部屋にうたえば

       

一枚の部屋の写真から
二人の歌人が短歌を綴ります。
33回はツマモヨコさんを迎えて。


風吹いてないのに    ツマモヨコ
ドー・ナ・ツのリズムでチャリに跨って期待をしない生き方がなに?
座敷ならやめとく感じの靴下で舐めとってみる床のざらざら
笑ったら帽子が飛ぶと思ってた風吹いてないのに押さえてた
舟とおなじ動詞で街をゆくたびに架空の川に増える丸石
モソモソのドーナツでいいひとと離れ、今はモソモソがいい暮らしだ
そういえば火打石って 飴を歯で鳴らす ほのおは感覚になる
ちちちちとチャリを停めればぬるい陽に父母の眉毛を思い出す


ちょっとどこまで    谷じゃこ
万歩計つけたわたしの一歩二歩散歩行くならケーキ屋も行こ
自転車に乗らない日にもむらさきの愛車へ軽く目配せをして
飛び跳ねるたびに心のおまもりが心配そうに揺れていますが
なめらかに開く自動ドア コンビニはなんも買わなくてもゆるされる
星を見て探すおいしいラーメン屋オープンは午前十一時から
宝石を砕いたようなまぶしさにかわいいシャツは汗を吸わない
上まぶたと下まぶたとでつかまえる随分先を歩くあなたを

ツマモヨコさんを知ったときすでにTwitter(現X)の企画王で、もはや何をしているのかついていけないくらい毎日飛び回っているスーパーガールという印象でした。その第一印象はツマさん本人と対面したあとでも変わっていません。短歌の評や感想を語るラジオ「ツマモヨコの短歌百葉箱」の配信や、作品をガンガン発表していく姿勢は明るく華やかでハッピー。まさしく令和の歌人。私はふるふるしていますよ。
2022年から短歌を作り始めたとは信じがたい完成度の連作を次々に作っています。生活、家族、お出かけ、アイドルやライブのこと、恋愛、本……、テーマは多彩でありながら、ツマさんの短歌には芯の通った強さがあります。その芯を作り上げているのは、どうやら読書と音楽のようです。自分は何が好きか、何が合っているかを、感覚的にすべてわかっているんじゃないかな。めちゃくちゃ読書家やし、言葉の選び方に鋭さ、並べ方に柔軟さがあるのも納得です。
発信力もパワフルやけど、それ以上に吸収する力がすごいんですよね。真面目に勉強しなきゃ、ということではなく、好きと思ったものを好きだと受け入れることのできる素直さが大切なんやなと、ツマさんを見ていると本当によくわかります。


ツマモヨコ

2003年生まれ。兵庫県在住。インターネットを中心に活動。短歌を募集し、感想を話すラジオ「ツマモヨコの短歌百葉箱」を配信中。
Twitter:@moyoko_bungaku


谷じゃこ(たにじゃこ)

1983年大阪生まれ、大阪在住。短歌のzineを作るなどフリーで活動。『クリーン・ナップ・クラブ』『ヒット・エンド・パレード』『めためたドロップス』、フリーペーパー「バッテラ」(奇数月発行)など。鯖と野球が好き。
Twitter:@sabajaco
Web:http://sabajaco.com/

※今回のお題写真は「URアンバサダーマガジン」より千里青山台団地。撮影:tomonchur 「URアンバサダーマガジン」は、UR団地に暮らすURアンバサダーがそれぞれの目線で住み心地や地域の魅力などを発信。Facebookで連載中。

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