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父、おとうさん、パパ、親父……
その後ろ姿から
家族と住まいのことを見つめます。
ベベチオのはやせさんによる父さん話。

早瀬家は「ペット禁止」。父さんとしては、ペットという言葉からして嫌で、山へ行って野犬を捕まえてくるんやったらいいよと。ペットを買ってきて飼うんじゃなくて、自分で捕まえてこいというのが父さんの教えでした。
僕と兄ちゃんが家の近くにある川で釣りをしてたとき、1時間くらい大格闘した末にでっかい鯉を釣り上げたことがありました。それも黄金色の。父さんは橋の上でタバコを吸いながら、僕らの釣りをよく眺めてましたけど、そのときばかりは、大きな鯉が橋の上からでも見えたんでしょうね、「絶対に離すなよ!」って言いながら川辺まで降りてきて、鯉をタモですくいあげるところまで手伝ってくれました。釣った魚はまたリリースするのが早瀬家の当たり前でしたが、その鯉だけは「持って帰るぞ」って、父さんがエラに手をツッコんで家に持ち帰りました。
ちょっと興奮気味の父さんを見て、僕と兄ちゃんはすごい魚を釣ってしまったんじゃないかってワクワクしてました。巨大な黄金の鯉ですから。家に持ち帰っても池があるわけでもないから、しばらく風呂に水をためて、そこに鯉を泳がせてました。その間に、父さんは近所で売ってるいちばん大きな水槽を買ってきて、それでも鯉を移し替えると水槽いっぱいになる感じで、もうパンパン。その鯉を入れた水槽を和室の棚の下に置いてたんです。きっと狭いからだと思いますけど、鯉がUターンするときに尾びれで水を跳ね上げて、ときどき、和室からバシャンってすごい音がする。そして、その夜はとりあえずその状態で寝たんです。次の日の朝早く、起きていそいそと和室へ見に行くと、水槽と棚の間にあいた15cmくらいの隙間に鯉がぴったり挟まって、完全に息絶えていました。夜中に水から跳ね上がってしまったんでしょうね。
「鯉こくにして食べよか」と言ってた父さん、タバコ吸いながら残念そうに眺めていました。結局のところ、食べることもできずに、庭というには小さすぎる家の地面にその鯉は埋められました。


早瀬直久
音楽ユニット「ベベチオ」のボーカル&ギター。暮らしをもっと盛り上げる企画チーム「ragumo」の代表も。
年末にクラシックホールで半生音でコンサートします。
○12/28(金) ベベチオclassicコンサート「みつめ」@宝塚ベガホール
熟してきました。 http://ragumo.jp

イラスト:ちえちひろ 構成:たけうちあつし

  

<これからの予告>
09 振る舞い焼き肉 …

カリグラシコラム

そのことを仕事にしている人もいれば、普段の暮らしの中でモヤモヤとした思いが浮かんでいる人もいる。借り暮らしにまつわる意見や考えを、さまざまな人たちが自由なスタイルで綴ります。

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