




家族といるときの自分と職場での自分、友達といるときの自分がそれぞれ違うように、一人の人間にもいくつものアイデンティティが存在します。昨年、塔短歌会という短歌結社の新人賞を受賞した朝野さんの作品は、家族や性別などいろんなアイデンティティが絡み合う中での苦悩や葛藤を描いた30首「鯨を胸に」でした。
そこに、「帰省なら今年もしない今はもうカメラロールにしか海がない」という一首があります。海のない県ならではの海へのこだわりは奈良県人のアイデンティティでは? と気づいたとき、まさかの方向からパンチが飛んできたような驚きがありました。(奈良県の方すみません……)
この時期に洗濯機とお風呂場という水回りの写真から短歌を作ると、ひんやり寒々としてしまいそうなところを、冬の陽射しのあたたかい連作を作ってくれました。やわらかい雰囲気にそっと遊び心を忍ばせた短歌が素敵な朝野さん。たまに遊び心が炸裂した短歌も作るので見逃せません。
朝野陽々(あさのようよう)
奈良県生まれ。京都、兵庫、大阪などを転々としたのち奈良県に戻ってきました。塔短歌会に所属しています。第十二回塔新人賞受賞。ラーメンと明太子が好きです。
Twitter:@asanoyoyo
谷じゃこ(たにじゃこ)
1983年大阪生まれ、大阪在住。短歌のzineを作るなどフリーで活動。『クリーン・ナップ・クラブ』『ヒット・エンド・パレード』『めためたドロップス』、フリーペーパー「バッテラ」(奇数月発行)など。鯖と野球が好き。
Twitter:@sabajaco
Web:http://sabajaco.com/
※今回のお題写真は、過去に西大寺駅前団地を撮影した写真記事から。撮影はAyami。
→https://karigurashi.net/ours/lifestyle-11-03/