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父、おとうさん、パパ、親父……
その後ろ姿から
家族と住まいのことを見つめます。
ベベチオのはやせさんによる父さん話。

昔、誰もがよくボウリングに行ってた時代がありました。うちの父さんは、ボウリングがものすごくうまかった。物にはまったく執着がなくて、自分のものは何でもすぐに捨てるタイプなのに、家にひとつだけ、父さんの古ぼけたボウリングのトロフィーが飾ってありました。ある日聞いたら、プロボーラーに挑戦する大会みたいなのに出場して、勝ち上がった父さんはテレビ中継された決勝戦まで進んで、そこでも勝って、優勝したそうです。第1投で1ピンだけ外してしまったけど、そのあとはパーフェクトだったと言ってました。
そんなこともあってボウリングにはいい思い出があるのか、ことあるごとに「ほな、ボウリング行こか」って、よく家族でボウリングへ行きました。パンチパーマでマークⅡに乗ってる父さんはいかつい感じで、車を停める順番で駐車場でちょっとモメたりとか、ケンカになったりして。それでも、みんなボウリングをやりに来てるわけなので、そこまで変なことにはならずに、結局、モメた相手を最後に黙らせるのも父さんのボウリングの腕。いざ、父さんがボウリングをやり始めたら、めちゃくちゃ上手なので後ろにオーディエンスが集まったりして、そんな父さんを母さんが誇らしげに見てました。しょっちゅうケンカしていた夫婦だったけど、ボウリング場にいるときは妙に仲がよかった。
どうして父さんはボウリングが上手だったのか。聞いてみたら、昔、建設現場で働いてた頃に、三重県にある長島温泉のボウリング場を担当してつくったそうで。ボウリング場のレーンには板が貼ってありますよね。あの板を木槌で打って平らにしていくんだけど、最後の仕上げとして、ものすごく重い球を何度も何度も放り投げて、レーンの木をさらに平らに慣らしていくんだと。その球を投げる作業を父さんが担当してたからな、って。鉄球のような重い球を投げ続ける父さんの姿を想像して、子ども心に感心していました。それくらい、父さんは確かにボウリングが上手だった。


早瀬直久
音楽ユニット「ベベチオ」のボーカル&ギター。暮らしをもっと盛り上げる企画チーム「ragumo」の代表も。
年末にクラシックホールで半生音でコンサートします。
○12/28(金) ベベチオclassicコンサート「みつめ」@宝塚ベガホール
熟してきました。 http://ragumo.jp

イラスト:ちえちひろ 構成:たけうちあつし

  

<これからの予告>
08 黄金のインド鯉 09 振る舞い焼き肉 …

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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