部屋にうたえば

       

一枚の部屋の写真から
二人の歌人が短歌を綴ります。
28回は木村比呂さんを迎えて。

Wash two mugs木村比呂持ち寄ったマグカップから始まった 今朝はひとつを洗ってもどす平日をケンケンパした先で会う 二人の冬はそういう感じ伏せてある本に元気がないんです君が出張している週はシンクではいろんな音の金属が時が来るまでシーってしてるこの夜の舳先になったベランダで祈りのように持つマグカップ明け方に車で君を拾う予定 星ってきっと遠い木漏れ日コーヒーが香ったほうへおはようと言えばいいだけ そこにいるから

今日はここまで谷じゃこ秒針の速さ以上で過ぎてった一月二月だった気がするコーヒーを蒸らすあいだに考えた言葉は換気扇から抜けて先寝てて わたしはでかいトラックが国道をゆく音を聞いてるシッシッてしたのに家までついてきた書類めくれば事務室のにおい充電が切れそうでこの時間から光るにはチョコぐらいじゃ足りんマグカップ洗って二つ並べたら今日という日の終わりのしるし朝食にクロワッサンを買ってあるはやく眠ればはやくうれしい

『ショートソング』という小説をご存知でしょうか。歌人の枡野浩一さんによる短歌と青春の物語なのですが、ストーリーもさることながら小説に登場する短歌がすごくいいと人気です。その中で、主人公である大学生の国友克夫が賞に応募するため作り上げた連作に使われているのは、なんと木村比呂さんの短歌なのです。私の周りの短歌の友人たちも、『ショートソング』を読んで短歌に興味を持った人が結構多い。今回木村比呂さんの連作を読めるということで、喜んでいる友人もたくさんいるはずです……!
木村さんの短歌は、なんといってもチャーミングな視点がたまりません。旅先で出会った猫に挨拶をするみたいに、優しくやわらかい声で、敬意を持って身の回りのものに語りかけます。「伏せてある本に元気がないんです……」なんておうちで言っていると知ってしまったら、出張先から飛んで帰ってくるしかないですよ。
短歌の読みやすさも魅力です。ほとんどの短歌が定型(5・7・5・7・7)のリズムで読めます。しかし、「読みやすい」イコール「わかりやすい」とは限らないのがおもしろいところ。リズムに乗ってさらっと読んでしまいそうになるのですが、立ち止まって意味を深掘りしていくと、不思議でかわいい世界に迷い込んでいたなんてことも。


木村比呂(きむらひろ)

京都生まれ、東大阪在住。小説『ショートソング』(著・枡野浩一/集英社文庫)内の作中作のひとつとして、短歌連作「アイ・シンク・ソウ」を提供しています。
Twitter:@rahiro


谷じゃこ(たにじゃこ)

1983年大阪生まれ、大阪在住。短歌のzineを作るなどフリーで活動。『クリーン・ナップ・クラブ』『ヒット・エンド・パレード』『めためたドロップス』、フリーペーパー「バッテラ」(奇数月発行)など。鯖と野球が好き。
Twitter:@sabajaco
Web:http://sabajaco.com/

※今回のお題写真は、過去に大浪橋団地を撮影した写真記事から。撮影は佐伯慎亮。
https://karigurashi.net/ours/lifestyle-10-06/

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