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『バイトやめる学校』という、自活して暮らしていくための大胆な理論と実践例を紹介した著書を発売した山下陽光さん。本の最後には、「読み終わったらこの本をメルカリで売るのが、バイトやめる学校の第一歩」とも。
売る/買うの関係とか、稼ぐための方法とかを根本から考え直すことを迫られる、オドロキの1冊です。

長崎から福岡へ移住して約4カ月という、山下陽光さんの住まいを訪ねました。


山下陽光
1977年長崎生まれ。ハンドメイドファッションブランド「途中でやめる」主宰。「バイトやめる学校」を日本全国で開催。「新しい骨董」のメンバーでもある。ツイッター@ccttaaも注目!

 

#1 買うを考え直すこと

山下さん、どうして福岡へ?

陽光:福岡のほうが家賃が安いんですよ、長崎よりも。長崎は坂の多い街だから住める土地が少なくて、ゆえに家賃が高いっていうグラフみたいなのを見て。で、便利さでいうと圧倒的に福岡の方がいいし、お客さんもいるから。

昨晩、山下さんのツイッターで「明日、我が家で服の直売やります!」って告知してましたね。

陽光:昨日急に思いついて告知したので、誰も来ないかもしれないけど。まあでも、そういうこともできるかなと思って、この家を借りたから。

住宅街にある一軒家、庭側の塀が壊されているのでやけにオープン。山下さんの家族もほぼ玄関は使わず、庭側から出入りしているそう。

家賃はとにかく安いですよ。向かいのマンションも新築で月25,000円。ここから天神(福岡市の中心部)まで自転車で10分くらいで行けるから。みんな引っ越してくりゃいいのに。フミヤもそろそろこっち帰ってこねぇかなって思ってるんですよ。

フミヤ?

陽光:確か、福岡の久留米なんですよ、チェッカーズが。

藤井フミヤさんのことでしたか。誰がどこに住むか、その選択肢は、東京1択ではもうまったくあり得ない時代になりましたね。

陽光:住まいのことでいえば、最近は、カーシェアの車で寝泊まりする人がいるらしいですね。夜間に借りて、別にそこから車を動かさないで。って思ったら、別にカーシェアじゃなくても、誰の車でも貸し出せますよね。もっといえば、あなたが路駐する車で車中泊しておくから千円くださいってことも言えるし、千円払いますってこともあり得ると思うし。

何に価値を認めて、誰が誰にお金を払うのか。

陽光:キャンピングカーで移動してる人なら、キャンピングカーを誰かに貸して泊まってもらって、そのお金でホテルに泊まるとかもあり得そうだし。

隣りのマンションが「山下」というのは偶然。

その借りたい人と貸せる人とをどうやってつなぐかだけの問題ですけど、スマホが普及した今、間をつなぐサービスもどんどん増えています。

陽光:インターネットが面白いのは、twitterでもFacebookでもLINEでも、僕らは別にお金を払ってるつもりが全然ないんだけど、これだけ便利なことが享受できていて、進化し続けている。だけど、本も服も映画もなんでも買わないといけなくて。言っちゃうと、もう売り買いとは関係ないところに行ったほうがいいのかなって思いますね。

やり方なのか、考え方なのか、何か追いついてない感じはあります。

陽光:音楽は特にそうですよね。気持ちでは好きなミュージシャンのCDを買いたいけど、YouTubeでフルアルバムを全部聴けるんだったら、CDに払う3,000円ってよくわからない。そのお金が全額その人に渡されるんだったらいいんだけど。

久留米絣を使った「途中でやめる」の新作服。

山下さんは、自分の本『バイトやめる学校』をメルカリで転売することを呼びかけていますけど、これってどういうことなんでしょう。

陽光:本って複製芸術だから、1人が書いたものを千人が読もうが、1万人だろうが100万人だろうが変わらないんですよ。売れば売っただけ入ってくるお金は違うんだけど、その関係も出版社と著者と本屋くらいで終わってるんです。でもほんとは、一番関係したいのは読者であって、読者同士がいかにつながるかとか、読んだ後にどれだけアクション起こせるかなのに、売って終わり。
それは、服も、電化製品でも、家具でもなんでもそうなんだけど、買った後にガタつくんだけどどう対応できるのかとか、4人家族でどれくらい使えるのかとか、知りたいところは買った後の話なのに、売るほうは店に納品して終了…ってなっちゃうのがよくなくて。

『バイトやめる学校』でも、もうお客さん同士でやっていけるんじゃないのって話が出てきますね。

陽光:絶対そっちのほうがいいんですよ。『バイトやめる学校』を誰かが読んで線を引きまくった本がメルカリで売られてて、ここ、意味がわかんなかったとか、読者が話しあったりしてるんですよ。 100人が10冊の本を交換しながら読んだ方が、100冊売れることより面白いと思うんですよね。

本を書いたり売ったりすることで商売をやってる人からしたら難しい話ですけど、面白さでいえば確かに。

陽光:僕は服をつくって、それを売ってぎりぎり生活してるから、服をすべてメルカリの中だけで完結されると確かに困っちゃうかもしれない。だから、僕の場合はせめて本に関しては、面白い方でいいかなって。

とにかく今は、お金の理屈だけが圧倒的にまかり通っているのがつまらないとも言えますね。

前日のツイッター告知を見て、直売にお客さんがやって来た。

#2 悩みで広場ができる

文:竹内厚 写真:平山賢


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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