部屋にうたえば

一枚の部屋の写真から
二人の歌人が短歌を綴ります。
29回はひつじのあゆみさんを迎えて。


生活の意訳    ひつじのあゆみ
起き抜けに開けた窓からちょうど今着いたみたいに春風が吹く
週末はギターを担ぎ川に行く 意味や価値への抵抗として
ラジオからくるり流れてこの街の周波数へと体が馴染む
助っ人がオープン戦で打ちまくりそのまま春の嵐になった
ミニトマト赤みを帯びて非生産的な暮らしの差し色になる
生活の意訳であろう 洗濯を干す時にふと口ずさむ歌詞
100円でQOLは上下して波打ち際で僕らは眠る


散歩したくなる窓    谷じゃこ
たくさんの洗濯物が浴びている光を浴びて起きたら昼だ
甘ったるい花の香りの石鹸をぜったい使い切るぞ週間
春は背が伸びる気がしてカーテンを白いのにしてよかったなって
散歩する人を見てたらしたくなる歩き散らかすと書いて散歩
でかければでかいほどいいポケットに右手はチョキで左手もチョキ
昼間からビールが飲めるレストランみたいにわたしを信じてほしい
やっぱ春がいっちゃんええわと春が言うモンシロチョウをひらひらさせて

ひつじのあゆみさんを歌人としてだけで紹介していいのか悩んでしまいます。素晴らしい短歌を作っているので歌人であることは間違いないけど、写真も撮るし、Tシャツのデザインもするし、大喜利もするし、Twitterでは大人気やし。なんかわからんけどすごい人、というのが一番しっくりくる。どんな肩書きも飛び越えてしまう多才な方です。
「なんかわからんけどすごい」から来る何者かわからなさは短歌にもあって、ひつじのあゆみさんの短歌は主人公像がはっきり読み取れないところがむしろ魅力になっています。どんな主人公をイメージしても当てはまる気がするのです。しかも「わっ、なんかわかる……」と刺さる内容でありながらかわいくて優しい短歌もあって、読者である自分が短歌の主人公の部分にすっぽりはまった時に、何者でもない自分のピースをひとつ見つけたような嬉しい気持ちになるのです。
それから、「粘菌歌会」というインターネット上の歌会をかみしのさん、猫のパジャマさんと共に開催しています。テーマに合った短歌を募集し、集まった短歌から3人がおもしろさや気になったことをおしゃべりする歌会です。投稿された短歌も個性的なものが多く、聴いたり読んだりするだけでも楽しいのですが、ビビッと来たら投稿してみるともっと楽しいですよ。


ひつじのあゆみ

京都府生まれ、府内在住。2014年頃に短歌と出会う。インターネット上の月例座談会「粘菌歌会」のメンバー。羊野歩の名前で写真家としても活動中。バラエティ番組と日本語ラップを好む。
Twitter:@ewe_your_you


谷じゃこ(たにじゃこ)

1983年大阪生まれ、大阪在住。短歌のzineを作るなどフリーで活動。『クリーン・ナップ・クラブ』『ヒット・エンド・パレード』『めためたドロップス』、フリーペーパー「バッテラ」(奇数月発行)など。鯖と野球が好き。
Twitter:@sabajaco
Web:http://sabajaco.com/

※今回のお題写真は、過去に千里青山台団地を撮影した写真記事から。撮影は沖本明。
https://karigurashi.net/ours/lifestyle-16-05/

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