団地のひとインタビュー 004

山田義信(UR都市機構OB)

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#2 「西向き住宅を開発せよ」

千里ニュータウンにおける団地配置は公団の中でも初めてのことだらけ。当時、設計課に勤務されていた山田さんに現場の話を伺います。
トップ画像は一般財団法人大阪府タウン管理財団制作「千里ニュータウン絵はがき」より

#1 はこちら

団地の住棟をどれくらい距離を開けて配置するのがよいか、どのように決定されたんでしょう。

山田:その判断基準は、プライバシーと日照時間だろうと考えました。実際の現場に、職員や学生バイトに色紙を持って立たせて「どうや何色に見える?」って。どれくらいの距離を離れるとどんな見え方になるのか、その実験を繰り返しました。また、4時間の日照を確保するためには、5階建て14m70cmの高さに対して、その投影にかからない距離を割り出したり。そういうことの結果として、津雲台は25m間隔の距離を開けて、平行に配置されています。ただ、千里で平行配置をしたのは津雲台だけ、その後は囲み配置になっていくんですね。

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千里ニュータウン研究・情報センター所蔵写真より

住棟が平行に並ぶのではなく、囲むように配置されていくと。

そうです。囲んでいくことによって、ひとは空間を意識するんですね。そうすることで、コミュニティが形成されると。当時は、「日本住宅公団大阪支社の設計思想は人間融和にある」と宣言していました。コミュニティという言葉がまだ一般化していませんでしたから。だけど、実際に団地でコミュニティが発生するんだろうか。発生するとしたら、どのくらいの大きさだろうと。これもまた現場で調査をしてみたことがあるんです。

とにかく手本がないから、常に現場でリサーチですね。

何人までだったら顔を名前とを覚えることができるのか。現場でヒアリングしていくんです。その時の結果としては、120人くらいまでが限度だと。とするならば、1棟30戸で4~5棟だなと見当をつけて、ひとグループの規模を決めていきました。だからといって、4棟を平行に配置していたのを、ただ真四角に配置して、囲み空間を作ればいいかというとそういうわけにはいかない。南向きに設計した住棟をただ西向きに配置し直すだけでは、居住性が著しく劣りますから。

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図面上でただ建物を配置し直すだけではダメだと。

そうです。配置の技法を駆使するとともに、住宅の居住環境を高める工夫をして開発、設計、配置した西向き住宅が竹見台団地です。西日をさえぎるために庇を伸ばして、東にも西にもバルコニーがついています。庇の先にはすだれを吊れるようなフックもつけました。これは誰も気がついてないと思いますけど(笑)。夕方、東西両側の窓を開けると、千里ニュータウン独特の西風が通りぬけますので、涼しさを出すためにも部屋は全部フローリングにして。この住棟を南北方向に置いて、竹見台では囲み配置を実現しました。

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竹見台団地は昭和42年から入居がはじまっています。

竹見台は最初、大阪万博の共産圏国家のコンパニオン宿舎だったんですよ。これまでの公団の階高でいくとみんな頭を打ってしまうので、階高も高くしています。階高を高くすると工事費が上がりますから、その分を捻出するためにも、竹見台の高層住棟はスキップフロアの構造になっています。単純に廊下部分の床面積が減って、工事費を抑えられるということですね。

当然のことですが、いろんな条件から設計が決まってくるんですね。

新千里東町団地は自由主義国家のコンパニオン宿舎として建てられました。実際にコンパニオンが入居してから、よく部屋に遊びに行ったりもしましたね。「あなたの国の住宅と比べてどうですか?」って聞いたら、「茶室にじり口」と言われたのを覚えています。浴室への入口は、床の防水が立ち上がるので、構造上どうしてもその分だけ扉の高さが低くなるんですね。そこを指摘されたんです。

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千里ニュータウン研究・情報センター所蔵写真より

それにしても、コンパニオンの住まいに遊びに行くのは楽しそうです。

外国人の目に日本の代表的な公団住宅がどう見えているのか、自国の公団住宅とどう比較するのか、知りたかったんですね。

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大阪府タウン管理財団により何種類もの「千里ニュータウン絵はがき」が制作された

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「千里ニュータウン絵はがき」パッケージに付けられた千里ニュータウン全図

文:竹内厚 写真:佐伯慎亮(山田さんポートレイト)

どこまでも尽きることのない山田さんの話。千里ニュータウンが生まれた当時から、次回は、さらに未来の話も伺います。
#3 「計画的に作った街なんだから」


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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