで、妹は客あしらいが上手で、父さんのこともうまく相手にしていたそうです。そんなことが続いたある夜、父さんは母さんの家に夜這いをしかけます。まだそれがOKな時代だったのかわかりません。そして、父さんが布団に潜りこんだ相手が母さんだったそうです、妹と間違えてしまって。それからぐっと距離が縮まったふたり、手紙で求婚された母さんの返事は「私をこの家から連れ出してくれるならつきあいます」だったそうです。
そうして2人は駆け落ちすることになったわけですが、そんな父さんには妻と2人の娘がいました。無茶苦茶です。そんな男が12歳も年下の母さんを連れて、九州から関西まで駆け落ちしたんですから。それから、父さんと母さんはしばらく働いて、かなりのまとまったお金を準備して、その全額を持って父さんの前妻に話をつけにいったそうです。決していい話ではないと思うのですが、その時のことを父さんは、僕らによく語りました。「全財産を前の嫁に払って、ジュンコ(母さん)と一緒になったんや」って。まるで美談であるかのように語る父さんの声を耳にしながら、子どもの僕には、山ほどのお供え物をまるごと差し出して、何かを手にするという昔話を聞いてるような気持ちになっていました。
その後の話ですが、全財産を慰謝料にしたので全然お金がなかったその頃に、母さんが夢を見たそうです。競馬で1と5が1着2着になるという夢。父さんは「そうか、ほな、お前の夢買おう」ってあちこちからお金をかき集めて、1-5で1点買い。それがドーンと当たって、100万円ほど手にして、それもまた結局、アワのように使ってなくなったみたいですけども…。そんな体験があったから、「夢を買うといたらええねん」っていうのは父さんの口癖のひとつでした。母さんも「夢を買え」って父さんの言葉だけは、納得してました。


早瀬直久
音楽ユニット ベベチオのボーカル&ギター。よそ見がモットーな企画チーム「ragumo」の代表も。
6/30(土)に札幌のレストランや、7/1(日)に大阪・ムジカジャポニカでライブがあります。梅雨、意外と嫌いじゃないんです~。
http://www.bebechio.com

イラスト:ちえちひろ 構成:たけうちあつし

  

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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