Interview

いろいろな角度でまち・団地を”語る”専門家のお話。新たな一面が発見できるはず。

専門家が語る まち・団地への想い

福廣勝介さん(造園設計)

団地のひとインタビュー 020

~ 花園団地の修景は設計者意図、人為を超えた産物だった~
京都市右京区にある花園団地。妙心寺からヒントを得てつくられたという小径(こみち)と、その小径を歩いていくと、所々に現れる巨木が、この団地の何よりの特徴である。小径は上品な和のデザインで、豊かな緑との調和は美しく、まさに「京都らしい」。特に紅葉の時期はその美しさに魅了される。
さて、誰がこのような「美しさ」を考え出したのだろう。どんなきっかけがあったのか、どんな想いがあったのか。当時の設計担当、福廣勝介さんに花園団地について話を聞いた。

福廣勝介さん(ふくひろ・しょうすけ)

花園団地、グリーンヒル御影、武庫川団地など、さまざまな団地造園設計を手掛けたUR OB。自然の恵みに感謝し、自然や地域に出来るだけ負担を掛けない。そんな思いで団地内の緑に気を配って来た。その環境「さわやかやなあ」「おもろいなあ」と感じてもらいたいと言う。素足感覚が好きで、この日も雪駄で登場。
 
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~福廣勝介、花園を語る。~
Ⅰ①小径と巨木

Ⅱ②細部にわたるこだわり、③職人さんが手がけたこだわり
Ⅲ④その地の歴史を知る、⑤住民さんとの対話、⑥景色は住民さん達がつくる

Ⅰ①小径と巨木

どういう経緯でこの小径をつくろうと考えたのですか?

福廣:この団地をつくろうとしたとき、京都市の指導で駐車場を設置しなかった。住棟の配置計画をする際、まず最初に決めたことは既存の樹木は生かすこと。敷地には、大きな木・変わった木が多かったから、樹木を残す・樹木を生かすと言う確固たる意思。それを第一条件にして、あとはシンプルに住棟を平行に配置をしただけ。通路はその次。

この小径はつくろうとしてつくったわけではないのですか?

福廣:この小径をデザインしようとして、つくったわけではない。用の美。木は残す。通路を通す。すると、この路は必然とできた。


通路の色の濃い部分はイブシ陶板敷

 

用の美。美しい言葉ですね。正面に木があって、ポンとあたってクランクして、構成が絶妙です。必然とできたような道には思えませんね。

福廣:クランクは狙ったのではなく、既存木の位置考慮の結果としての、クランク。これは、人為を超えた、天の声のようにも思う。通路の処々に敷いたイブシ陶板は意匠性を意識したけどね。

 

Ⅱ②細部にわたるこだわり

 

なぜ塀という発想をしたのですか?

福廣:妙心寺がヒントになった。妙心寺の塔頭の間の通路を、周辺の人は、みんな通っている。塔頭と通路の間には塀があって、通る人からは塔頭が半分見え隠れで、通行人・塔頭双方がお互いを遠慮しなくていい関係になっていた。パブリックと、プライベートの境。

福廣:外部の人に積極的に通ってもらおうとしても、住んでいる人は、住宅のベランダに路が近いと嫌がる。ここに塀があることで、安心感を与えている。塀の高さには、とことんこだわった。そして、塀連続の緊張の息抜きとして、処々に隙間をつくりルーバーをはさんで、リズムを刻んでいる。塀の笠石もイブシ陶板。

 

 

団地出口に味のある字で「下乗」と書かれている石がありますね。

福廣:昔の言葉で、馬から下りろ!いう意味で、「下馬」という言葉がある。そこで今の時代に合わせて、車輌通行禁止を「下乗」とかいた。字もその時代をにおわせるような字体に。後で「下乗」も同じ意味の古い言葉だと知った。

ササがあると和を感じますね。

福廣:ササは「植えた」のではなく、ササを「張った」。

「ササを張る」とは?

福廣:芝は芝のマットを張るので張芝という。ササはふつう「植える」が、ここのササは山からマットのように剥いできて、それを張っている。「張笹」。施工後に業者から聞いたら「すごい手間がかかった。もう二度とやりたくない」と言われた(笑)。

 

Ⅱ③職人さんが手がけたこだわり

このベンチも味がありますね。

福廣:江戸時代、海辺の護岸に使われていた庵治石(あじいし)を使った。設置当初、まだ貝殻が付いていた。味がある石だから庵治石(笑)。巨木、と石などの工作物、「形のデザイン」ってとこかな。

何度みてもあきないですね。座りたくなります。あっ、ベンチで本を読んでいる男性がいますね。

福廣:団地の屋外で、外に座って本を読む姿はなかなか見ることができない。嬉しいね。

 

Ⅲ④その地の歴史を知る。

設計する上で他に意識したことは何ですか?

福廣:地域への仁義。団地なんかが、既存の地域へ入っていくときは遠慮しないといけない。京都はすでに出来上がっている街なのに、そこに、いきなり大きな団地を建てていいのか、と思った。京都在の造園コンサルさんに案内されて、ご当地は、妙心寺の地域文化が根付いている古い街だと最初に学んだ。地域の歴史・自然文化に敬意を払い、継承しないといけない。この地は京都繊維大学の跡地であり、オープンスペースに、大きな木がいっぱいあった。大木以外にも、ハナキササゲ・チャンチンなど,繊維学部跡だけに、養蚕飼料用実験に使われたのか?クワ科の大木もあった。残すのが仁義であり、当然。おもしろいと思った。「想いのデザイン」ってとこかな。


敷地歴史の説明版

 

Ⅲ⑤住民さんとの対話

おもしろい看板がありますね。

福廣:普通は、「樹木を大切に」程度で、おもしろくない。今はなくなっているが、当初は他にも「地面に虫が住んでいるかもしれませんよ。」もあった。この看板を見た住民さんは「来年はどんな花が咲くのかな。」とか「どんな虫がすんでいるのかな。」とか考える。設計者と住民の対話。設計した人の想いが伝わる。


木をたいせつにして来年もきっと花をさかせましょう

 

Ⅲ⑥景色は住民さん達がつくる

正面からこどもが走ってきますね。

福廣:電車になった気分かな、側溝がレールかな。子供がころころと走って来る。こんな姿、景色は、設計イメージを超えている。そして、ご当地の景色は住民さん達がつくり続けてゆく。

「金色の ちひさき鳥の かたちして 銀杏ちるなり 夕日の岡に。」(与謝野晶子)子供がいちょう並木の間を走ってくる様子を見て、福廣さんが口ずさんだ一句。

所在地:京都市右京区花園鷹司町1・8-1・25・25-1

 

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