団地のひとインタビュー 004

山田義信(UR都市機構OB)

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#3 「計画的に作った街なんだから」

日本住宅公団の語り部ともいうべき、山田さんによる千里ニュータウン黎明期の話。そして、今のニュータウンについてもお聞きしました。
トップ画像は一般財団法人大阪府タウン管理財団制作「千里ニュータウン絵はがき」より

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千里ニュータウンの設計で苦労されたことはどんなことでしょう。

山田:苦労したといえば、青山台団地ですね。地形的に下から上まで高低差が40mある敷地なので、これをいかにだましだまし上げていくか。3%の勾配になると、ひとは坂道だと感じますから、2%ずつ上げていって、2カ所でぐぐっと一気に上げて、そこにボックス型の団地を配置して高低処理をしたんです。

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今は緑が生い茂る青山台だが、完成当時は左から右へ傾斜した地形がよくわかる。千里ニュータウン研究・情報センター所蔵写真より

青山台団地は、敷地全体がなだらかな傾斜地になっていますね。土地をならすということはなかったんでしょうか。

再造成なんかはありえません。土量を搬出する先なんてありませんから。だから、土量をなるべく持ち出さなくていいように、地盤の高さから排水の勾配、景観も頭に描きながら、土量がプラスマイナスゼロに近づくよう計算をしつつ図面を描いていくんです。電卓のない時代、そろばんと計算尺で数字を拾いながらですよ。

まさに技術屋という感じですね。

そうです。青山台団地の下から30mほど上がったところにモニュメントがあるのをご存知ですか。おそらく公団住宅でモニュメントを置いたのはあれがはじめて。下から30m上がってきてホッとするなというので、“ほっと空間”と私が呼んでいた空間をつくって、そこにモニュメントを彫ってもらったんです。作者は、後にドイツ・カールスルーエ美術大学の教授になられた彫刻家の秋山礼巳さん。「太陽と月」というタイトルですね。

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秋山礼巳 作 「太陽と月」

もちろん、いまも現存するモニュメントですね。

あります。先日、青山台に行ったらモニュメントの上に上がって、遊んでた子どもがいました。自分のひ孫みたいな、その子どもに「これ、なんやと思う?」って聞いたら、「太陽と月」だって知ってましたよ。

いまでも千里ニュータウンに足を運ばれるんですね。

先日も1万8千歩くらい歩いてきましたよ。行くと必ず、住んでおられる方をつかまえて話を聞くんです。「住み心地はどうですか?」って。こないだ竹見台で会ったお年寄りの方は、「こんな自然がきれいなところで、立派に管理していただいて感謝しています。ただ難儀なのは…」って、買い物に不便されてるんですね。設計では、買い物動線を考えて、12の近隣センターに店舗を集めましたけど、それが今は閉店に追いこまれるところも多くて、ニュータウンの外側か駅周辺にしか買い物ができる場所がないんですね。私の意見としては、千里ニュータウンは計画的に作った街である以上、計画的に作り直すべきだと思っているんです。

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なるほど。

千里ニュータウンは、歩車分離、つまり歩行者と車の動線をできるだけ分けようということが大きなテーマになりました。民有地ではなく、ぜんぶが官有地だったから、それができたし、今までそれが残っているのです。だけど、府営住宅が建て替えられるのにともなって、どんどん民間住宅になってますね。それで、千里の住民数自体は増えています。だから、若い層と高齢者とそれぞれに対応する形に団地も変えて、また近隣センターをよみがえらせて、いかにコミュニティの中心にできるか。千里が大阪都心まで電車で15分という利便性は何も変わってないわけですから、千里の団地が空き家にならないようにしないといけませんよ。

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千里ニュータウン研究・情報センター所蔵写真より

場当たり的な対応ではなく、大きな設計思想をあらためて引き直してというのが山田さんのご意見ですね。

そういう議論をすることは今でも好きですから、大学の先生らと今でも定期的にお会いして、意見を戦わせてるんですよ。

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→ 84歳にしてあらゆる数字やデータも的確に記憶されている山田さん、その後も計画部として携わった武庫川団地の話など、公団エピソードは尽きることがありませんでした。ちなみに、武庫川団地も、千里の各団地と同じように囲み配置が実現されています。高層住棟なので、千里と似た印象は持っていませんでしたが、図面で拝見すると確かに確かに。そんなインタビューの続きはまたいずれ。

文:竹内厚 写真:佐伯慎亮(山田さんポートレイト)
(2016年2月15日掲載)


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借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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