Interview

いろいろな角度でまち・団地を”語る”専門家のお話。新たな一面が発見できるはず。

専門家が語る まち・団地への想い

青山大介さん(鳥瞰図絵師)

団地のひとインタビュー 018

鳥瞰図を描きながら見つめる神戸
―街の中の変わりゆくものと、変わらないもの―

鳥瞰図とは、地図の技法のひとつ。飛ぶ鳥の目線から見たように、立体的に街を描きます。
青山大介さんは、神戸を中心にその鳥瞰図を制作してこられました。鳥瞰図絵師ならではの視線で人の営みによって変わりゆく街、変わらない街の姿を見つめてきた青山さんに、神戸を案内していただきました。

青山大介さん(あおやま・だいすけ)

鳥瞰図絵師。1976(昭和51)年、神戸市長田区生まれ。高校時代に都市鳥瞰図の第一人者だった故・石原正氏の鳥瞰図に出会い感銘を受け、その後独学で鳥瞰図絵師を志す。2011年、『みなと神戸バーズアイマップ2008』完成。2014年に改訂し、『みなと神戸バーズアイマップ2014』完成。神戸市の津波避難情報板として市内3カ所に設置される。神戸を題材の中心に作品作りを続ける。神戸波止場町TEN×TEN内に常設ギャラリーを持つ。2017年、神戸開港150年を記念して、『みなと神戸バーズアイマップ2017』と、開港当時の神戸を描いた鳥瞰図を制作した。

鳥瞰図の描き方
鳥瞰図ってどうやって描くのでしょうか?

青山:地図を確認する、すべての道を歩いて地上写真を撮る、航空写真を撮る。それらを統合して、地図の上に手作業で道と建物をひとつひとつ立ち上げていく。地道な作業です。今は技術が発達しているので、ずいぶんやりやすくなっています。

グーグルマップなどですか?

青山:それと、デジカメの存在。現像代がかからなくなりました。ヘリを飛ばすのも安くなりましたし、資料も入手しやすくなりました。線は手描きですが、色はデジタルでつけています。ちなみに初めて制作した『みなと神戸バーズアイマップ2008』は、サラリーマンの仕事の合間に描いていたこともあって、完成までに3年半かかりました。

街はいつもどこかで変わり続けている
青山さんが鳥瞰図を描くきっかけになった石原正さんも、神戸を描かれていたことがありますね。

青山:震災の10年以上前の1981年に「神戸絵図」を描かれています。それと同じアングルで僕も描くようにしています。定点観測のつもりで。

街の変化がわかっておもしろいですね。

青山:今立っているこのポートタワーの東側の広場は、当時はまだ海です。

ポートタワー周辺(みなと神戸バーズアイマップ2017)

ポートタワー周辺(みなと神戸バーズアイマップ2017)

左・中:昔は海だった広場と橋桁。右:屋根の形が特徴的な結婚式場。2017年改訂版(上)にはその姿が描き写されている。

左・中:昔は海だった広場と橋桁。右:屋根の形が特徴的な結婚式場。2017年改訂版(上)にはその姿が描き写されている。

ここは埋め立てられた海だったのですね!

青山:昔、積荷はいろんな大きさと形をしていて、小さな「はしけ」という船で桟橋まで運んでいました。このあたりは「はしけ」がたくさん集まる「はしけ溜まり」と呼ばれる場所でした。

昔は人力で積み下ろしをしていたのですね。

青山:積荷の積み下ろしに一週間から十日ほどもかかり、その間船乗りたちは神戸に滞在していたので、外国人用のバーがたくさんあったそうです。

十日とは随分長く滞在していたのですね。

青山:コンテナという世界共通の規格ができて海運の世界は変わりました。大きな船で大量に運び、あの巨大な赤いキリンのようなガントリークレーンで港に直接降ろすようになります。浅い港には船は入れないので、港としての機能はポートアイランドや六甲アイランドに移りました。積荷の積み下ろしもせいぜい半日で済むようになり、船乗りが陸に上がる時間もなくなって、街の様子も変わりました。

2008年(左)は突堤に並んでいた倉庫は撤去された後で、2017年(右)には2015年に完成したホテルと温泉施設が描かれている。

2008年版(左)は突堤に並んでいた倉庫は撤去された後で、2017年改訂版(右)には2015年に完成したホテルと温泉施設が描かれている。

時代とともに求められる役割が変わり、街の姿も変わっていくのですね。
「はしけ」の浮かぶ海だったこの公園も、2017年の開港150周年記念に合わせて整備がすすめられている。

「はしけ」の浮かぶ海だったこの公園も、2017年の開港150周年記念に合わせて整備がすすめられている。

ほかに、神戸の街ではどんな変化があったのでしょうか?

青山:明治の頃の栄町通りは銀行や証券会社が集まり、東洋のウォール街とまで呼ばれた場所でしたが、その後合併などで銀行が減り、残りも三宮周辺へ移転し跡地にマンションが建ち並んでいます。
昭和中期までの神戸は、港を中心とした重厚長大産業の街でした。その後、人の暮らしを中心にした街へ変わりました。特に元町から西元町にかけて大きなマンションが増えています。朝の連続テレビ小説「べっぴんさん」のモデルになったファミリアの本社ビルも解体され、これからタワーマンションになろうとしています。

2008年(左)中央の空き地に、2017年(右)には高層のマンションがいくつも建つ。

2008年(左)中央の空き地に、2017年(右)には高層のマンションがいくつも建つ。

変わっていく街の中の、変わらないものに目を凝らす

青山:逆に、昔から変わらないものもあります。例えば、海岸線や川、道。神戸は海岸線を埋め立てて、海へ海へと張り出していっています。でも歩いていると、急に緩やかな坂道が平らになるところがあります。そこがかつての海岸線です。「メリケン波止場」の名で親しまれる波止場町1番地地区は神戸港が開港した150年前の港の姿をほぼそのままいまに伝える貴重なエリアです。

古い海岸線の気配を感じながら、街を歩くのは刺激的です。

青山:あの国道2号線に架かる横断歩道橋を見てください。手摺の上を一部、柵で囲っていますよね。あれは昔、下を電車が走っていた名残で、投石防止の柵なんですよ。

青山:江戸時代の街の区画割を引き継いでいるような雰囲気の場所もあります。

ここって南京町ですよね?
うなぎの寝床のような区画に建つ「ジェムビル」(鳥瞰図画面中央)。元町1番街から神戸南京町へ通り抜けることのできる唯一のビル。(みなと神戸バーズアイマップ2017)

うなぎの寝床のような区画に建つ「ジェムビル」(鳥瞰図画面中央)。元町1番街から神戸南京町へ通り抜けることのできる唯一のビル。(みなと神戸バーズアイマップ2017)

青山:江戸時代は間口の広さに対して税金が掛けられていたので、間口をできるだけ狭くしていました。このビルは、東西に走る道の間を繋ぐような細長い土地に建てられています。

ほんとだ、通り抜けると北側の商店街にたどり着けます。こういう場所は他にもあるのですか?

青山:たくさんあります。鳥瞰図のために街を歩いていると、思いがけず古い街並みが浮かび上がってきます。昔から郷土史が好きだったので、趣味と実益を兼ねた仕事ですね。(笑)

震災/防災と鳥瞰図と街

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 青山さんの鳥瞰図が、神戸市の津波避難情報板として採用されていますね。

青山:東日本大震災の後、2014年に神戸市の公募で集まった市民の方々が、三ノ宮駅、元町駅、神戸駅のそれぞれ近くに設置する津波避難情報板として、採用することを決めてくださったようです。

これは見やすいですね。南北がはっきり分かるようにしてあるし、地図の奥にある道まではっきり見える。よくある白黒の地図に等高線がかぶせてある地図より直感的に把握できます。

青山:地図の奥まではっきり見える、つまり奥行き感がないということですが、これは鳥瞰図の技法のひとつ、アイソメトリックというものです。

防災マップに採用されるということは、地図としての正確さが評価されているのだと思います。

青山:ビルの窓や街路樹の数まで、出来る限り正確に描いています。

色も形も細かい部分までリアルなので、いざという時にはわかりやすくてよさそうですね。神戸は観光地なので外国の方にとっても、絵でわかるというのは大事なのでしょうね。
市役所周辺(みなと神戸バーズアイマップ2017)

市役所周辺(みなと神戸バーズアイマップ2017)

青山:地震というと、僕自身も高校生の時に被災しましたので、自分の仕事で防災に貢献ができるというのは嬉しいです。阪神・淡路大震災から街が復興していく過程を見てきて、震災のことを残しておきたいという気持ちがあり、「みなと神戸バーズアイマップ」の東遊園地の花時計は、震災が発生した時間にしています。

ほんとだ、5時46分ですね。
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市役所周辺地図の花時計部分拡大図(画面右上)

青山:今、「みなと神戸バーズアイマップ」の2017年改訂の準備をしているところです。こうした地図が、数百年後には古地図になるのを想像しますね。

貴重な資料になりますね。

青山:震災があっても、人がいるのは変わらない。神戸の街は人の営みに合わせて姿を変え続けて来ました。街を歩くと、過去の土地の姿を伝えるものがたくさんあるのがわかります。同じようにこれから先、数百年経っても変わらないものがあるはずです。それを伝える仕事をしているんだと感じています。

防災とまちづくり、変わりゆくものと変わらないもの。URのまちづくりにもなくてはならない視点ですね。

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今回紹介した「みなと神戸バーズアイマップ」の2017年改訂版と、1868年の神戸開港当初版は、神戸開港150年にちなんで描かれたものです。神戸開港150年記念事業期間中、神戸市役所24階展望台ロビーで公開されており、150年間の変化を見比べることができます。

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