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梅田哲也(アーティスト)、雨宮庸介(アーティスト)
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木津川~大正~尻無川〈大阪市〉

梅田哲也さん、雨宮庸介さんと千島団地の最上階から大正一帯の景色を眺めた前回。今回は、大正区をさらに西へ歩き、ついに尻無川を渡って港区へ。

#03

目利きのない店/カーテンだけ/動かない店主/沖縄総合食品

―千島団地の1階には、「壁紙屋本舗 LAB」や生活雑貨を扱うお店などが並んでいます。

梅田:団地って、そもそも1階が商店街になってたりするような場所だと思ってたけど、いまはインターネットがあるから、団地のあり方も変わってきてるのかな。

―物を売ることよりも、カフェや公園、公民館的な、周囲に住む人たちの拠りどころになる場所が増えている気がしますね。

梅田:リサイクルショップを見てると、物の流れが相当変わってると感じますね。ウェブサイト上で転売するにも、ターミナルとしての場所が必要だからリサイクルショップを始める人が多いんだけど、そういう店は店主の目利きがまったく機能してないようなところも多くて。気になるものを見つけて尋ねても、商品のことを店員がまるで知らなかったりする。

雨宮:ブックオフなんかもそうかも。

梅田:好きな人が物を探して店を始めてないから、あまりおもしろくない。

―さて、千島団地からどこへ向かうか…東から来たので西へ西へと向かいましょうか。

雨宮:大阪の方が東京よりも気温が高い気がします。僕は、植木屋さんで働いていたこともあるんだけど、植わっている植物を見ているとこっちの方が温かい地方の種類が多い感じ。

―大正区や港区って、大阪の中でもヤシの木が多いですよね。あくまでも印象ですが…。

梅田:…あの家、窓の数がすごいですね。これは人から聞いた話だけど、友だちの家へ遊びに行くと部屋にカーテンがあって、カーテンを開けてみたらそこには壁しかなかったって。カーテンがあるだけで向こう側を想像させるので、気持ちが落ち着くみたい。良いアイデアだよね。

雨宮:窓もないの?

梅田:うん、何もない。

―このあたり、同じような建物が並んでいますね。

雨宮:大阪はこういう景色が多いですよね。東京ではあまり見たことがない。

梅田:うちの近所でも見かけます。「香港」って中華料理屋がそこにあるけど、昔よく行ってた銭湯の行き帰りに見かける中華料理屋さんも「香港」だった。いつ見ても店主が同じ場所に座って新聞を読んでいるから、「動いたら爆発するんじゃないか」って友だちと噂していました。

雨宮:おしりで爆発する何かを押さえているという妄想?

梅田:そうそう。

雨宮:あ、「沖縄総合食品」って看板の店、気になりますね。

―大正ならではのお店ですね。入ってみましょう。

全員:こんにちは~。

お店のおばちゃん:大学生か?

梅田:あー、もうちょっと上です。ありがとうございます(笑)。

―何を買ったんですか?

梅田:魚の塩漬けとシークワーサー、「みそなんとぅー」は沖縄のおもちですね。

背の低い自販機/チャリ窃盗団/宇宙人の目線/なんか知らんけど

雨宮:めっちゃ背が低い自販機がありますよ。地盤沈下かな。

梅田:このあたりの気圧が低くて、僕らの眼球が縦にのびたとか。

雨宮:あるいは、誰かが自販機を上から押しこんだか。

―尻無川に近づいてきましたね。

梅田:ほら、あれが大阪に3つあるうちの2つ目の水門。

―アーチ型水門、今日は2つ制覇ですね。川の向こう岸って…。

梅田:弁天町かな。

―港区ですね。「勘兵衛渡船場」から向こう岸へ渡りましょう。この時間の渡船、もう乗り切れないくらいに超満員です。

梅田:僕、熊本出身なんですけど、子どもの頃、1980年代の初頭かな。東南アジアからの難民船が天草の方面からやってきて。こんな感じだったかな。

雨宮:手際の悪いチャリ窃盗団みたいですよね。

―野球帰りの自転車少年がおおぜい乗ってますもんね。対岸の港区側はまた工場と倉庫が集まったエリアです。大正区でも話していた、人間スケールを超えた物が集まった場所という印象です。

梅田:この無機質な機能性がむき出しに見える感じの方がわかる気がする。むしろ、まちの方がこわいですよ。たとえば、宇宙人が遠くから観察して、たまたまのぞいた先がスタバだったら意味がわからないと思うんですよ。大勢の人がただそこに集まってる状況。ツライこと、うれしいこともある中で、そんなこと表に出さず平然として。

―読み解くのが難しすぎると。

梅田:うん。コンテクストが複雑すぎる。

雨宮:僕の場合は、その複雑さのほうが見えやすいかな、というか、逆に自然な風景に見えたりする。ここみたいな、物質的な重さや大きさがむき出しに見えている方が、対峙の仕方がわかりにくい。というか、その感じに自分は慣れてないないんだなぁと再認識する。

―梅田さんたちの作品『7つの船』では、船からそういったまちを眺めることになりますね。

梅田:海抜ゼロに近い状態からの目線で、まちの裏側を見ることになります。しかも、海に近づけば近づくほど、さっき話したような機能性がむきだしになってくるから、それを意識の対象にするだけでも普通にエンターテインな感じ。

―その上でさらにアーティストができることが何かありますか。

梅田:インストラクションを与えるのではなく、イメージや音でもって、自然と、ボディーブロー的に、かっこいい、おもしろい、なにかを発見できるような動線をつくっていく。

―そういう仕掛けが作品の中にある。

梅田:あると思いますよ。だけど実は、そういういいはなしばかりでもなくて、僕のなかでは、もう少し破滅的なことなんです。水、川、海と対峙することで、ほかの人からしたらあまり良くないとされる、本能的な衝動を満たすような感覚もあるんです。

雨宮:梅田さんに限らず作品を作ることって、当然そういう邪悪な部分があって、こういう場所って、梅田さんのそういう邪悪な部分が出やすいので、良いと思います。いわゆるホワイトキューブのギャラリーのような、まったく怪我しなさそうな場所よりも、よっぽど作品制作の動機と環境と作品の最終的なアウトプットが近いので見やすいんじゃないかな。

梅田:でも、こわいところは本当にこわいですもんね。

雨宮:僕は本能的にはこういった場所はこわいですよ。しかも、作品として船に観客を乗せるわけじゃないですか。その人たちが困ったとき、僕たちが責任者になるでしょう?そのときどうするかは、常にどこかでは考えている。それは美術館とかの動かない施設だと比較的考えなくていいことですもんね。

梅田:なんか知らんけど、「船から飛び降りちゃいけない」ってみんなちゃんと思ってるからね。

―何の裏付けもないけど、それが常識になっています。

梅田:道で走っている車もそうですよ。あっという間に死のうと思えば死ねるし、殺そうと思えば殺せる状況で、なんの疑問もなく信号で停車しているでしょう。列に並んで走ることをそれぞれの車同士が信用し合っている。でも、どうしてこの状況でお互いを信用しあえているんだろう、ってことも疑問におもわないと、それが壊れてしまったときに太刀打ちできない。そこのせめぎ合い。作品においては、「何をやるかわからない、こわい」と「何が起こるかわからない、こわい」、でも「船からは飛び降りないよね」っていうところのラインがおもしろいと思うんですよね。

文:永江大 写真:沖本明 編集:竹内厚


with 梅田哲也、雨宮庸介 around 木津川~大正~尻無川

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