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TSUGI(新山直広、楳原秀典、寺田千夏)

#3 シェアして一番星をたくさんつくる。

最後に、楳原さんや新山さんが抱いている「新しいまちのカタチ」の課題と展望を、
住まい、そしてものづくりという側面から語ってもらいます。

#1 はこちら
#2 はこちら

楳原さんの住まい方、実は社会問題とリンクしているって、どういうことでしょう?

楳原:まず、若者が住める家がないんです。一見“よそ者ウェルカム”な地域に見えても、家がない、あっても貸してくれないっていうのは、わりとどの地域でもあることですよね。 その一方で、一人暮らしの高齢者の方がたくさんいる、というのも事実。

アパートと違って、一軒家となると、いろんなしがらみの集合体って感じがします。

楳原:感覚的に、土地とか家って、まだまだお金になる、売れるっていう考えがあるんで。そういう意味でダメになっていく家、結構あるんですよね。でも、誰かに家をあげることで両者がハッピーになるみたいなこと、これから増えていくんじゃないかな。

譲る、みたいなことですか?

楳原:そうですね。ただ僕の場合は、新たに建てる必要も、自分で改装する必要もない、住める場所が欲しかった。逆に、高齢で一人暮らしの丸山さんにとっては、若い人と一緒に住むことで、何かあったとき助かるっていうニーズがハマった感じです。

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うーん、なるほど…。そのギブアンドテイクは、お互い不満もなく?

楳原:丸山さんに与えてもらってるばっかりなので、僕自身「何か丸山さんに返せてるのかな?」って思うことが多々あるんですけど、でも丸山さんは「僕が一緒に住んでることで、福祉になってるから」って言ってくれるんですよね。

福祉になっている。

楳原:一人だと、誰でもご飯をつくるのサボりがちになったりするじゃないですか。でもなんでも食べてくれる若い人がいてくれたら張り切って、「今日なにつくろう?って、頭使うからボケないんだ(笑)」って。僕が住んでることで、若い人が来やすくなるのもうれしい、って。

全然違うもの同士を交換し合っている、と。血縁関係がないおばあちゃんと孫ですね。

楳原:実はこの間、丸山さんが「口が開きづらい」って言わはって。
それで、すぐに救急車を手配して病院へ行ったんですけど、お医者さんが「もし丸山さん一人で判断を誤ってたら、ダメになっていたかもしれない」って。そのとき、僕が丸山さんの家に住んでるのは、間違いじゃないマッチングだったのかなって、実感が湧きましたね。

ちょっと鳥肌立ちました。

楳原:しかも、ちょうど僕そろそろ引っ越そうかな、って思っていた矢先の出来事で。

おお。まさに“まだ居ていいよ”っていう啓示。

楳原:そう(笑)。だから、ではないですけど、こういう暮らし方が認められるようになれば、若者が地域に入っていく際の選択肢にもなると思います。僕にとっての丸山さんのように、年齢が違っても尊敬できる人と一緒に住むことが当たり前になる社会って面白いな、と。

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毎年、アートキャンプで新しい学生がやって来るのもいい刺激に

そういう動き、これから必要になってくるでしょうね。

新山:ほんとそうなんですよね。鯖江みたいに“ものづくりの産地”でありながら、移住者の住む場所がないとなると、今後の発展性が見込みにくいわけです。だったら、行政以外に受け入れてくれる人や環境を、僕たち若い担い手がつくろうと。それが「パーク」という場所です。

「パーク」ですか?

楳原:うちの事務所のすぐ近くに、使われなくなった廃眼鏡工場と住居兼オフィスみたいな場所があるんですけど、そこをリノベーションして、シェアハウスやシェアキッチン、シェアオフィスとかシェア工房なんかもつくる計画で進めています。まちの人とか、ものづくりの産地の職人同士が集える複合的な空間にしたいと考えています。

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眼鏡のレンズや機械がそのまま残っている工場内。時が止まったかのよう

聞いているだけで、ワクワクしてきました(笑)。

新山:これからの社会にマッチする“ものづくりの仕組み”をちゃんとつくるためにも、場づくりとか環境づくりって本当に大事だと思うんです。そこで、伝統的なものだけじゃなくて、デジタルファブリケ―ションを取り入れながら、技術の配合ができたら面白いな、と。

技術の配合。

新山:ぼくたちの強みって、新潟・燕三条に石川・山中、滋賀県、和歌山など、わりといろんな産地の若い職人と仲がいいんですね。そういう各産地の強みを生かしていく施設とかハブ機能が、これからの日本のものづくりにとって大事だと思うんです。

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たしかに、伝統産業のソフト改革はよく耳にしますけど、ハード自体の革命ってほとんど聞かないですよね。なんていうか、開かずの扉みたいな。

新山:そうなんです。だからこそ、「パーク」って、実はノアの方舟みたいなものかなって思っていて。価値観を変えるパラダイムシフトというか、その転換期になれるのが「パーク」かな。

ノアの方舟とはまた、すごい。

新山:今までの歴史やものづくりの文脈をふまえて、かつ世の中の情勢を見据えたうえで、こういった場所を本当に覚悟決めてつくるかつくらないか。それによって、まちの未来は変わるんだろうなと感じてます。

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地域単体じゃなくて、手を取りあうことで10年後どうつながるのか。 ものづくりの需要と供給の“意識醸成”をここから作っていくということですか?

新山:今、職人同士が腹割っていろんな話ができる場所、たぶんほとんどないと思うんですよ。
ちょっと上の世代って、すぐ腹の探り合いをするじゃないですか。

寺田楳原:腹の探り合い(笑)

新山:でも、僕らの世代ってどちらかというとすぐシェアするし、こうやったらいいよって共有する。

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福井新聞と共同で開催した『かわだ くらしの晩餐会』

「いいね!」って(笑)。

新山:そう(笑)。僕らにとって、一人勝ちするのってあんまおもろないんですよ。誰かが勝つというよりも、みんながおもろくて、それで一番星を何個つくっていけるか。手を組むことで、これまでできなかった“ものづくり”や“まちづくり”の「新路」になればアツイなと。

過去から未来へのグラデーションをどうつくっていくか、楽しみです。

新山:僕たち自身、みんなアートキャンプからはじまって、この地に来て、そして今ここで暮らしているからこそ見えてきた「まちづくり」のカタチなんです。 これから先、次の世代が地場のものづくりや文化を継いで、新しいアイデアを注ぐことで、モノ・コト・ヒトが接いでいく新しいまちのカタチ、つくっていきたいです。

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文:喜多舞衣 写真:山田康太
(2015年10月6日掲載)


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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