壁紙が住まいを変える II
Yukari Sweeney(YSD LONDON/デザイナー)

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ロンドン発の壁紙ブランド「YSD LONDON」のデザイナー、Yukari Sweeneyさん。東京・ビッグサイトでの「インテリアライフスタイルショー」のため、来日されたところをキャッチ! UR都市機構の西山直人さんとともにYukariさんのロンドン暮らし、デザイナーになるまでの話をお聞きしてきました。

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西山:このユカリさんの壁紙(Forest of Dean)、うちの団地でも使わせてもらってますよ。一見、柄としては派手に見えるんですけど、実際に壁に貼ってみるとしっくりくるんですね。

ユカリ:ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしいですね。私が新しいデザインを考えるときの基準は、自分の家のバスルームに貼ってあっても大丈夫かどうかなんですよ。顔を洗ったりする時間って毎日のことで結構長い。そのときに視線のすぐ横にあっても、苦にならないものでありたい。突拍子もないデザインを考えることもありますけど、最終的にはすべてカットしています。

URの団地でユカリさんの壁紙を採用したのはどんな経緯からですか。

西山:WALPA*で「YSD LONDON」の壁紙を見つけたことから、DIY住宅のモデルルームやリノベーション住宅でも使わせてもらうことになりました。WALPAとのコラボで出されているペンキ(イマジンウォールペイント ブリティッシュビンテージカラー)もありますよね。あのペンキと壁紙の相性がまた絶妙で。

*WALPA探訪・濱本社長インタビュー記事
https://uchi-machi-danchi.ur-net.go.jp/cms/ours/hamamoto-1/

ユカリ:あれは、WALPAの濱本社長がロンドンのスタジオにいらっしゃったときに、“ユカリさんの使う色はすごく特徴があるけどどうしてるの?”って聞かれたので、「古い絵本が好きなので、そのくすんだ感じの色を参考にしてるんです」って話をしたら、日本に戻った濱本社長からすぐに電話があって、“ユカリさん、ペンキをつくりませんか?”って。もうそのときには、「ブリティッシュビンテージ」というタイトルまでいただいて。

西山:さすが、話が早い。

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中央の缶が「ブリティッシュビンテージ」のペンキ。スコティッシュ・ヘザー、カーディガンベイなど特徴的な14色展開。

ユカリ:そうなんです(笑)。うちはシルクスクリーンで仕事をはじめたこともあって、すべて白とグレーをベースの色にして、そこに黄色をまぜたりとかしてつくってるんです。それで、試しに14色つくってみたら、濱本社長は“じゃあ、14色で展開します!”って(笑)。濱本社長とはいろんな話をしますけど、私が日本で初めてショーをやったとき、当時は誰も壁紙とは言わずに、クロス、クロスって言ってたんですね。だから、“これ、何に使うんですか”とか言われちゃって、もう散々なショーだったんです。その悔しさが忘れられなくてって言うと、濱本社長もやっぱり昔はいろんなことがあったよって話をしてくれて。

西山:ほんとにこの5年くらいで、日本の壁紙の状況は変わりましたね。ちなみに、WALPAの濱本社長とは大阪・大正の団地でひとつプロジェクトを立ち上げようとしているんです。

ユカリ:大阪は濱本社長の地元ですもんね。大阪ってロンドンと感覚が近いと思うんですよ。ロンドンでは、パンクなお母さんはすごい格好でベビーカーを押してたりして、自由に着たいものが着れる、他人と違うことに寛容な街なんです。私が住んでいるのはロンドンのグリニッジですけど、友人たちと“グリニッジのヴィヴィアン・ウエストウッド”とひそかに呼んでる老婦人がいます。ものすごい格好でいつも歩いていて、とても発想が自由だなぁと感心します。

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西山:ユカリさんはどういった経緯でロンドンで暮らすことになったのですか。ユカリさんのヒストリーを今日はお聞きしたくて。

ユカリ:私なんてたいしたことしてないんですよ。今日はインタビューだと聞いて、まいっちゃったなと思って…。日本ではファッション業界にいました。ところが、今の結婚相手に出会って、突然、ロンドンへ行くことになり、当時行ったこともなかったので、なんでこんな国に来ちゃったんだろうって状態からスタートして。しばらく撮影のスタイリストなんかをやってたので、50-60年代の生地が好きで蚤の市へ探しに行ったりしてたんですけど、きちんと勉強したくなって、ロンドン大学(University of East London)に入学したんです。

海外に出てから大学へ入り直すってすごいですね。

ユカリ:ロンドンの人っていくつになっても勉強してる人が多いんですよ。だから、60代から大学院へ入るという人もたくさんいます。そういう環境だったので、私も大学のサーフェイスデザインコースに入学しました。サーフェイスデザインというのは、テキスタイルだろうが道路だろうが、ありとあらゆる物の表面のデザインを学ぶところ。その大学最後のショーを見て、ポールスミス(Paul Smith) メンズのプリント部門のボスが私を見つけてくれたんです。ポールスミスから声をかけられたら、そりゃ行きますよね(笑)。あっその前に、イーリーキシモト(ELEY KISHIMOTO)でもプリントを教えてもらったんだ。

西山:とんとん拍子じゃないですか。

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ユカリさんの暮らすグリニッジはロンドン郊外、グリニッジ天文台でも知られる街。以下4点、ユカリさん提供写真より。

ユカリ:すごくラッキーだったんですよ。ポールスミスはまずトレーニングで入って、その環境もすごくよかったんですけど、3か月くらい経ったところで、トップショップ(TOPSHOP)というイギリスの大きな洋服チェーンがあるんですけど、その中にある靴屋さんの新しい店舗用の壁紙をデザインしてくれないかという依頼を受けたんですね。そこで壁紙もありだなと思って、壁紙のデザインをはじめたんです。

西山:そこから壁紙をデザインすることになっていったんですね。

ユカリ:そうですね。しばらくは、アンソロポロジー(ANTHROPOLOGIE)とか、そういったブランドやショップの依頼を受けてデザインをやってたんですけど、ある日、すごくかわいがっていた犬が死んだんですね。突然死で。そこで私も世界観が変わっちゃって、自分で自分の時間をコントロールして生きていくためにも、独立してやっていくことに決めたんです。

西山:その独立がいつ頃のことですか。

ユカリ:8年前くらいかな。だから、あまり先のことを考えずに、目の前のチャンスをつかまえてやってきただけなんですよ。いまは、娘が仕事のパートナーで、彼女は若くて尖ったところがあるので、“ウケ狙いでやったでしょ”“それは私は興味がない”とか、はっきりしてるんです。大事なのは、スタジオのスタイルを守っていくことよりも、いつもオープンな姿勢でいること、格好悪いのを怖がらないこと。別に偏っててもいいよねと思っています。

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娘のキミカさんと愛犬のテディ、近所のデリで。

西山:写真で拝見しましたけど、かっこいい娘さんですよね。

ユカリ:ヘアスタイルモデルもやってるので、コレクションにあわせた髪型にされちゃって、こないだは青い髪で眉毛なしって、どんどん宇宙人みたいになっちゃって(笑)。

ロンドンではどんな住まいですか。

ユカリ:イギリスでは、ビクトリアン(Victorian/19世紀後半)の家でも一般の人が住んでるんですよ。産業革命で繁栄した時代に一斉に建てられた家で、レンガ造りで天井の高い家が多いです。ビクトリアンを探したんだけど見つからなくて、その後のエドワーディアン(Edwardian/ビクトリア女王の次、エドワード7世の時代。1900~10年代)の家を見つけて住んでいます。

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お気に入りの店「LABOUR AND WAIT」は生活雑貨店。

西山:さすがロンドン、それくらい古い家が当たり前にあるんですね。

ユカリ:床や壁などオリジナルな部分はのこしながら、もたないところは直さないといけないので、時間もお金もかかって大変なんですけどね。昔の家なので収納も全然ありませんし。

西山:馬に乗っている写真も見せていただきましたね。

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馬のエドワードとともに。

ユカリ:乗馬はずっと続けています、下手の横好きなんですけど。ハーフローンというやり方で、馬を借りることができるんです。フルローンだと自分ですべて面倒を見ないといけないけど、ハーフローンだと1週間に2回、馬の世話をすれば週に3回乗れるんです。

それでも週2回は世話をするんですね。

ユカリ:そう。だんだん自分の馬みたいな感覚になってきますね。

西山:OURS.のサイトを見たユカリさんからメッセージをいただいて、そのときの“私もロンドンを借り暮らし”って言葉がとても印象にのこっています。いまの馬の話なんてまさにそうですね。

ユカリ:ロンドンの街を丸ごと借りて暮らしてるって感覚はあります。家は買ってるんですけど、壁に穴を開けるのはためらったりとか、どこかで自分のものじゃないって感覚があります。それがよその国に暮らすということかもしれませんけど。私がOURS.の記事やURさんの団地を見ていて感じるのは、ノスタルジックという感覚なんです。それは、私の仕事にも通じるところですので、そんな部分でまたいつか、ご一緒させていただけたらいいなと思っています。

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文:竹内厚 写真:平野愛
(2016年7月14日掲載)


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昨年から始めた新シリーズ「Plain Jane & Average Joe」は、アパートメントに暮らすような、ごく普通の男の子と女の子の暮らしをイメージ。こちらはキャンドル。


THE BORROWERS

借り暮らし、貸し借り、賃貸にどんな可能性がひそんでいるのか。多彩に活躍する方々へのインタビュー取材を通してその魅力に迫ります。いいところ、大変なところ、おもしろさ、面倒くささ…きっといろんなことが浮かび上がるはず。

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