「こっとう画餅洞」で聞いた、
ものと建物に宿る価値

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京都市内の大通りでありながら、昔ながらの雰囲気が残る今出川通り。生粋の京都人が多く暮らしているエリアです。その一角にある骨董品店「こっとう画餅洞(わひんどう)」に伺いました。ふたりの店主に、お店のことや建物のこと、そして古いものが持つ力などについてお話ししてもらいます。

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キッカケは月に1度の「幻の店」

15年以上にわたり、一緒に骨董品店を営んでいる服部元昭さんと朝日久惠さん。ふたりは関係性について聞かれるたびに、「夫婦でも恋人でもなんでもありません。腐れ縁です」と答えるのがお決まりになっています。
昔からの友人同士だったふたりが初めて骨董を売ったのは、北野天満宮で毎月25日に催されている骨董市「天神さん」だったのだそう。

服部:僕は古いもんにのめり込んでいたオタクで、露店とかで買い集めていたんです。朝日さんは実家が料理旅館ということもあって、器に対する興味もあった。せっかく場所もあるし試しにやってみようということで、遊びのようなノリで始めました。

朝日:その頃、私は北野天満宮のそばに住んでいたので、家の玄関先とひと部屋だけを使って、服部さんが買い集めたものを置いてみたんです。

服部:それがまあ、おもしろいほどよく売れたんですよね。1日で20万円くらいの売り上げになって、当時、プータローだった僕は「なんて簡単なんだ!」と思っちゃった。
でも、次の月にはすぐに現実を突き付けられた(笑)。コツコツ買ってきたものが偶然おもしろかったり珍しかったりしただけだということに、気がついていなかったんですね。同じ仕入れを1ヶ月でするなんて不可能なんですよ。

初めて出店した日から一転、それ以降の月は売り上げが低迷を極めたというふたり。それでも、売れないからやめてしまおうとは思わなかったといいます。

服部:プロとしての実力がまったくないのに、ビギナーズラックを勘違いして始めたんですけど。手応えを味わってしまったし、好きなものを買ってきたら喜んでもらえるという骨董の仕事におもしろみを感じちゃって。それでしばらく続けているうちに、あまりに無知な僕らを見かねてアドバイスしてくださる方が現れるようになりました。

朝日:骨董品屋さんだけでなく、コレクターさんにもいろいろと教えていただきました。長年買い集めていらっしゃる方って、本当に詳しいんですよね。それで知識が増えて、ちょっとずつ広がっていったんです。

西陣織工場の釘をひたすら抜いて

朝日さんの住まいを使った月1回限定の“幻の骨董屋”を始めて1年ほど経ったとき、今のお店が空き家になりました。

朝日:もともとは西陣織の工場で、築100年くらい。放置されていたのを、私が住居として借りていたことがあったんです。その後、友人夫婦が住んでいたんですけど、天神さんに合わせて店を始めて1年くらい経ったときに退去しました。
もともと取り壊すかどうかという物件なので、家賃も激安ですし、改装も自由。こんな物件が空くことはなかなかないやろうってことで、お店を始めるきっかけになりました。

西陣織の工場が3軒に分割されているという特殊な物件。30〜40年前に増築された2階は、隣との通路の上にまでせり出しています。

店内に光を取り込むために、2階は床を抜いたとのこと。

服部:その場の勢いと、周りから「店をやれ」っていわれてたのと、勘違いとで始まった店。やる気満々で準備したわけではなく、流されるようにして始まりました。

それからまる2か月かけて自分たちで手を入れ、住居だった物件をお店へと改装していったそうです。

朝日:古い建物の上に、変なリフォームが施されていたんです。安っぽいベニヤが張られた低い天井から、電気がぶら下がっているという感じ。そのリフォームを全部ひっぺがして、もともとの建物の状態に近づけていきました。

服部:建築の仕事をしている友達にアドバイスしてもらって。重いものを置いたとき床が抜けないように補強を打つ必要があるとか、この柱は触らないでとか。地味なんですけど、「釘を全部抜け」っていわれたのは印象的でした。築100年以上経っているので、あちこちに釘が打たれているんですよ。その凹凸が視界に入ってくると嫌になってくるからということでした。それで何百本もの釘を抜いて、壁にオイルステインを塗ってみると、確かに少しマシになった気がします。あとは徹底的に掃除をしました。

玄関先のステンドグラスは、開店祝いとして友人の作家からプレゼントされたもの。白と青の市松模様が、お店のシンボルに。

服部:でも、ほとんどもとの家のまんま。お金がないし技術もないから、やりたかったプランはまったく実行できませんでした。いまのこの店と僕が当初思い描いていた空間のイメージとは全然違います(笑)。

改装前は、タバコのヤニで黄色く汚れていたガラス戸。丸洗いして初めて、一番上のガラスだけ擦りガラスでないことがわかったそう。

古い建物だからこそなんとかなった

建築家の知り合いには「300万円はかかる」といわれていたという改装費用。実際には、10万円を下回ったというから驚かされます。

服部:昔の建物はよくできていて、寸尺が決まっているんです。だから、建具の移動や入れ替えは比較的容易にできました。たとえば、柱と柱の間にちょうど収まっている箪笥はもともとここにあったものではなくて、別の一軒家からもらってきたものです。
古い建物やし困るかなと思ったんですけど、古いからこそ逆になんとかなりましたね。骨董屋なんで、古いものは手に入りますし。

朝日:もらいものと、ホームセンターで買ってきたものと、廃材でできています(笑)。

畳ももらいもの。床の広さと端がぴったり合わないため、余った部分にはホームセンターで入手した砂利が敷かれています。

服部:そのうち時間ができたら、少しは理想のイメージに近づけようかななんて思っていたけど、物を置いてしまうとなかなかやり直せませんね。改装らしい改装のないまま15年経ちました。
ただ、大きな什器を入れ替えると空間の雰囲気が変わるので。いいものが手に入ったらストックしておいて、使えそうなときに入れ替えたりしています。

京都市内の商家から出てきた蔵扉を什器に。扉ながら泥棒よけに鉄板が入っているのが特徴的。家を取り壊すときに譲られた貴重なもの。

#2へ続く

取材・文:牟田悠 写真:小檜山貴裕 編集:竹内厚


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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