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今日も団地では楽しい笑い声が聞こえます。人と人がつながる”団地暮らし”の魅力とは。

人と人がつながる 団地暮らしの魅力

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ディスカッション4 

前回のフィールドワークは、復興住宅の歴史を持つ神戸や西宮の団地を訪ねました。リサーチに参加した学生たち(芸術計画学科の8名)の意見をまとめたのが、今回のディスカッションです。3回生を中心にアートプランニングにつながるアイデアや、アート作品の持つ力について語ってくれましたので、学生たちの言葉を中心に紹介していきましょう。

 

〜震災復興に求められるアートの力を実感〜
HAT神戸灘の浜は、阪神・淡路大震災時の復興住宅として整備されました。
学生の清水さんは「団地入口にある榎 忠さんの作品は、神戸製鋼の溶鉱炉に用いられた部品を用いているので、震災からの復活や成長という意図を感じましたが、作品の底部に用いられた鉄の部分は錆びていて時間の経過を感じられ、見る人にインパクトを与えると思いました」と感心し、アート作品の持つ意味を意欲的に調べている様子でした。


神戸製鋼の回収品を利用した榎 忠氏の作品、『スボラ号』『バブル号』『シード号』『ポーレン号』の一部。作品全体で神戸の遺産を表現している。

 

「三島喜美代さんの『WORK-N』は、現代社会へのメッセージになっていて迫力もすごいですね。こういうものがJR大阪駅前など人々の往来が多い場所に設置されるとメッセージ性が高まると思います」と、学生の横山さんはアート作品が持つ可能性について語ってくれました。

三島喜美代氏の作品、『WORK-N』。

 

多くの学生が意見を出してくれたのが、西野康造氏の『SILENT-SKY』です。浜風に吹かれてゆるやかに回転するオブジェで、空を見上げて初めて気づくそのシルエットは様々に変化し続けます。
「止まることなく変化し続けることが、まるで生きているよう。団地の心臓に思えたのは僕だけでしょうか?」と西森さん。
浦川さんは「どんな動きをするのか予測できないので、無心になりたい時や悩み事がある時に眺めていたい作品です」と感想をのべ、空を見上げるという行動から、被災者のみなさんに希望を感じていただける作品であると、学生たちも気づいた様子でした。


海風にゆられて様々に変化する西野康造氏の作品、『SILENT-SKY』。

 

〜パブリックアートとの寄り添い方〜
HAT神戸脇の浜は、建築家の安藤忠雄さんが設計に携わった団地です。この団地で特徴的なのは、住棟の上層階の隅に、吹き抜け空間が設けられていることです。住民のみなさんのコミュニティスペースとして活用され、少しでも心のゆとりを感じてほしいと配慮されてつくられました。


HAT神戸脇の浜に設けられた上層階の吹き抜け空間。


「暮らしの中に存在するパブリックアートは、人々に共感され、人々を引き込む力が求められます。同時にアートプランニングを志す学生も、作品との距離感を大切にする必要があります。あくまでも、双方が寄り添う。復興を目的とした団地のパブリックアートには住民とのちょうどいい距離が求められたと思います。

あれから約20年。いま、この場所でアート作品の役割が変わりつつあるように思います。そこに若い力が新しい風を送ることも大切なことです」と谷悟先生。これからアート作品の目的は、どのように変化していくのでしょうか。
伊藤誠氏の『あたたかい空気(Warm air)』は、ユーモアなリング状の形にコミュニティのつながりを象徴している作品です。 「見る方向によっては、人間の横顔のようにも見えるので、作品に吹き出しをつくり、団地の住民のみなさんに思っていることを書いてもらってもいいのでは」と、門さん。住民の心に寄り添う工夫をアート作品を使って“ひらめいた!”楽しいアイデアです。


伊藤誠氏の作品、『あたたかい空気(Warm air)』。パブリックアートの新しい鑑賞法?!

 

白井美穂氏の『雲わく広場(Cloud Forum)』は、西遊記をモチーフにした作品です。
「車止めの代わりとして作品を設置しているので、住民の生活を阻害することなく、彩りやゆとりを与えられるのが自然でいいと思いました。生活の中に寄り添いながら西遊記という物語性を伝えられるのもアートの力だと思います」と、清水さん。



白井美穂氏の『雲わく広場(Cloud Forum)』。

 

〜作家の想いを風化させないために〜
西宮マリナパーク丘のある街も、復興住宅の役割を担って建てられています。「福嶋敬恭さんの『宇宙の詩』は、僕には大きな浮き輪、通り抜けフープ、プールのように思えました。限られた円の中は、安心できる空間であり、また、逃げ出せないような気持ちにもさせられました。○はいい印象、×は嫌なイメージということを改めて考えました」と、学生の横山さん。


福嶋敬恭氏の『宇宙の詩』。


同じ福嶋氏の作品『地球家族』には、学生たちの意見が集まりました。 清水さんは「色からイメージされる言葉が刻まれていて、震災復興のための作品という感じが強く素敵だと感じました。ただ、作品の周りに自転車が止まっていたのがとても残念」という。


福嶋敬恭氏の『地球家族』。


一方で、「作品の周りにたくさん自転車が置かれていたので、自転車と作品を合わせてAR(拡張現実 ※スマートフォン等のカメラを通し、実在しないものをカメラごしに見せたりする技術)で表現してもおもしろいと思いました」と島田さん。学生の発想で見方が変わるという興味深い経験も、フィールドワークの成果だと思います。
最後に、「年月の経過で、パブリックアートを手掛けた作者の想いも薄れつつあるように思われます。私たちは住民と一緒になってその想いを風化させないようにしていきたいですね」と、谷悟先生がまとめました。


福嶋敬恭氏の『この美しい星の庭』を観察する学生たち。


4回にわたるフィールドワークとディスカッションで、アートプロジェクトを展開させる準備作業は終了しました。これからは、フィールドワークで得た経験を活かし、住民のみなさんと学生が一緒になって新しい取り組みにチャレンジします。どうぞ、ご期待ください。

 

撮影:長谷川朋也

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