古いままの部屋が選ばれる理由

吉原:ひと言でいうと、カルチャーのイノベーションを起こせたということです。
今までは古くてボロいと思ってた建物でも、リノベーションした部屋をホームページやメディアを通して見てるうちに、新高砂マンションや冷泉荘に来られた時点で、もうブランドの建物に入ったという感覚なんです。
だから、部屋を見ると「すごくいい! でもちょっと家賃が高い」って。そのうえで、既存の部屋を見ると、「こっちも結構いいね」って決まっていくんですね。

リノベーションした部屋の方が当然、家賃は上がっているから。魔法のようですね。

吉原:逆にいえば、古い賃貸物件をバイアスなく、正当に評価いただくための条件が整ったということ。
建物の本質を見る目を養っていくというのが、僕らの仕事の根幹にはあるんです。

そうか。魔法というなら、古い物件=よくないというむやみな先入観こそが魔法にかかった状態だったんですね。

新高砂マンションは、吉原さんの生まれ育った旅館を1977年に建て替えたマンション。2004年からリノベーションを開始。

吉原:窯元をやってる僕の親戚筋がありまして、そのおじいさんが言ってたのは、それまで普通に街の焼き物をつくってたんだけど、あるとき、民藝の柳宗悦さんらがやって来て、民藝として知られるようになったら、それまでの何倍もの値段で商品が売れるようになったと。 僕らが古い賃貸ビルでやったのもこのことなんだろうなって、その話を聞いてすごく理解できました。

新高砂マンションは中廊下ながら開放的。

あらためて評価されたのが、シンプルで実用的な既存のLDKだったというのも民藝のエピソードを思わせますね。

吉原:ええ。古いデザインだからこそ残していくというのが、今の僕らのリノベーションの感覚で、つまり、どこをどこまで壊すかというところにリノベーションのミソ、デザインがあるんですよ。
それ以上壊してしまうと、部屋のデザインが失われるという手前で寸止めできるか。
しかも、壊さなければ壊さないほど、費用をかけずに付加価値が高められますので、利回りの高い物件になるんです。

まさに賢い大家です。

吉原:いちばん初めにスケルトンにしまくった、その経験が活きてるんですね(笑)。

新高砂マンションの1階は複合施設として、ショップやオフィスが入居。

→吉原さんのステージは、ここまでの話からさらにさらに進んでいます。「もうリノベーションはいいかな」とまで。その道すじは後編でどうぞ。

→また、新高砂マンションで暮らす方の住まいも訪ねました。
カリグラシコレクションNo.42:新高砂マンションの2DK 地域支援ライター・Mさんの部屋

文:竹内厚 写真:平野愛

*後編 はこちら


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。