




一人の歌人の短歌をまとめて読んでいると、どういう暮らしをしているのかやどんな仕事をしているのかなど、必ずしもそれが作者とイコールとは限らないものの、おおまかな枠組みみたいなものが見えてくることがあります。ところが水沼朔太郎さんは、暮らしのことを詠んでいても枠組みみたいなものがあまり見えてこない、不思議な読後感のある歌人です。現実の自分のことを詠んでいるはずなのに現実味がない、ゆがみの生まれる面白さ。
ドライヤーのことをひたすら考えてドライヤーと完全な一対一で向き合っているとき、この人とドライヤーしか存在しない精神の空間みたいなものが発生していて、でもこの人とドライヤーはまぎれもなく現実の生活のもので……。こちらから見ると一首のなかに二つの空間があって、それでゆがんで見えるのかな。疑問に思ったことを疑問のままにせず、めちゃくちゃ考え抜いたそのままを短歌にできるのは、水沼さんの真面目さならではかもしれません。
最後に余談ですが、一首めの頭が同じ言葉になったのははじめてかも。ちょっと嬉しいですね。
水沼朔太郎(みずぬまさくたろう)
1991年8月堺市南区に生まれる。現在、大阪市在住。今年の4月からワンルームで暮らす。これまでの作品発表に『ベランダでオセロ』(合同歌集)、『稀風社の水辺』(同人誌)、『オフタイマーがもうすぐ切れる』(個人誌)。来年には第一歌集を出したい。
Twitter:@smizunuman
谷じゃこ(たにじゃこ)
1983年大阪生まれ、大阪在住。短歌のzineを作るなどフリーで活動。『クリーン・ナップ・クラブ』『ヒット・エンド・パレード』『めためたドロップス』、フリーペーパー「バッテラ」(奇数月発行)など。鯖と野球が好き。
Twitter:@sabajaco
Web:http://sabajaco.com/
※今回のお題写真は、過去に松ノ木町団地を撮影した写真記事から。撮影は片山達貴。
→https://karigurashi.net/ours/katayama-05/