artproject_stage6
ディスカッション2
ステージ5でご紹介した第2回フィールドワークを受けて、学生たち(芸術計画学科の12名)と谷悟先生が、ディスカッションのために講義の合間に集まってくれました。フィールドワークした大阪南部の4つの団地に対する学生たちの感想とアイデアが飛び交いました。
〜『見立て』がアートを楽しくする〜
藤沢台第3団地には、子どもが触れて遊べるような松本鐵太郎氏の彫刻作品「子供」と「はと」が設置されています。 今回のフィールドワークで、この二つの作品は学生たちにとって印象の強い作品となりました。 例えば、「頭の部分が触られているようだったので、頭を触ったり握手をしたりするとご利益がありそう」 という感想や、「実際に作品に近づくと音が発せられたり特殊技術を使って動いたりすると、もっと地域の子どもたちに親しみを持ってもらえるのではないか」 というアイデアもありました。
松本鐵太郎氏の彫刻作品「子供」
松本鐵太郎氏の彫刻作品「はと」
また、谷悟先生は作品のみならず、団地内のあちらこちらに視線が飛びます。雨の滲み込みでできた黒くぼやけた住棟の壁の模様を見て、「渋い墨絵に見える」 と古美術的な味わいを見出し、愉しんでいました。 それこそは、『見立て』。 既存の概念を飛び越えた空想力がアートを楽しくさせる秘訣だということを、学生達に伝授していました。
谷悟先生が渋い墨絵に見立てた、藤沢台第3団地の住棟壁面にある黒くぼやけた像。
同じように、『見立て』による空想力では、中百舌鳥公園団地でも…。パブリックアートではないのですが、住棟と住棟の間に設けられた公園スペースにある構造物を見て、「これはまさに子どもの目線からは宇宙基地や宇宙船のように見えるだろう」 と語っていました。また、積み上げられたブロック塀を見て、「団地の中の団地のような錯覚を覚えるから、造形的にこの塀を利用して作品展示もできるのではないだろか」と、次から次へと『見立て』のコツを教えていました。
学生からは、大きなパブリックアート作品の「雷の一升桝」についてコメントが述べられ、 「一番上に座っているキャラクターがこの団地に住む皆を見守っているように見えることから、作品はただ鑑賞するためだけではなく、住民の生活に溶け込むものであってもいい」という意見が寄せられました。また、団地内全体の雰囲気を活かして、「ドラマの撮影などにも利用できると思うし、期間限定のお化け屋敷などを計画して家族で楽しめるミニイベントを開催してもいいのではないか」、「中央に広がる公園の敷地はどことなく儀式をする場所、神聖な場所に思えるので、夏の夜には松明を灯してお祭りのようなこともできそう」というアイデアが語られました。 谷悟先生の『見立て』の仕方が、学生たちの空想力を目覚めさせてきたように感じます。
谷悟先生が宇宙基地のようだと言う、中百舌鳥公園の構造物。
左:積み上げられたブロック塀
右:大きなパブリックアート作品の「雷の一升桝」
フィールドワーク後に学生たちがまとめた資料。
〜アートになるためのストーリーづくり〜
3番目の訪問地となった住吉団地では、レンガタイルを使った住棟を、映画やテレビドラマで知られる「オズの魔法使い」の世界のように見立てたり、住棟の壁に描かれた模様を楽譜に書かれたト音記号のように見立てたり…と、様々なアイデアが提案されました。学生たちが生まれるずっと前の昭和40年代の前半に建てられた団地の佇まいに、メルヘンチックな感情や不思議な感覚を重ね合わせ、若者らしいストーリーを見つけていました。
レンガタイルを使った住棟
学生がドラマの撮影などに利用できそうだと言う、住吉の風景。
最後に訪れた酉島リバーサイドなぎさ街は、住吉団地とは一変する佇まいです。 学生からは、「美しい景観と星座をテーマにしたアート作品を活かして、参加者が夜空に溶け込むような黒い服装で小さなライトを持ち、クリスマスソングを歌いながら歩くと住民参加型の幻想的なアートイベントができると思います」 とアイデアが生み出されました。 しかし、「コンセプトがしっかりしているので、新しいストーリーを考えても既存のコンセプトに引っ張られてしまうと思う」という学生の意見もありました。きちんとプランニングされたパブリックアートは、柔軟な学生の『見立て』の発想力を高めると同時に遠慮させてしまうこともあることが、学生自身の学びになったと思います。 プランニング会社によるプロデュース。すなわちストーリーが確立され統一感のある作品と、団地全体の景観の美しさを演出するアートプランニングの魅力が語られた一方、強すぎると新しいストーリーを想定しにくいという一面も。学生たちは、アートプランニングの難しさに気づかされたのではないでしょうか。
酉島リバーサイドなぎさ街にある、AD&A社プロデュースによる作品、『天の川の星 広場モニュメント』。
撮影:長谷川朋也
今回のフィールドワークで学生達が学んだことは、『見立て』による発想の仕方、プランニングの難しさや楽しさです。そして、見る人や感じる人にアートの素晴らしさを伝えるストーリーづくりが不可欠であることを実感できたのではないでしょうか。