部屋にうたえば

第1期ふりかえり編

連載企画「部屋にうたえば」では、谷じゃこさんをホストに12人の歌人をゲストに迎えて、たくさんの魅力的な短歌を掲載してきました。この1年間の連載を振り返りながら、短歌の魅力と楽しみ方について谷じゃこさんに聞きました。


|写真から歌をつくるってよくある方法ですか?

―「部屋にうたえば」では、写真をお題にして短歌を詠んでいただいています。これは、短歌の世界ではよくあるやり方なんでしょうか。

あまりないことだと思います。お願いしたみなさん、「初めてやったけど楽しかった」と言ってくださるので。私も写真からつくるのはこの連載が初めてで、とにかく写真を隅々まで見てからつくっています。だから、写真が頭の中に焼きつくほど(笑)。

―そこまでお題写真に寄り添っていただいてたんですね。つくり方としてはどんな手順になるのでしょう。

私の場合はですけど、普段から散歩の場面や、家で起きたときの感じなどを想定してつくったりしているので、そのスタート、きっかけを写真にもらっている感じです。写っている景色に自分が住んでると仮定して、これってどういう場面なんだろうという想像から1首をつくり、それをさらに広げていく。そんな順序で考えているので、写真が自分の生活から遠いとむずかしいなと感じます。

―たとえばどんな写真が難しかったですか。

第6回の写真です。自分の生活から遠くてすごく苦労しました。

第6回のお題写真。谷さん、そしてゲストの小池佑さんのつくった歌はリンク先にて。
https://karigurashi.net/tanka/utaeba-06/
|連作をどう読めばいいでしょう?

―それぞれの歌人の方が1枚の写真から、だいたい7首つくっていただいてますね。

連作という形です。短歌雑誌などでは、多いときには30首、50首といった連作も発表されています。7首だと軽く読めるくらいかなと思います。

―短歌を読み慣れていないと、7首でも多く感じる人がいそうです。

そうか…私としては5首だと少なすぎて、逆につくりづらいんです。物語でいえば起承転結の「転」を入れづらくて。7首くらいが流れも楽しめていいくらいかなって。

―連作だと作者の思う流れがあるんですね。

そう考えてもらっていいと思います。たとえるなら、写真のスライドショーみたいなもの。部屋で寝ている写真があって、次にみんなで花火をしている写真があって。そういった場面の写真が連続で投影されたら、写真ごとのつながりははっきりわからないけど、同じ主人公の大きな物語が想像されますよね。

―なるほど!

それが短歌の場合は、視覚的な場面だけじゃなく、頭の片隅で考えてることやふと思い出したようなことなども入ってきたりします。連作のつくりかたに決まりがあるわけじゃないので、歌人ごとにスタイルはいろいろですけど、そのあたりの違いも楽しんでもらえたら。

編集部的に連作の流れがとてもわかりやすく思えたのが、第3回の多賀盛剛さんによる「天気」。7首のうちに驚くような展開に。
https://karigurashi.net/tanka/utaeba-03/
|印象的だった歌はどれですか?

―ゲストのセレクト、歌の依頼はすべて谷さんにお願いしています。どんな方を選んでいますか。

楽しんで挑戦してくれそうな人にお願いしていますが、共通しているのは、関西を拠点に活躍している方で、私が好きなひと!

―それがいちばんですよね。お題となる写真と歌人の組み合わせはどう考えているでしょう。

料理の歌が好きなひと、恋の歌が得意なひと、家族の歌をよく詠むひと。私が思うそれぞれの個性に合わせているつもりですけど、このお題写真だったらどうされるだろうということを楽しみにして、お願いした回もあります。

―とくに印象的だった歌はありますか。

どの回にもこんな風に詠むんだという意外性を感じる歌があって、いちばん私がこの連載を楽しんでるかもしれません。一番というのは選べませんけど、たとえば、第1回の岡野大嗣さんの2首目の歌は、お題の写真から部屋に風が入ってくることを感じて、部屋にポスターが貼ってある風景を詠まれたと思うんです。その前の1首目にもシティポップという言葉が見えるので、音楽が好きな人が暮らしてるのかなとも感じさせられて。1首ごとにすごく自然につながりが見えてきて、すごくいいなと思いました。

―ほんとにそうですね。ポスターも、音楽も、風だって写真には写ってないのに、写真の前後にありそうな気がしてきます。

第1回のお題写真。岡野大嗣さんの2首目は「ポスターの右下の画鋲ゆるくって風ぬけるたび騒ぐ右下」。1首目は「さ、はシティポップの語尾で夢にまで珈琲の香りが漂う朝さ」。
https://karigurashi.net/tanka/utaeba-01/

ただ、歌人の私でも読んでもわからない歌はありますし、言葉の隅々まで意味があるかは作者にしかわからないこと。言葉で書かれたものなので、きちんと読み取りたくなるかもしれませんけど、読む人が読みたいように、好き勝手に受け取ってもらっていいと思います。正解を考えるよりは、いいなと感じた1首だけでも心の中に置いておいてもらえたら。

―ありがとうございます。第2シーズンも楽しみにしています。

はい、私が好きな歌人はまだまだいるのでまかせてください。


谷じゃこさんと編集部それぞれの視点で、全12回の連載から3首を選びました。

谷じゃこ選
自分にはない視点にハッとさせられた短歌3首

あしのばしたら、つまさきが、べらんだにでて、ゆびからぼくは、てんきのおんど、
/多賀盛剛(第3回

…とても気持ち良さそうな畳の部屋の写真だったので、私も寝転んでいる短歌を作りました。多賀さんはつまさきをベランダに出して、リラックスした寝転びスタイルです。あし→つまさき→べらんだと外に向かっていったあと、ゆびからおんどがぼくへと広がってきて、一首の中で視点の流れが心地いい短歌です。読んだだけで日向のあたたかさが思い出されてぽかぽかします。

大鍋を出すよろこびは前世のわたしの業にはるか連なり
/谷とも子(第8回

…とうもろこし2本をまるまる茹でることができる大鍋、コンロの上にどんと乗せただけでも景気のいい気分です。ところが、「前世のわたしの業」というなにやら物騒な方向へ展開していきます。ぐつぐつ煮ている大鍋の中身は前世では一体何やったんやろかなどと、ちょっとこわい想像がよぎったり……。明るい台所からは思いも寄らない方向へ飛躍して、一首の中にこんなにも表情の奥行きを出せるのかと衝撃でした。

アラームの前触れ、世界が起動するときの静かな音漏れを聴く
/宇野なずき(第9回

…和室の天井の写真で、寝転んで天井を見上げている構図です(多賀さんの短歌でも寝転んでいたし、畳を見るとどうしても寝転びたくなってしまうようです)。アラームが鳴る直前に「あ、鳴るわ」ってわかる感覚を、「世界が起動するときの静かな音漏れ」と表現する言葉のチョイス、鋭くてグサッと刺さりました。そもそも視覚的なお題から、鳴ってもいない音を短歌にするなんて。時間にすると1秒もない一瞬の震えを、短歌の31音分ゆったり味わわせてくれます。

うちまちだんち編集部選
自分なりの暮らしと部屋を再発見できた短歌3首

お釣りの額がたまにぞろ目になることも暮らしのささやかなテクニック
/阿波野巧也(第11回

…おっ、とほんの少しだけ気持ちが動くこと。うれしいまで言っちゃうとウソになるような。そんな気持ちのちょっとした波のようなものを拾い集めることのよさも、この短歌連載を通してたくさん気付かされたことでした。「暮らしのささやかなテクニック」とは短歌のことでもあるんだとも思いました。

餞別にこたつあげたらあたらしい床が生まれて部屋はいきもの
/橋爪志保(第2回

…模様替えをしたときに初めて出会ったような気がする部屋の床。それを「部屋はいきもの」と言い表されてみると、小さな島だと思ってたら超巨大な亀だった、みたいな話が思い出されてあらためて部屋の床を触ってみたり。当たり前のように言われる、こたつを餞別にというのもいい話です。

飾るからいいねんというまじないに増えてゆくポストカードと人形
/谷じゃこ(第10回

…全12回すべてに短歌を発表していただいたホスト役の谷じゃこさん。谷じゃこさんの短歌はどの回をとっても、前向きでやさしい「暮らしのささやかなテクニック」が潜んでいるようでした。この歌の「まじない」は、片付け伝道師・こんまりさんの魔法とは正反対を向いていますが、いいねん、それでと背中を押してくれます。


部屋にうたえば 第1期
https://karigurashi.net/tag/tanka/

ゲスト歌人:
第1回 岡野大嗣
第2回 橋爪志保
第3回 多賀盛剛
第4回 染野太朗
第5回 飯田和馬
第6回 小池佑
第7回 嶋田さくらこ
第8回 谷とも子
第9回 宇野なずき
第10回 toron*
第11回 阿波野巧也
第12回 淡島うる

ホスト歌人:
谷じゃこ


取材・文/竹内厚

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